失敗は仕方ない。重罪なのは決めないこと(安藤広大氏)
特集企画Date: 2025.12.12
構成:秋山真由美
撮影:神出 暁
編集:プレジデント社
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株式会社識学 代表取締役社長 安藤 広大氏(あんどう・こうだい) 1979年、大阪府生まれ。 早稲田大学卒業後、NTT ドコモ、ジェイコムホールディグスを経て、ジェイコム社(現ライク)で取締役営業副本部長などを歴任。2013年「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。15年に識学を設立。創業から3年11カ月でマザーズ(現東証グロース)上場を果たす。4900社以上に識学メソッドを導入。 |
「先日、とあるテレビ番組の収録で、「意思決定に正解はあるか? 」という問いが出されました。「ある」か「ない」かの二択で答えてほしい、とのこと。皆さんならどちらだと思いますか?
私の答えはこうです。
「ある・ない、どちらもある」
ズルいと思われるかもしれませんが、誰かが責任を持って意思決定をした時点で、その行為自体は「正解」。ただし、決定したことがうまくいくかは、実行してみなければわかりません。つまり、意思決定に正解は「ある」とも「ない」とも言えるのです。
~決断すべき案件は3つの箱に振り分ける
私たちは日々、あらゆる場面で意思決定をしています。ランチは和食か洋食か。電車に乗るかタクシーを使うか。小さなことから大きなことまで、目の前にある選択肢から自分で選んでいかなければ先に進むことができません。これは組織も同じです。意思決定にかかる時間が長ければ長いほど、その間、組織の動きは止まってしまうことになります。しかし、どんなに時間をかけて慎重に決めた答え でも、100%正しいということはありえません。だからこそ、早く決めて実行し、間違ったら修正するというPDCAを繰り返すことで、最終的に成果をもたらす覚悟をすることが重要です。
決めなければいけないことが出てきたときは、「3つの箱」に振り分けるようにします(図表①参照)。

1つ目が「即決」の箱。すでに十分な情報や明確な選択肢があり、その場で決められるものです。
2つ目が「情報不足」の箱。メンバーにタスクを与え、判断材料を集める必要があるものはここに入れます。
そして3つ目が「期限を設定する」箱。検討に時間がかかるものをここに入れます。これらのうち「即決」の箱に振り 分け、即座に完了させることが大事です。情報や時間が足りないときにはその限りではありませんが、安易に「情報不足」の箱や「期限を設定する」箱に振り分ければいいものはありません。必ず期限を設定し、部下やメンバーに対して、「今、何をすべきか」を明示します。情報収集をしている間や経過観察をしている間も、行動を止めないことです。
意思決定において最終的な判断軸となるのは、「目先」ではなく「未来」です。迷ったときは、未来の組織が得をするかどうかで考えます。ただし、その意思決定が正しいかどうかはチーム内で決めることはできません。評価者はいつも内部ではなく、外部にいるからです。チーム内で時間をかけるよりも、早く外部の評価を受けることが大事です。
~失敗より決めないことが組織の機会損失に
意思決定をしなければならない場面で、「検討します」「前例がありません」といったセリフをよく聞きますが、決めなければ前に進んでいないのと同じこと。保留することによる停滞や未来の損失といった「見えないコスト」が確実に発生しています。
では、なぜ決められないのでしょうか。失敗すると評価が下がると思っている人ほど、意思決定をしたがらない傾向にあります。意思決定をしなければ、実行しなくて済むので、失敗することもありません。「失敗しなければ評価は下がらない」という理屈です。
しかし組織にとっては、失敗よりも動かないことのほうがリスクです。たった1回の失敗を怖がって何もしないより、何度失敗してでも最終的に成功するほうが利益は増えます。意思決定をしない人は、目先のことにとらわれ、未来を見据えていないのです(図表②参照)。

意思決定の場として、会議を重視している組織が多いと思いますが、会議が長引いたり、結論が先送りにされたり、最終的に「声の大きい人」の意見に決まってしまうという話はよく聞きます。一人ひとりの責任の所在が明らかになっていなかったり、複数名で責任を負うような状態になっていたりすると、大事なことを多数決で決めたり、声の大きい人の意見に集約されるといったことが起きやすくなるのです。そういった会議にしないためにも、役割の定義や立場の理解には目を向けましょう。メンバーからトップまで、どのような役割と責任と権限を持っているのか明言しておくことが大事なのです(図表③参照)。

会議でどれほど多くの意見が出たとしても、最終的に「誰が決めるのか」が曖昧なままだと、組織は動くことができません。意思決定において重要なのは、「賛成する人の数」や「全員の同意」ではなく、「誰が決めるのか」を明確にすること。そして、その「責任」と「権限」の範囲をきちんと合致させることです。
~覚悟を持って決断し勇気を持って修正する
いざ、何かを決めようとすると、必ず否定的な意見は出てきます。
「もっとこうすればよかったのに」といった“ 後出しジャンケン”をする人もいます。意思決定者のもとには、さまざまな情報が集まってきますが、中には「ノイズ」が紛れ込むこともあり、その見極めは重要です。
「AさんとBさんは仲が悪いから同じチームにしないほうがいい」など、個人の感想レベルの情報であれば意識的に排除し、根拠のある事実やデータを見るようにします。感情を切り離して、冷静に判断することが大切です。
最後は勇気を持って決断するのみ。いったん意思決定をしたら、強い覚悟を持ってやりきることです。もしもうまくいかなかったら、勇気を持って間違いを認め、修正すること。トライ&エラーを繰り返しながらも、最終的に正解に導いていくことが、意思決定者の責任なのです。
間違いを認め、修正できるかどうかは、組織が間違いを受け入れてくれる土壌かどうかにかかっています。部下に意思決定を任せた結果、失敗したとしても、責めてはいけません。「次はどうしますか?」と許容することで、スムーズに軌道修正できます。
意思決定のスキルは組織の成長に欠かせないものです。決断の連続が組織の未来を変えていきます。1日1日の意思決定を大事にしていきましょう。
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