〝三種の神器〞で自律神経を整える!(小林弘幸氏)
特集企画Date: 2024.11.29
構成:秋山真由美
撮影:神出 暁
編集:プレジデント社
順天堂大学医学部 教授 小林 弘幸氏(こばやし・ひろゆき) 日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ロンドン大学付属英国王立小児病院などの勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科学講師・助教授を歴任。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手やアーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。メディア出演や著書、講演活動も多数。 |
「よく眠れず疲れがとれにくい、イライラしやすい、何度も落ち込んでしまう……。疲労感や倦怠感、食欲不振、冷え、めまい、頭痛など、コロナ禍以降ライフスタイルの変化やストレスによる体調不良を訴える方が増えました。不調が長引いた結果、心の状態まで悪くなり、仕事や人間関係にまで支障が出てしまうケースは多いのではないでしょうか。
実は、これらの症状はすべて自律神経の乱れによるもの。この自律神経のバランスを整えることで、身体の状態が安定し、おのずと心も上向きになっていきます。
~生命活動を維持するライフライン
とはいえ、自律神経とは何か、よくわかっていないという人も多いのではないのでしょうか。自律神経は末梢神経で、それぞれ異なる働きをする「交感神経」と「副交感神経」で成り立っています。車に例えると、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキのようなもの。お互いが相反する働きをしながら、シーソーのようにバランスを取り合い、呼吸や血流、消化吸収、体温調節などの生命活動を維持しています。一言でいえばライフラインであり、我々のすべてをコントロールしているといっても過言ではありません。しかし、忙しくストレス過多な現代人の多くは、交感神経が優位に、つまりアクセル全開の状態になりやすく、体調や感情のブレーキがうまく利かないことが多いのです。
自律神経のバランスが乱れることによって、一番影響を受けるのは“血流”です。交感神経は血管を収縮させ、副交感神経は血管を緩める働きをしています。緊張が高まって交感神経が優位になりすぎると、血管がぎゅっと収縮され、体中をめぐって酸素や栄養を届ける血液量が減ってしまうため、冷えにつながったり、老廃物の排出がうまくできず、疲れやむくみがとれにくくなったりします。逆に副交感神経が優位になりすぎると、血管が収縮せずに血流が滞ってしまい、心身の活動量の低下につながってしまう。これらが不安定な状態を放っておけば、うつ病や自律神経失調症、脳梗塞などの病気にまで発展しかねません。
~体や心の不調は乱れている証拠
自律神経のバランスが乱れてしまう原因としては、過度なストレスや生活習慣の乱れ、外部環境などが挙げられます。その中でも、特にストレスが及ぼす影響は無視できません。
ストレスの9割は人間関係が原因だといわれます。職場の人、クライアント、家族、パートナーなど、自分にはコントロールできない存在に振り回され、感情をかき乱されるというのは、想像以上に精神的な負担がたまるものです。また、忙しくて時間の余裕がなかったりすると、ストレスを感じやすくなります。すると、自律神経のバランスが乱れ、脳にも酸素や栄養が運ばれにくくなるため、冷静な判断ができなくなったり、集中力を欠いたり、感情のコントロールができなくなったりするのです。
さらに、天気や気温、気圧などの外的要因も自律神経のバランスに影響します。暑い日が続いたり、低気圧になると、ぼーっとしたり、元気がなくなったりする人も多いのではないでしょうか。最近、不調が続いている、身の回りを片づける気力すらないと感じている人は、自律神経が乱れている証拠。
自律神経のバランスを整えるための基本は、「食事」「運動」「睡眠」です。これを私は、“ 自律神経の三種の神器”と呼んでいます(図表①参照)。この3つを意識して、生活リズムを整えていくことがまずは重要です。
毎日3食きちんと食べ、腹7分目の「食事」を心がけましょう。特に朝食は、体内時計を正常に動かすために、重要な役割を果たします。さらに、自律神経は、腸の働きや免疫系とも関係が深いため、腸内環境を整えるためにヨーグルトなどの発酵食品や、バナナなどの食物繊維を積極的に摂ることも大切です。中でもバナナは、不溶性・水溶性両方の食物繊維の機能を兼ね備えた、“ ハイパー食物繊維”と呼ばれるレジスタントスターチが豊富に含まれているのでおすすめ。の成分は熟している黄色いバナナより、緑色のバナナに多く含まれています。
そして、血流を良くし、自律神経のバランスを整えるために取り入れたいのが「運動」です。激しいスポーツではなく、ウォーキングなどの有酸素運動を継続することが大切。最寄り駅の1駅前で降りて歩いたり、エスカレーターやエレベーターではなく階段を使ったりするなど、手軽にできることを毎日30 分以上続けましょう。
良い「睡眠」を取るコツは、起きる時間と寝る時間をなるべく固定化すること。さらに、就寝の3時間前には食事を終え、入浴はぬるめの湯船にして寝る1時間前までに済ませましょう。1時間前からスマートフォンなどは見ないことも大切です。
~「1:2の呼吸法」と「3行日記」が効果的
加えて、日頃から実践すると良いのが、「1:2の呼吸法」(図表②参照)。3秒かけて鼻から空気を吸い込み、6秒かけて口から息を吐く、というように、吸うときは1、吐くときは2の割合で呼吸することを意識すると自律神経は安定していきます。1日1回3分間、起床時や仕事の前、寝る直前など、自分が実践しやすいタイミングでルーティンにするとより効果的です。
もし職場でストレスを感じたら、うっかり余計な一言を発してしまう前に、ガムをかむのもいいでしょう。かむことで唾液とIgA(免疫グロブリンA)の分泌が増えると同時に、脳の血流が回復して、ストレスが軽減されます。
忙しい人ほど、自分の身体や心の状態に無自覚。そのため、知らぬ間に体調が悪化することがないように、日頃から自分の状態を知っておくことも大切です。その方法としておすすめしたいのが、夜寝る前に1 日を振り返り、その日あった出来事や目標をノートに書く「3行日記」。手軽にできますし、文章に起こす過程で自分を客観視できます。「今日一番良くなかったこと」「今日一番良かったこと」「明日の目標」の3つを書き出すと、嫌なことが良かったことで上書きされ、前向きな気持ちで明日を迎えられるようになるでしょう。
自律神経の働きは、年齢とともに衰える傾向にあります。しかし、何歳になっても、今の自分が残りの人生の中で一番若いはずです。例えば、定年も人生の終わりではありません。年齢にとらわれず、こうありたいという自分を追求していくことが大事です。他人に期待せず、自分の価値は自らで決める。そうすることで、自律神経のバランスが整い、心豊かな生活につながっていくのではないでしょうか。
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