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10年、20年先を見据えたガバナンス教育改革

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撮影:加々美義人 
編集:プレジデント社

学校法人桐蔭学園の溝上理事長に、「社会を生き抜く力・考える力」「新しい授業スタイル」などの観点で、これからの教育像を語っていただきます(第三回)。

BILANC24「溝上慎一's Eye」 学校法人桐蔭学園理事長
溝上 慎一氏(みぞかみ・しんいち)
学校法人桐蔭学園理事長、桐蔭横浜大学学長・教授。『アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性』(東信堂)ほか、著書多数。

~ポイントは地域・社会との関わり方

先日、大学の学長たちと懇談する機会があった。これから大学をどうしていくかが語られた。しかし、彼らの多くが10年、20年先の(自身の大学がある)地域や社会の姿をあまり繋げて考えていない様子にはとても驚いた。
今日の教育改革の基本的な視座は、予測困難で変化の激しい問題解決型の社会に対応した教育への再構成にある。アクティブラーニングやPBL、キャリア教育の推進、能力育成はその代表的課題である。文科省施策(『グランドデザイン答申』2018年)では、「何を教えたか」から「何を学び、身に付けることができるのか」への転換と唱えられている。『学士課程答申』(2008年)より10年が経った今でも、不十分な推進状況である。
他方で、全国的に少子化・人口減少が急速に進んでいる。10年、20年先を見据えて、大学はこの問題への対応を生き残りをかけてしっかり考えておかねばならない。
根本(2018)の研究では、20年~30年後、全国の小中学校数は現在の3~5割にまで減少すると試算されている。実際には、児童生徒数や学級の適正規模に関する法制度を改正したり、地方自治体で統廃合の基準を工夫して特例校として存続させたりして、単純にこのような割合にまで減少することはないかもしれない。しかし、大規模な少子化が進行していることは間違いない。その上、人口減少をにらんで特定の地域に集住するコンパクトシティの構想も練られ始めている。自治体ごとの広域レベルで学校数や人員配置の検討ができる公立の小中高校と違い、立地を動かせない大学は、この問題へのリスクマネジメントをしっかりしておかないと、入学者が確保できず経営危機に直面するだろう。

BILANC24「溝上慎一's Eye」
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」から作成の「0~4歳人口、5~19歳人口の減少率(都道府県別/2015年→2040年)」より、上位10都道府県を抜粋

~執行部と学部・研究科の連携が不可欠

アクティブラーニングやPBLを推進すべきかどうかは、教育現場を担う学部・研究科の判断に任すべしと意見する人がいる。たしかに実践するのは学部・研究科の教員であるが、社会の変化に対応した大学教育への転換を促すのは、学長、副学長を始めとした執行部の役割である。学部・研究科は研究や専門的な知識教授には関心が高いが、社会の変化に対応した学生の汎用的な能力の育成には関心を示さないことが多い。生き残りも見据えた大学全体の大きな方向性を執行部が、専門分野に関する知識と技能の教授、研究に関しては学部・研究科が担い、車の両輪として、総合的に社会の変化、少子化・人口減少の課題に取り組んでいかねばならない。
ニューノーマルにおける大学教育の発展可能性として、連載①(『BILANC』Vol.22)では、オンライン学習、対面と組み合わせた「ハイブリッドな学び」を提起した。他の地域や海外とさまざまに繋がった、自前のリソースを超える学びをどれだけ提供できるかがポイントである。連載②(『BILANC』Vol.23)では、学生を個性的に育てるための少人数教育(大人数講義科目の見直し)を提起した。とくに講義科目におけるアクティブラーニング型授業への転換が求められてきた中、講義科目の履修人数の制限について取り組んでこなかったのは問題である。
2040年を見据えた高等教育の『グランドデザイン答申』の提言の多くは、『学士課程答申』『質的転換答申』(2012)の提言の焼き直しである。改革が進んでいない状況を露呈したとも言える答申であったが、見方を変えれば、ポイントの本質はすでに出尽くしているとも言える。コロナ禍の経験を加えたポストコロナの時代に、大変ではあるが、これからの社会に大きなインパクトを与える大学教育の再構築を目指したいものである。

文献 根本祐二(2018)。人口減少時代における地域拠点設定とインフラ整備のあり方に関する考察-学校統廃合シミュレーションに基づく試算結果- 東洋大学PPP研究センター紀要, 8, 1-24.

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