「孤独」と向き合い、自由に生きる方法(前野隆司氏)
特集企画Date: 2024.11.29
構成:秋山真由美
撮影:神出 暁
編集:プレジデント社
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野 隆司氏(まえの・たかし) 武蔵野大学ウェルビーイング学部長を兼任。幸福学をはじめ、幸福経営学、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学や脳科学など研究領域は多岐にわたる。著書に『幸せな孤独』(アスコム)、『幸せな職場の経営学』(小学館)、『ディストピア禍の新・幸福論』(プレジデント社)など多数。 |
幸福を感じたいのであれば、薄くとも人間関係を保つことは重要ですが、コロナ禍をきっかけに、「孤独」に悩む人が増えています。職場の付き合いが苦手、心を許せる同僚がいないなど、ストレスを抱え込んでしまっている人も多いのではないでしょうか?
もともと農耕民族である日本人は、集団で行動することを好み、孤独を感じやすい傾向があるといわれています。さらに、近年SNSの普及によって、自分と他人を容易に比較できるようになり、必要以上に不安になったり、疎外感を覚えたりする人が増えました。
~寂しさを感じる原因は、心に巣食う“ 孤独感”
一般的に、孤独はひとりぼっちで寂しいもの、つまり不幸なものだと考えられがちですが、そんなことはありません。世の中には、ひとりでも幸せな場合があります。
孤独とは、周囲に人が少ない状態のこと。皆さんがイメージしている一連の感情は、心に巣食う“孤独感” なのです。
「孤独」というと、日本語では1つの言葉しかありませんが、英語では「ロンリネス(loneliness)」と「ソリチュード(solitude)」という2種類の表現があります。ロンリネスが不安や寂しさなどの“孤独感”を示している一方で、ソリチュードは“孤高”を示し、熱中していて、ひとりの時間を過ごすことに喜びを感じている状態のこと。
誰でも人生の中で、孤独を感じることはあるでしょう。しかし、たとえ物理的にひとりだとしても、打ち込むものや、好きなこと、やりがいを見つけていれば、それは「ロンリネス=孤独感」ではなく「ソリチュード=孤高」なのです。
孤独感というのはあくまでも主観的なものであり、自分の心がどう決めるかがすべて。もしも今、孤独で寂しいと感じているのであれば、孤独感を生み出す心のクセを修正して、孤高へと変えることで負の状態から脱却しましょう。
さらに、孤高は、創造性、決断力など、自己を磨くうえでも大切。自分のペースで好きなことに没頭し、やりがいを感じるようになれば成果も出て、仕事や人間関係にもいい影響があるはずです。
~3つの要素を伸ばし、正しい心のクセを得る
では、孤独でいながら、幸福度を高めていくためにはどうしたらいいでしょうか。ここで、幸福のメカニズムを解明するために、私が実施した「幸せの因子分析」の結果について触れたいと思います。多くの人にアンケート調査を行い、結果を分析・考察していくと、幸福に影響する性質は次の4つにまとめられることがわかりました。
1つ目は「やってみよう」因子で、夢や目標に向かって自己実現と成長ができている状態のこと。2つ目は、つながりや感謝を大事にする「ありがとう」因子。さらに3つ目は「なんとかなる」因子で、前向きかつ楽観的で何事もなんとかなると思えること。そして最後は、「ありのままに」因子。独立性と自分らしさを保っている人ほど幸福を感じることができます。これら4つの因子を伸ばしていくことが幸せになるための道筋です。
一方、孤独感を感じている人は、「目の前のことにとらわれる」「意識が自分にばかり向く」といった心の悪いクセがついてしまっている状態。そのような人は、まず次の3つの要素を順番に伸ばし、“正しい心のクセ”を手に入れるところから始めるといいでしょう。
1. 受けいれる(自己受容)
2. ほめる(自尊心)
3. 楽になる(楽観性)
孤独感に悩んでいる人は、ありのままの自分を受け入れられていない傾向があります。まずは、自分の良いところも悪いところも“受け入れて”、マイナスだと思い込んでいる部分は悪い心のクセがそう思わせているのだと気づくことです。次に、自分の強みや魅力を見つけ、「自分もなかなか面白い人間だな」と“ほめて”あげます。そして、どんな結果であっても「なんとかなる」と“楽観的”に考えられるようになれば、たとえ孤独であっても幸せを感じることが多くなるはずです。
~広い視野をもってつながりをつくる
そもそも人は、自分がどのようなときに幸せを感じるのか、案外わかっていないもの。自分が今どれくらい幸せなのか、どのようなタイミングで幸福を感じるのかを知るためにも、「カレンダー◯×法」をおすすめします(図表①参照)。
さらに、外に出て視野を広げることはとても大切です。真面目な人ほど孤独を感じやすい傾向にあります。社外の人と会ったり、旅に出てみたり、有休を使って仕事を少し「サボる」など、普段と違うことをすることで、新たな発見につながるでしょう。視野が広がれば、仕事を単純作業でつまらないと思っていたとしても、人々のためになっているのだと考えられるようになったり、面白さ、やりがいを感じられるようになったりするかもしれません。視野の広い人は幸せで、狭い人は不幸せという研究結果もあるくらいです。
加えて、興味のある交流会や地域のイベントに参加してみるのも、幸福度を高めるためには良い手法でしょう。もし自分には合わなくて、途中で帰りたいと思ったら、さっさと帰ってもOK。大事なことは自分を責めないこと。誰とも話せないから帰ってきたと思えば寂しいですが、ひとりでいることを決断できたと思えばいいのです。
人付き合いが苦手だという人は無理せず、ゆるいつながりをつくることから始めてみましょう。誰かと深いコミュニケーションをとらなくても、いつも行くコンビニの店員さんに挨拶をしてみる、職場で会話したことがない人に話しかけてみるなど、ちょっとしたことの積み重ねで心理的な安心感を得られるはずです。
また、頼れる人を増やすのも重要。例えば、子育てでトラブルに陥ったとき、孤独だと心理的に追い込まれます。核家族化が進み、ご近所付き合いも減った社会では、気軽に助け合ったり、情報共有をすることが減りました。周囲に気軽に頼れる人がいないなら、図書館や本屋に行くとか、区役所に相談してみるなどして、仲間を見つけ、能動的にゆるいつながりをつくっていきましょう。
ちなみに、年をとるほど、孤独に強くなるという研究結果もあります。年齢を重ねると脳は細かいことを考えなくなり、より楽観的になって、幸せを感じやすくなっていくそうです。マイペースになるようにできているので、焦る必要はありません。
100人いたら、幸せの形も100通り。誰しも人生の浮き沈みはあります。少しずつ自分の好きなことを突き詰めて、ゆるやかにいろんな人とつながりましょう。
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