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気になる年金 3つの誤解を解く!

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「生涯現役社会の実現」を目指す動きが加速しています。公的年金の受給開始年齢の引上げもその一環ですが、年金といえば高齢期の経済基盤として大切な存在。引上げを受け、どんな点に留意すべきなのでしょうか。

監修:日本私立学校振興・共済事業団 年金部

文:江頭紀子 
編集:プレジデント社

~定年は引き上げ傾向

高年齢者雇用安定法では、65歳までを対象に、事業者に「定年制の廃止」「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じるよう義務づけています。加えて2021年4月1日からは、70歳までを対象に、「業務委託契約の導入」「社会貢献事業に従事できる制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じることが努力義務とされました。つまり、国はできるだけ長く働き続けることを奨励しているといえます。
では現在、私立大学等における定年はどのような状況になっているのでしょうか。私立大学退職金財団が維持会員を対象に実施したアンケート(2022年度)では、教員の定年を65歳としている会員が60.7%と最多でした。職員の定年は60歳が49.1%、65歳が36.9%となっています。2004年度調査では、教員は65歳定年が47.0%だったため、65歳定年の学校法人が増えているといえます。ただし70歳定年は22.7%から11.3%に減るなど、定年が高年齢化しているわけではないことがわかります。
また、「継続雇用の導入」は、教員で65.4%、職員で75.2%と、多くの法人が制度を設けている一方で、「高年齢者就業確保措置」への対応は、教職員ともに「検討していない」との回答が半数前後でした。

【私立大学等の教職員別定年年齢の推移(私立大学退職金財団調査)】
BILANC32ワンポイント 復習講座 第2回(65歳定年)
※本文は取材時の2022年度の結果で説明していますが、上記図表は最新の2023年度の結果までを表示しています。
※本調査の回答は法人内で最も適用者の多い年齢を回答したもの。よって、回答以外の定年年齢が適用されている場合があります。

~年金の基礎知識

ここからは、退職後の生活を支える年金の基礎知識を確認していきましょう。
私学の教職員は、一部を除き日本私立学校振興・共済事業団(以下「私学事業団」)における共済制度の適用を受けています。その場合支給される年金は全国民共通の「国民年金」、被用者年金制度として適用される「厚生年金」、そしてその上乗せにあたる共済制度独自の「退職等年金給付」の3種類です。
「国民年金」の額は加入期間の長さに比例して計算され、基礎年金として日本年金機構が支給します。「厚生年金」の額は、加入した期間の長さと加入者の報酬等に比例して計算されます。
「退職等年金給付」は、2015(平成27)年10月1日に被用者年金制度の一元化に伴って廃止された共済年金の職域部分に代わって新たに創設された、積立方式の年金です。「厚生年金」と「退職等年金給付」は私学事業団が支給します。私学共済の加入者は、短期給付(健康保険)、年金等給付、福祉事業にかかる掛金等として、事業主(学校法人)と加入者が折半して、給与からの天引きにより納付しています。
年金等給付については、老齢給付(一定の年齢に達したときや退職時に支給される年金)が一般的。老齢厚生年金の受給開始年齢は、原則65歳となっています。ただし、平均余命が延びてきていることを背景に、以前の60歳から65歳に段階的に引き上げられており、今まさにその途上です。
具体的には、1961(昭和36)年4月2日以降に生まれた人は、私学共済の老齢厚生年金について男女とも65歳からの受給です。これより前に生まれた人は、60歳から65歳へ引き上げるにあたって経過措置があります。一定の要件を満たせば60歳から64歳までの間に受給権が発生し、その翌月から65歳到達月分まで受給できます(これを「特別支給」といいます)。
特別支給の決定を受けている人は、65歳に到達すると「本来支給」の老齢厚生年金に切り替わり、併せて老齢基礎年金も受給できるようになります。
なお、一般企業の老齢厚生年金の場合、男性の受給開始年齢は同様ですが、女性は1966(昭和41)年4月2日以降に生まれた人が65歳からの受給になります。

~受給は繰下げが得?

年金制度は複雑で、誤解してしまうことがあります。ここでは、よくある誤解について解説します。
その誤解は、
①受給開始年齢の引上げは損。
②繰下げ受給のほうが得。
③老齢厚生年金はそれぞれで受給開始年齢を設定できる。

というものです。
まず、①の「受給開始年齢の引上げは損」について。そもそも公的年金制度とは、下の世代が上の世代を支える「世代間扶養」の社会保険制度であり、損得勘定で語ることはできません。「自分の積立金が戻ってくる」といった性質の制度ではないことを、まずは理解することが大切です。
国の財政的視点でみると、少子化により世代間扶養が先細っていることが問題になります。こうした側面を勘案して、これまで年金制度は見直しが行われてきました。現在、受給開始年齢は60歳から65歳へと引き上げ途中ですが、「受給開始年齢が上がると受給金額が少なくなる」と単純に考えるのは適切ではありません。平均余命が延びているということは、昔の人より長く受給できる可能性が高い、つまり、受給開始年齢が引き上がったとしても、長い期間もらえる可能性があるからです。
②の「繰下げ受給」とは、年金の受給開始年齢を自らの選択で遅らせることをいいます。受給開始時期を繰下げると、一定金額が加算されます。このため「繰下げ受給のほうが得」と見えるかもしれません。繰下げの上限は、かつては70歳でしたが、現在では75歳までの仕組みが導入されています。例えば、100万円の年金を65歳から受けられる人が75歳まで繰下げたとすると、1カ月あたり0.7%増えていく計算式なので、10年間だと84万円増額、つまり受給開始時は184万円となります。
しかしこの措置を取ると、年間100万円の年金が75歳まで支給されないことになります。10年間の合計は1000万円です。仮に75歳で受給を開始した場合、10年間受け取れれば1840万円になります(図表参照)。

BILANC32ワンポイント 復習講座 第2回(65歳定年)

しかし、平均余命が延びているとはいえ、自身が何歳まで生きられるかは未知数ですし、生活環境や価値観によっても経済基盤の充実具合は異なります。これについても誰もが繰下げ受給が必ずしもいいとは一概に言えないのです。
したがって、こうしたことを理解した上でライフスタイル等を勘案して繰下げ受給を選択するかを慎重に判断する必要があります。
③の「老齢厚生年金はそれぞれで受給開始年齢を設定できる」について。これは、一般企業勤務の分(日本年金機構支給)、公務員勤務の分(公務員共済支給)、私学勤務の分(私学事業団支給)のそれぞれで「受給開始年齢の繰上げや繰下げを設定できる」という意味ですが、これも誤解です。現在の被用者年金制度は一元化されているため、老齢厚生年金として一体で請求しなくてはなりません。その仕組みを理解した上で申請するようにしましょう。
また、退職等年金給付における退職年金は、積み立てた原資の半分を終身、残り半分を有期(10年、20年、一時金のいずれか)として受給することができます。加入期間の長短などによっては一時金での支給を選ぶなど、ライフスタイルによって選択することができます。
高齢期になったときに経済基盤に不安を感じないためにも、早いうちに年金制度を正しく知り、理解しておくことが大切です。

ワンポイント復習講座
○ 65歳定年についての続き 定年=強制退職が存在する理由:山田篤裕
○ 前回:アップデートされた「退職金」のいま:谷内陽一

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