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部下を動かす「伴走型育成術」のススメ(北 宏志氏)

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特集企画

Date: 2025.08.20

構成:秋山真由美 
撮影:神出 暁  
編集:プレジデント社

BILANC37“リソースフル”な職場の創出 北 宏志先生 人材育成コンサルタント
北 宏志氏(きた・こうじ)
株式会社ポールスターコミュニケーションズ代表取締役。
大学卒業後、中高一貫校で6年間社会科教諭として勤務。その後、民間企業を経て、人材育成コンサルタントとして独立。若手社員の研修を中心に600回以上の登壇実績を持つ。著書に『新しい教え方の教科書 Z世代の部下を持ったら読む本』(ぱる出版)、「教え方の一流、二流、三流」(明日香出版社)など。

人材育成コンサルタントとして、これまでに2万5000人以上の新入社員や若手社員と接し、メンターとしてもさまざまな悩みや本音を聞いてきました。その経験から、Z世代を中心とした30代前半くらいまでの若手には主に3つの仕事観があると感じています。
1つ目は、「自分に合う会社や仕事を選択できる」と思っていること。2つ目は、「週休2日は譲れない条件であり、プライベートの時間を重視している」こと。3つ目は、「安定性を求める」傾向にあることです(図表①参照)。

BILANC37“リソースフル”な職場の創出 北 宏志先生

この背景には、彼ら・彼女らが“理不尽”をあまり経験してこなかったという点があります。例えば、学校の先生や先輩から不本意に怒られたり、嫌なことを我慢したりといった経験が少ないため、理不尽な状況や失敗に強い抵抗感を持っています。他の世代とは違い、「先輩の背中を見て学ぶ」といった意識がなく、察して行動することも苦手。それぞれの世代で「当たり前」が違うと認識することが重要なのです。
加えて、彼ら・彼女らは、会社を学校の延長ととらえている傾向があり、「丁寧に教えてほしい」「目をかけて育ててほしい」「認めてほしい」「間違ったら優しく教えてほしい」と考えています。

~モチベーションとなる雑談と共感が信頼の鍵

Z世代は「否定されたくない」「失敗したくない」という気持ちが強く、上の世代からは「やる気がない」「何を考えているのかわからない」と誤解されがち。しかし実際には、素直で成長意欲が高い世代です。
大切なのは、「自分は大事にされている」「この人のもとで働けば成長できる」と感じてもらえるような関係性を築くこと。逆に、接し方がわからないからと放置したり、上の世代の価値観(若手にとっての理不尽)を押し付けたりすると、売り手市場なことも手伝って退職に突き進む……という事態にもなりかねません。「この人だったら話を聞いてくれる」「自分の味方である」と思ってもらい、本音を引き出せるかどうかが、Z世代のパフォーマンスを向上させるためのカギとなります。
さらにZ世代のやる気を引き出し、モチベーションを高めるためには「自分は何のために頑張るのか」をきちんと考えさせることが大事です。仕事よりプライベートを充実させたいと思っている部下に対して、「そんなんじゃ出世できないぞ」と言っても、モチベーションは向上しません。とはいえ、Z世代は自己開示が苦手なので、彼ら・彼女らの本音を知るためにも、日常的にコミュニケーションの量を増やすことが重要です。
まずは休憩中、「休みの日は何をしているの?」と聞いてみましょう。もし「ゲームをしています」と部下から言われたとしても、「せっかくの休みなのにゲームか」などと否定してはいけません。「そうなんだ、どんなゲームが好きなの?」と、質問を重ね、話を引き出すようにしましょう。興味関心を持って部下の考えや価値観を知ろうとする姿勢が、信頼関係を築いていくための第一歩です。
雑談の中で相手のスタンスを見極めることができたら、ランチや飲み会にも誘いやすくなるでしょう。ただしいきなり誘うのではなく、日程や場所、参加メンバーをZ世代が選べるようにするなど配慮し、「安心して参加できる環境」を整えることが重要です。

~1から10まで教える丁寧な指導を心がける

そのうえ、Z世代はタイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを重視する傾向にあります。
「この仕事って何のためにやるんですか?」と聞いてくるのはそのためです。Z世代に仕事を依頼する際は、PREP法を意識しましょう(図表②参照)。まず目的をしっかり説明し、具体的なゴールをイメージできるように教えることが必要です。「聞いていない」「教わっていない」と言われる前に、こちらからすべて明示してあげるのが新しい育成スタイルだと心得ましょう。

BILANC37“リソースフル”な職場の創出 北 宏志先生

部下へ使いがちな言葉ではありますが、「失敗してもいいからやってごらん」といった指導もNGです。失敗を避けたい彼ら・彼女らにとっては不安しかないからです。「自分で考えろ」「とにかくやれ」などと言えば、若手のモチベーションは一気に下がり、退職への道まっしぐら。1から10まで、丁寧に時間をかけて教え、できるようになるまで“伴走”する。それが効果的な育成法だといえます。
また、「大きな声で挨拶する」「返事をする」「メモを取る」「相手の目を見て話す」といった基本的なことも、入社時にしっかり教育する必要があります。管理職の方からは、「そこまで教えなければいけないんですか?」と驚かれることもありますが、「自分の子どもに教えるように」細かく丁寧に何度も教えていくことが大事です。最初は大変ですが、指示したことを確実にこなせるように導いていくと、やがて主体的に動けるようになっていきます。

~Z世代の教育は手間のかかる最高の投資

人そして、Z世代のモチベーションを維持・向上させるには、「成長実感」を持たせることが不可欠です。そのためには、上司が部下の成長ポイントを言語化して伝えることが求められます。結果に対してのフィードバックだけでは「ダメ出しされた」と感じさせてしまうこともあるため、「これからどうしていくか」という今後の指針を一緒に考える“フィードフォワード”も併せて行うと効果的でしょう。
上司は自分が指示したことを記録し、覚えておくことも大切です。「昨日と言っていることが違う」「言いっぱなし」では、部下からの信頼を失ってしまいますからね。
時には「違うんだけどな」と思う場面、叱らなければならない場面もあるでしょう。そんなときは、「あなたの成長のために言うね」と前置きをし、ネガティブに感情的になったり、否定したり、突き放したりしないようにしてください。今まで積み上げてきた関係性が一気に崩れ、部下は心を閉ざしてしまうので気をつけましょう。問題点と解決策を指摘して「着地」した後、再度「離陸」させる(フォローする)までが上司の仕事です。
現在は採用コストも非常に高くなっており、組織にとって切実な問題となっています。若手社員の育成には多くの手間と時間とお金がかかりますが、未来への投資だと考えてください。
経営理念と個人の目標とを結びつけ、同じ方向を向いて進んでいけるような道筋を一緒に考えていくことで、Z世代の力は確実に伸びていきます。簡単なことではありませんが、上司が手間と時間をかければかけるほど、部下の成長という何ものにも代え難い大きな喜びが待っているはずです。

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