広報活動

コロナ禍を機に大人数講義科目の解消を図る

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撮影:加々美義人 
編集:プレジデント社

学校法人桐蔭学園の溝上理事長に、「社会を生き抜く力・考える力」「新しい授業スタイル」などの観点で、これからの教育像を語っていただきます(第二回)。

BILANC23「溝上慎一's Eye」 学校法人桐蔭学園理事長
溝上 慎一氏(みぞかみ・しんいち)
学校法人桐蔭学園理事長、桐蔭横浜大学学長・教授。『アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性』(東信堂)ほか、著書多数。

講義の半分以上を「アクティブ」に

情報化・グローバル化による社会の変化、産業・就業構造の変化などにより、大学教育に社会人基礎力やコンピテンシーの育成課題が突きつけられるようになったのは、2000年代半ばのことである。こうして、2008(平成20)年の中央教育審議会の「学士課程答申」では汎用的技能が学士力の一つとして設定された。さらに、2011(平成23)年の中央教育審議会の「キャリアガイダンスの法制化」では、資質・能力課題がキャリアセンター等によるキャリア科目のみならず、一般教育・専門科目の中でも育てられるべき対象となることが明示された。学生のコミュニケーション力や問題解決力等の資質・能力を育てるには、アクティブ・ラーニングを行うことが必要である。講義を聴いているだけで資質・能力は育たない。また日常のおしゃべりや会話と違い、「環境とは?」「教育とは?」のような抽象的・概念的なテーマについて議論するには、知識を媒介としたコミュニケーションを必要とする。ここに、一般教育科目・専門教育科目の授業でアクティブ・ラーニングを行い、資質・能力を育てよというメッセージの根拠がある。
もともとアクティブ・ラーニングは、講義における教員から学生への一方通行的な知識伝達の授業スタイル、そこでの学生の受け身の学習を脱却するために唱えられたものであった。この意味において、アクティブ・ラーニング導入は、講義科目におけるアクティブ・ラーニング型授業(講義+アクティブ・ラーニング)への転換を目指すものであった。少人数の初年次教育や演習・ゼミ、プロジェクト科目等を行うことで、「私たちの大学ではアクティブ・ラーニングを積極的に推進しています」と謳う大学があるが、それはアクティブ・ラーニング推進の意図を外している。ポイントは、4年間の半分以上を占める講義科目がアクティブ・ラーニング型授業へ転換されているかどうかである。

BILANC23「溝上慎一's Eye」2
公益財団法人電通育英会『大学生のキャリア意識調査2019』報告書(2020年10月)より
https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/transmission/investigation/about-2/

~オンライン授業の効果

2012年の中央教育審議会のいわゆる「質的転換答申」で、アクティブ・ラーニング導入が施策的に進められるようになって8年が経つ。図表に示す調査結果からは、3年生では微増であるものの、1年生ではアクティブ・ラーニング型授業が増加してきたことがわかる。最近『IDE』の誌上で報告されたものと近い見方である。
しかし、資質・能力を育てるためには、単なる講義科目のアクティブ・ラーニング型授業への転換だけでなく、大人数講義科目の解消も図る必要がある。とくに私立・都市部の大学の講義科目でよく見られる200~400人、あるいはそれ以上の規模の講義科目でアクティブ・ラーニングを仮に行えたとしても、それで学生の資質・能力を育てられるとは考えられない。50~100人程度の規模に縮小した講義科目への転換が求められよう。
不幸中の幸いか、今回のコロナ禍で大人数講義科目の新たな解消法も見出された。オンライン授業の活用である。大人数講義科目をオンラインで行うと、学生と教員との距離が教室空間でのものよりも縮まり、成績も通常のそれよりも上がったと報告されている。それを一歩進めて、Zoomのブレイクアウトルームなどの参加者同士のコミュニケーション機能を利用して、オンライン版のアクティブ・ラーニング型授業を行うのである。これは今後の大学教育における新しい発展可能性である。
ポストコロナをにらんで、前号の記事で紹介した反転授業、講義科目の50~100人規模への縮小、そしてオンライン版アクティブ・ラーニング型授業の取り組みが期待される。

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