広報活動

キレ芸の逆転発想で「腹立ち」を笑いに(カンニング竹山氏)

 一覧に戻る

特集企画

Date: 2022.12.09

構成:山田清機 
編集:プレジデント社

「悪口」は笑えない。個人攻撃はせず、自虐で落とす

BILANC29「大人の“イライラ”管理術」カンニング竹山先生 お笑いタレント
カンニング竹山氏(かんにんぐ・たけやま)
サンミュージックプロダクション所属。1971年4月2日生まれ、福岡県出身。O型。本名は竹山隆範。テレビのバラエティを中心に“キレキャラ”で人気を集め、多くのレギュラー番組を持つ。近年では俳優業にも活躍の場を広げ、多くのドラマや映画などに出演し高い評価を得ている。また、コメンテーターとして情報番組への出演も多数。

~クビ覚悟から一転。 きっかけは先輩の一言

僕が「キレ芸」を始めたのは、20代の後半です。当時は全然売れてなくて、仕事もほとんどなかったんで、相方(故・中島忠幸)も僕も本当にひどい生活を送っていて、借金まみれだったんです。
借金取りから逃れるために、下北沢の先輩のアパートに居候していたんですが、月一の自社ライブだけは出なくちゃいけなかったんで、自社ライブの当日、方南町の自分のアパートに衣装を取りに戻ったんです。そうしたら、ちょうど借金取りが来てしまって、ドアを開けるわけにはいかないので窓から外に出てライブ会場に駆けつけたんですが、こんなことじゃ芸人生活ももう終わりだなと思って、ネタ合わせもせずに舞台に出て、
「なんで俺がこんな目に遭わないといかんのじゃー!」
って、日頃のうっぷんを思いっ切りぶちまけたんです。
客席はしーんと静まり返って全く笑いは起きません。舞台袖には仲間の芸人や事務所のスタッフが大勢集まって騒然としていたんで、きっとクビを宣告されて終わりだろうなと思ったら、当時お世話になっていたブッチャーブラザーズのリッキーさんから、
「これや、これで売れるで!」
って言われたんです。これが「カンニング」という漫才コンビがキレ芸を始めたきっかけです。
それまでは、自分たちが本当に面白いと思っているものは何かを模索しつつも、「ちゃんとした漫才」という枠にとらわれていた面があったんですが、そもそも僕も中島も、街なかや電車のなかで不条理なキレ方をしているオジサンなんかをすごく面白いと思っていたんです。そんな、不条理を面白がる自分たちの個性を、この日を境に、思い切って外に出せるようになった気がします。

BILANC29「大人の“イライラ”管理術」カンニング竹山先生

~試行錯誤し見出した「ウケる」ポイント

ただ、不条理な怒りを笑いに転換できるようになるには、ずいぶん時間がかかりました。3年ぐらいかかったかな。その間には、失敗もたくさんしました。
例えば、個人攻撃はキレ芸ではないですね。
「〇〇事務所のスタッフの△△は気に食わねぇ!」
なんてやってしまうと、キレ芸じゃなくて悪口になってしまうんです。悪口って笑えないし、聞いていても面白くないんですね。
言葉遣いも難しかった。テレビで年上の女優さんとご一緒した時、「うるせぇんだよ、ババア」なんて言ってしまって、後でお叱りを受けたこともあります。
「うるせぇんだよ」まではOKだけど、「ババア」は優しさがなくて、親しくもない僕に言われたら、女性は傷つきますよね。
3年かけて失敗と修正を重ねながら怒りを笑いに転換する作業をしたわけですが、そのなかでたどり着いた原則があります。
一つは、怒りの対象を特定しないこと。どこの誰々と特定せずに、「お前らが悪いんだろ!」というふうに、不特定多数に向かって怒りをぶちまけるんです。
テレビカメラに向かって「お前らが」って言ったって、視聴者は自分のことだと思わないから、笑うことができるんですよ。
もう一つは、必ず自虐で落とすということです。常に自虐を着地点にする。それには、怒りの発火点を「自分が悪いこと」にする必要があるんです。
たとえば、「そうだよ、俺が借金したんだよ! ごめんなさーい」こんなふうに、最後は必ず自分が反省するという落とし方をすれば、誰も傷つけることはありません。
言ってみれば僕のキレ芸は、自分が悪かったことについて延々と怒り続けるという芸なんですよ。
一見、本当に喧嘩をしているように見える場面があるかもしれませんが、芸人同士の「いじり」には、必ず事前の打ち合わせや暗黙の了解があります。
芸人にとって、テレビなどでいじられるのはむしろオイシイことなので、いじってあげるのは優しさでさえある。芸人同士にはこういう共通認識があるから、本番でいくら言い争いをしても人間関係が破綻することはないんです。
しかし、それがなかったらいじりではなく、単なるいじめになってしまいます。これは、ダメなんです。だから、職場などで安易に真似するのは危ない。十分注意してください。

結論は出さなくていい。冷静な姿勢で聴いてあげることで人は動く

~恐怖で人は変わらない。大切なのは聴くこと

もちろん、後輩芸人なんかに対してリアルに怒ったこともありますよ。僕、もともと気が短いんで、若い頃は「なんでもっと頑張らねぇんだよ!」なんて、よく後輩を怒鳴っていました。
そういう時の自分の気持ちは、「こいつのために怒っている」でしたよね。あくまでも後輩のために、良かれと思って怒っているつもりだったんです。
ところが、怒りながら相手に言ったことって、驚くほど伝わっていないんですよ。特に、先輩後輩という上下関係がある場合、相手は威圧を感じるからか、恐怖心しか生まれないみたいですね。
いま、NHK Eテレで「今君電話」という電話相談の番組をやっていて、SNSで公開した電話番号に、悩みを抱えた人とか、いろいろな人が僕に電話をかけてくるんですが、番組を始める前、岩田淳子先生(成蹊大学教授)のレクチャーを20コマぐらい受けて電話相談について勉強したんですよ。
岩田先生は、結論なんか出そうとするな、とにかく聴けとおっしゃるんです。その通りにひたすら話を聴いていると、みなさん最後に「竹山さんに話を聴いてもらってよかった、すっきりした」って言うんですよ。
きっと怒られるよりも、話を聴いてもらうことの方が、人を動かす力があるんじゃないかな。嫁さんから「あんたは気が短い」ってよく叱られるんだけど(笑)、怒る前に、いったん冷静になって相手の言葉に耳を傾けるのが大事だなって近頃思うんです。気が短いところを直したいなって、本気で思ってるんですよ。

BILANC29「大人の“イライラ”管理術」カンニング竹山先生

同テーマの記事はこちら
「怒り」を抑え、部下に効く「叱り」を:伊藤 拓
感情を整える2通りのメソッド:柊りおん

 一覧に戻る

Top