「動態保存」で継ぐものづくりのロマン(日本工業大学)
学食・博物館特集Date: 2025.12.12
大学ミュージアム図鑑 [第6回]
工業技術博物館 (日本工業大学)

1993年に工業技術博物館に寄贈され、動態保存中。撮影日は、メンテナンスの一部を担っている学生が、特別に牽引機で機関車を動かしてくれた。
※2025年12月発行BILANC vol.38に掲載
構成:八色祐次
撮影:加々美義人
編集:プレジデント社
「動態保存」で継ぐものづくりのロマン
日本工業大学の正門を入って右へ。『箱根登山鉄道モハ1形-103号』が見えてきた先にある3000㎡の大きな建物が工業技術博物館です。
開設は1987年。学園創立80周年を記念して誕生した博物館には、日本の産業技術の発展に貢献した代表的な工業製品が400 点ほど展示されています。
「世界初や日本最古といったキャッチーな機械はないのですが……」
学芸員であり同博物館の主任を務める上原嘉宏さんはこう謙遜しますが、館内には、興味深い機械が満載です。
例えば、約270台ある金属部品などを加工する工作機械の7割ほどが、「動態保存」されていて、すぐに動かすことができます。明治、大正、昭和につくられた工作機械が当時さながらに動く様は見ているだけで楽しいですし、どれも学術的価値も高いといいます。


1907年から65年間操業していた植原鉄工所を復元。NHK朝ドラ『梅ちゃん先生』のロケ地としても使用。
しかも、展示するにあたってホコリは取り除いていますが、表面の塗装をし直すようなことはせず、当時のままの姿を保存しているとのこと。
「塗装の剥がれ具合やその位置から、どの部分が剥がれやすいのかなどを知ることができます。機械を設計する人にとっては、こんな情報も価値があるものなのです」(館長・清水伸二さん)

年代順に並べられた機械は圧巻。
機械は年代順に並べられているので、進化の歴史を、目の前にある実物を比較しながら学ぶことができます。「戦前の国産機械の多くは、ドイツやアメリカなどの名機をコピーしつつ、日本人の体形に合わせて設計し直しております。並べて展示されているからこそ、違いも実感できます」(上原さん)

左:日本における動力付き飛行機による初飛行に参加していた日野大尉が私的に設計・製作した2号機の復元機。
右:『自動歯切盤』。グールドエバーハート社製、1901年製造(写 真右)。歯車を加工するための機械で、左は学生が3年がかりで複製したもの。

経産省『ムーンライト計画』で試作された出力10万キロワットの『レヒートガスタービン』。
幅広い来館者が楽しめる工夫を
工業技術博物館が展示方法に工夫を凝らしているのは、学生や企業の新人、中堅技術者、一般市民の方など、幅広い来館者に「楽しんでもらい、ものづくりの楽しさへの理解を深めてもらいたい」(清水さん)からです。
「最近は、『機械』がピンとこない時代。小さい頃からものづくりに興味を持ってもらいたく、小中学生を対象にしたイベントを行う一方、企業の新人研修も受け入れるなど、専門家の育成も支援しています」(清水さん)
そのためにも、動く状態での保存が重要だと清水さんは言います。
「動態保存だからこそ提供できる体験を、一人でも多くの人に体感していただき、電車や自動車など、私たちの生活を支える身近な機械や、衣食住に関わるさまざまな機械を『機械』として再認識し、それらをつくりだしている『工作機械』に興味を持ってもらえるよう、これからも博物館の充実に取り組んでいきます」(清水さん)

『箱根登山鉄道モハ1形-103号』。2019年の引退後、静態保存されている車両。

走行により真円度が悪くなった鉄道車輪を加工する『車輪旋盤』。
前回までの博物館ご紹介の記事はこちら
○ 東北福祉大学 芹沢銈介美術工芸館(栴檀学園)
○ 楽器ミュージアム(武蔵野音楽大学)
○ 「食と農」の博物館(東京農業大学)
○ 大阪青山歴史文学博物館(大阪青山大学)
○ 恐竜学博物館(岡山理科大学)
