広報活動

オンライン学習、ブレンド型学習の可能性と限界

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撮影:加々美義人 
編集:プレジデント社

学校法人桐蔭学園の溝上理事長に、「社会を生き抜く力・考える力」「新しい授業スタイル」などの観点で、これからの教育像を語っていただきます(第一回)。

BILANC22「溝上慎一's Eye」1 学校法人桐蔭学園理事長
溝上 慎一氏(みぞかみ・しんいち)
学校法人桐蔭学園理事長、桐蔭横浜大学学長・教授。『アクティブラーニング型授業の基本形と生徒の身体性』(東信堂)ほか、著書多数。

~対面と中継を組み合わせた「反転授業」

2020年のコロナ禍において、大学の多くがオンライン授業を実施した。それは、大学の教職員・学生だけでなく、これから大学に進学してくる高校生も含めて世界レベルの経験であり、ポストコロナにおいて大学教育を刷新する要因になるだろう。とくに、講義のパートである知識の伝達は、必ずしも対面である必要はないと知るには十分な経験ではなかったか。
対面学習とオンライン学習を組み合わせたブレンド型学習としての「反転授業」は、ポストコロナの授業を考える上で、取り組みが期待される授業法の一つである。反転授業とは、講義パートをオンデマンド教材にして学生に予習をさせ、対面の授業では対面でしかできないアクティブラーニングを行う授業法のことである。これまで教員の多くは、膨大な知識を教えなければならず、そのためにコミュニケーションや問題解決、チームワークなどの資質・能力を育てるアクティブラーニングの時間が取れないと悲鳴を上げてきた。反転授業は、そのようなアクティブラーニングに積極的に取り組める授業法である。しかし、オンデマンド教材を作成する技術的ハードルが高く、取り組みがあまり一般化していないのが現状である。コロナ禍の経験を経て、現在多くの教員はオンデマンド教材の作成、リアルタイムのオンライン授業をある程度できるようになっており、取り組みの普及が期待されている。
遠隔地とリアルタイムで繋いだ学習は授業をより魅力的なものにするだろう。他大学や海外から、あるいは医療や史跡の現場から中継でリアルタイムのオンライン授業を行うのである。コロナ禍の中、外部の専門家に大学の教室に来て講義をしてもらうことができなくなり、偶然にもそのような取り組みがいくつか実現した。実施してみると簡単であり、こちらの方が学生にとっても臨場感があっていいという感想が聞かれた。また、授業が録画されてオンラインコンテンツとなり、授業をうまく理解できなかった学生が繰り返し視聴して理解を補うことも可能となってくるかもしれない。

BILANC22「溝上慎一's Eye」1
桐蔭横浜大学でのオンライン授業(本人提供)

~受け身の学生が置き去りになるリスク

良いことばかりではない。オンライン学習の本格的な導入、さらにはブレンド型学習においても、この流れは学習を多かれ少なかれ個別化していくものであり、学生の学習課題への主体的な関わりを、これまでよりもいっそう求めるものである。オンライン学習の持つ「いつでも、どこでも」「自分のペースで」「わからなければ何度でも再生して」という特徴は、主体的に取り組む学生には大きなメリットとなるが、主体的に取り組めない学生にとっては、その特徴こそがデメリットとなる。
対面授業であれば、教室にいるだけで学習したことになるが、オンライン学習では主体的に課題に取り組み、仕上げなければ学習したことにはならない。それがコロナ禍の中で可視化され大きな個人差を生じさせた。その結果、学びが止まってしまった学生がいる。
eラーニングが導入され始めた2000年頃、オンライン学習の可能性は多数議論された。しかし、一般化することなく今日を迎えている。今や良質で高度な学習教材がインターネット上にごまんとある。国内外を問わず一流大学の講義も、オンラインで誰でも無料で受講できるような時代である。しかし、多くの学生は利用していない。この間にあるものは主体性の問題である。
古くて新しい主体性の問題が、文脈を変えて再びクローズアップされるだろう。個別化の力学は、すさまじい個人差を生み出していく。それは必然的に教育格差をも生み出すだろうが、目指しているのは個の多様性である。教育格差か個の多様性か、新たな社会的認識の課題も生まれてきそうだ。

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