「同感」は不要。「共感」で寄り添え
構成:野澤正毅
撮影:石橋素幸
編集:プレジデント社
傾聴とは「心の耳」を傾け、言外の「心の声」を聴く行為
日本傾聴能力開発協会代表 岩松 正史氏(いわまつ・まさふみ) 心理カウンセラー、傾聴講師、一般社団法人日本傾聴能力開発協会代表。人材育成の専門会社を経て、日本傾聴能力開発協会を設立。2007年開始の「傾聴1日講座®」は開催380回、受講者5000人以上。著書は『「ねえ、私の話聞いてる?」と言われない「聴く力」の強化書』(自由国民社)、『その聴き方では、部下は動きません。』(朝日新聞出版)。 |
~会話の「聴く」は能動的な行為
皆さんは「傾聴」というワードから、「相手の話に熱心に耳を傾ける」といった様子を想像するのではないでしょうか。けれども、ただ黙って聞くだけでは、いわゆる「聞き上手」にはなれません。
たとえばカウンセリングの場で、口答えしたりせずに、相談者の言い分をしっかり聴くのは当然としても、ただただ黙っているわけにはいきません。一方的に聞き、相手の言い分をインプットするだけでは、相手から「何もしてくれない」と思われてしまいます。
講演を聴くケースなどと違い、コミュニケーションは双方向のものですから、“話を聴く”のは受動的な行為ではなく、能動的な行為なのです。相手との話が弾むように自分からも働きかけ、「自分の気持ちがわかってくれた」と相手に実感してもらうことが、重要になるわけです。
このようにコミュニケーションで「聴き方」は大切なのですが、「話し方」を教わることはあっても、「聴き方」を教わることはほとんどありません。しかしカウンセリングには、相手の話を上手に聴く「傾聴」という手法があります。そこで、ここではカウンセリングでの傾聴についてご紹介することにしましょう。
~言葉の奥に潜む「心の声」を聴き取る
カウンセリングの傾聴では、「相手の気持ちに共感すること」が目的になります。相手が話した事柄の理解ではなく、どんな心情や感覚なのかを把握するのがポイントです(図表①参照)。「心の耳」を傾け、言葉の奥に潜む「心の声」を聴き、気持ちを理解することが“傾聴”なのです。
なぜ心の声を聴くべきなのかというと、相手が発する言葉だけでは、相手の気持ちがわからないこともあるからです。人間は時に、心にもないことを平気で口に出したりします。言葉には出なくても、「言外」に本心が表れていることもあります。話の流れや相手の態度などから、「なぜ、この人はそう思うのか」を見極めましょう。
先ほど傾聴の目的は「共感」と言いましたが、「同感」はしなくてもよいことを覚えておきましょう。同感とは、自分の経験と相手が話す内容と照らし合わせて共通点や相違点を見つけ、「自分」がどう感じるかというものです。それに対して共感とは、「相手」がどう感じるのかがわかることです。
一つ例を挙げてみます。話し手がプロ野球の巨人ファンで、「きのう見に行った試合で阪神に負けて悔しかった」と言ったとしましょう。この場合「悔しい思いをしたんだ」とわかれば、それで共感できるわけです。聞き手が巨人ファンになって一緒に悔しがる必要はありません。たとえ聞き手が阪神ファンだったとしても、一連の会話で阪神がけなされているわけでもありません。
好悪の感情を持ち込まなければ、相手への共感は難しいことではないのです。傾聴の場合、相手が何を言いたいのか、あるいは、どんな気持ちなのかを理解することが最優先課題となります。そのため、コミュニケーションがスムーズに続けられて、相手が心を開いてくれるようになるスキルが求められます。
家族や知人を「聴き役」にして「話し手」の気持ちを理解するのも良い
~うなずき・あいづちと繰り返しで傾聴力UP
傾聴の基本スキルは、主に二つります。一つが「うなずき」と「あいづち」。これらは、傾聴の土台といえる重要な技術です。両者を織り交ぜて、相手の話に「合いの手」を入れるわけです。それによって相手は「自分の話が伝わっている」と確認でき、話す張り合いが生まれます。うなずきとあいづちさえ的確にできれば、コミュニケーションはうまくいくと言っても過言ではありません。
しかしうなずきとあいづちは、簡単なようで難しいものです。タイミングやトーンを誤ると、相手が話す気をなくすといった、逆効果を生んでしまうことさえあるからです。
コツは、まず相手の話を聴きながらペースをつかみ、相手が早口なら小刻みにうなずき、ゆっくり話すのなら首もゆっくり振るといった具合に、波長を合わせること。はっきりうなずいたり、大きな声であいづちを打ったりして、「話を聴いています」と、相手に認識してもらうことも肝心です。
もう一つのスキルが「繰り返し」。相手の話の語尾やキーワードを繰り返し、「話がわかりましたよ」と相手に知らせるのです。ただし、相手の話を適当に繰り返せばいいわけではありません。コツは、相手の言葉を言い換えたりせず、「オウム返し」のようにそのまま使うこと。そして、事柄に関わる言葉よりも、相手の気持ちが表れている言葉を返します。
例えば、「やっとディズニーランドに行けたんだけど……」と相手が話した場合、「ディズニーランドに行ったんだね」と答えると、事実を返しただけになります。それより「やっと行けたんだ」「行けたんだけど……?」などと返すほうがいいでしょう。特に「だけど」という相反する思いの存在を理解することが重要で、そのワードを繰り返せば、相手の気持ちに寄り添うことができるわけです(図表②参照)。
傾聴のスキルを高めたいなら、家族や友人などを聴き手にして、これらのテクニックを実践してもらうといいでしょう。話し手の気持ちを知ることができます。
傾聴のテクニックを習得すれば、コミュニケーションが円滑になるだけでなく、人の話をストレスなく聴けるようになります。「自分は自分、他人は他人」と割り切れるので、どんな人の話でも肩肘張らずに受け止められるようになるからです。職場には性格も、考え方も異なる人が大勢いますが、傾聴力が高まれば、むしろ自分とは違うタイプの人に、興味を持って接することができるようになるでしょう。人付き合いが増えたり、物の見方や考え方の幅が広がったりすることも、期待できるでしょう。
同テーマの記事はこちら
○ 無口&説明下手は「対話」で制御!:辻口寛一
○ ラジオDJ流、相手を乗せる「接し方」:秀島史香