広報活動

玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」

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Date: 2018.07.24

日本初導入! 自尊感情を高め、他者を理解するアドベンチャー教育

玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」

構成:吉村克己 
撮影:小田駿一 
編集:プレジデント社

~自らの殻を打ち破るチャレンジングな教育

玉川学園では幼稚園(K:kinderの頭文字)から大学4年生(小学1年から数えて16年生)までの「K-16」一貫教育を行っていますが、幼稚園から16年生までの全学年に「TAP(玉川アドベンチャープログラム)」というアドベンチャー教育を導入しています。
アドベンチャー教育とは、ドイツの教育者クルト・ハーンが提唱したアウトワード・バウンド(2次世界大戦中、海軍兵を中心にした青少年の健全育成のために行われていた、帆船を使ったアドベンチャープログラム。その概念はアメリカに渡り、アウトワード・バウンド・スクールが作られ、さらに諸外国に広がって、現在では30カ国以上で行われている。)という概念の影響を受けた教育手法。自らの殻を打ち破り、他者との相互理解やリーダーシップ、チームビルディングなどを教えるというものです。ハーンはイギリスで活動を行い、やがて、その理念はアメリカの野外教育学校から学校教育へと広がり発展していきます。その後ハーンは、国際バカロレア機構や世界的私学連盟「ラウンドスクエア」の設立にも寄与しています。
玉川学園では2000年からアドベンチャー教育であるTAPを導入し、現在、TAPセンターがその運営を行っています。また、同学園では国際バカロレア(IB)のプログラムを導入した「IBクラス」も2007年に開設。世界50カ国が参加するラウンドスクエアにも、日本で初めて加盟しました。
61万平方メートルの広大なキャンパス内には経塚山という小高い丘があります。そこにTAPチャレンジコースが設営されています。地上9メートルにケーブルや丸太が設置されており、この上を「チャレンジャー」が歩きます。

玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」
TAPの教育風景。チャレンジャーは地上9メートルのコースを歩くことで自尊感情を高め、
地上で支えるビレイヤーとの信頼関係を築きます (提供:玉川学園)


その命綱を地上で握り支えるのが「ビレイヤー」です。命を預けるような体験を通じて両者に信頼関係が生まれていきます。ただしTAPは、このように信頼関係について学ぶプログラムだけではありません。TAPセンター准教授の川本和孝さんは、こう説明します。

BILANC16玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」 玉川学園 TAPセンター准教授
川本 和孝さん

児童・生徒・学生が「理想の自分」になり、
自己肯定感を高められるよう
応援したい

「TAPは学級経営にも関係しており、各クラスの中でどのようにTAPを取り入れていくか、担任の先生と話し合うことから始まります。特に決まったプログラムがあるわけではなく、TAPセンターのスタッフが工夫しながら、クラスごとの特色を生かしながらカスタマイズしていきます。例えば、鬼ごっこなどの日常的な遊びにもアドベンチャーの要素を取り入れることができます。アドベンチャーとは度胸試しではなく、児童・生徒・学生が自分の理想や夢に向けて一歩踏み出すことです。例えば、人前で話すことが苦手な生徒がいれば、そのことにチャレンジする。身近な課題を設定し、自分がどうなりたいかを決めて、チャレンジの練習をする機会がTAPなのです」

~自分を見つめ直し自己肯定感を高める

現代の日本の子供は自己肯定感が低いといわれています。自分のことを好きだと思えず、自信たっぷりに振る舞うといじめの対象になりかねません。TAPは自分を認め、他者も認め、お互いに認め合える関係を日常生活につくる練習の場になっているのです。
「TAPはチャレンジを振り返ることが重要で、その体験をどのように生活に生かし、自己肯定感を高めていけるか支援することが、われわれスタッフの役割です」と、川本さんは言います。

BILANC16玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」 玉川学園 TAPセンター准教授
村井 伸二さん

日々の学園生活で
目覚ましく成長する姿に
TAPの成果を感じる

それでは、実際にどのようにTAPを進めているのか、TAPセンター指導員の永井由美さんはこう語ります。
「幼稚部の園児は保護者と一緒に、そして低学年児童はサマースクールで希望者が体験します。7年生(中学1年)から本格的に年間を通してプログラムを実施しますが、自らが選べるように進め、やらされたと思わないように工夫しています。たとえ、すぐにできなくても選択肢を与え、安心できるようにしています。そのためにも一人ひとりへの声かけが大切です」
TAPセンターのスタッフは「指導者」ではなく「ファシリテーター」と呼ばれ、参加者同士の信頼感を生み出し、参加者を呼ばれたい名前で呼ぶなど、打ち解けた雰囲気をつくっているそうです。また、TAPでは「チャレンジ・バイ・チョイス」と「フルバリュー・コントラクト」という考え方が重視されています。チャレンジ・バイ・チョイスとは、チャレンジは強制されるものではく、自らの意思で選択を行い挑戦するものだという考え方。フルバリュー・コントラクトは、目標達成に必要な努力や言動など、仲間同士で価値観を最大限に相互尊重することをいいます。
地上9メートルといえば、一般的なビルの3階ですから、その高さでケーブルや丸太を歩くのは、誰でも最初は足がすくみます。TAPセンター准教授の村井伸二さんはこう語ります。「ハイチャレンジコースでは誰もが緊張します。足を震わせながら登る人もいますが、一歩踏み出してやり遂げ、下に降りてくるとみんなで抱き合い、お互いの挑戦やサポートを尊重している姿を目にします。こうした体験でグループへの帰属意識が高まり、相互信頼が生み出されます」

BILANC16玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」 玉川学園 TAPセンター指導員
永井 由美さん

体験を通じて「挑戦する人」
「思いやりのある人」などの
学習者像を学んでほしい

~TAPは人がもつ潜在能力を引き出す

川本さんもこう言います。「9メートルの丸太の上で、恐くて一歩も踏み出せない。そのとき、仲間を信頼して踏み出す一歩の勇気が貴重なのです。こうした体験を振り返り、日常生活に置き換えるとどうか、夢を追う中で、自分の命綱を支えてくれている人は一体誰か、自分を見つめ直すことにつながります」
幼稚園や小学校から進級する生徒はTAPに慣れているものの、中学・高校・大学から新規で入学する生徒・学生は、当初TAPに抵抗感をもつといいます。「最初はイヤがって逃げる学生がいます。特に、人と触れ合うことが苦手な人 はイヤがりますね。しかし、TAPを経験していくと『自分にもできる』と気づく瞬間があるのです。『これほど人から認められたことはない』と言う大学生もいます。人と一緒に活動する喜びを知るのと知らないのとでは大きな違いです」(川本さん)
玉川大学には「TAPファシリテーター資格」という独自の制度があり、資格を得た学生は、TAPセンタースタッフとともにファシリテートを行います。現在、70人が受講していますが、TAP参加者の喜びが自分にとっても大きな喜びになるようです。
TAPは玉川学園以外の人たちも体験することができます。TAPセンターでは社会人を対象にリーダーシップやファシリテーションを学ぶ研修や、新入社員向けのアドベンチャーセミナーも行っています。また、スポーツ選手やスポーツチームを対象に、チームビルディングを学ぶ研修も提供しています。サッカークラブや大学のバスケットボールチームなどを受け入れたことがあるといいます。チームワークを強化するのに、TAPほどふさわしいプログラムはないでしょう。

玉川学園「玉川アドベンチャープログラム」
TAPでは、仲間と話し合い、自らを見つめ直すことを大切な時間と考えています (提供:玉川学園)

~玉川学園だからこそ生まれた教育プログラム

玉川学園の全人教育とTAPとの関連を聞くと、村井さんは「全人教育を体験的に実践するうえでTAPはとても役立つ」と言います。確かに、「自ら一歩踏み出す」ことを説いた玉川学園のモットー(特集:私学の今を聞く「小原理事長のインタビュー参照」)は、そのままTAPの理念に重なります。
永井さんも「大学から新規に入学してくる学生は、全人教育とは何かをあまり知らないので、TAPのアクティビティの中で説明するようにしています」と、その位置づけを話します。さらに、ラウンドスクエアの6つの教育の柱である「IDEALS」(I=国際性、D=民主主義、E=環境、A=アドベンチャー、L=リーダーシップ、S=奉仕)とTAPの考え方も重なるそうで、「プログラムの中で学生・生徒に考えてもらうようにしています」(永井さん)。
TAPは国際バカロレアの学習者像とも通じています。それは「Risk-taker(挑戦する人)」「Caring(思いやりのある人)」「Balanced(バランスのとれた人)」など10ありますが、永井さんは「言葉だけではわかりにくいため、TAPを通じて体験的に理解できるようプログラムの提供をしています」と語ります。
「一昨年、昨年に行われたラウンドスクエアの国際会議に参加した高校生に対して、会議について発表してほしいとお願いしたところ、真っ先に手を挙げてくれた生徒がいました。これもラウンドスクエアやTAPといったアドベンチャー教育の成果だと思います。TAPはその人がもっている力を引き出すのです」と村井さんは言います。
現在、チャレンジコースでは新たな設備を建築中。完成すると、複数の参加者が同時にグループで高いところに昇り、チャレンジできるようになります。
アメリカでは体育館にチャレンジコースを常設している公立高校も多いといいます。日本でもアドベンチャー教育がもっと広がることを望みます。

※私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

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