この瞬間から人生が変わる!「深い人間」になる必読書
最近、書店で哲学の特設コーナーが設けられるなど、ちょっとした「哲学書ブーム」。それだけ多くの人が混迷の時代に不安を感じ、生きる指針を探し求めているのかもしれませんが、哲学とはそもそも、ものごとの本質を探究する行為であり、その果てに「解」はありません。しかし「考え抜く」という作業によって、生きるヒントが見つかることもあります。ここでは、ものごとを「考え抜く」うえで手助けとなる哲学書をご紹介しましょう。
構成:田ノ上 信
撮影:石橋素幸
編集:プレジデント社
いきなり古典を読まない。わからない部分は飛ばす。これがコツ
代々木ゼミナール講師 畠山 創氏(はたけやま・そう) 早稲田大学卒業。専門は政治哲学(正義論の変遷)。現在、代々木ゼミナールで公民科講師を務める。「倫理」の授業では、哲学的な問いかけによって授業を進める「ソクラテスメソッド」を採用。医師会などでも「哲学すること」の魅力を伝えている。著書に『大論争!哲学バトル』(KADOKAWA)、『考える力が身につく哲学入門』(KADOKAWA/中経出版)などがあり数カ国語に翻訳されている。 |
~真理を追究するための二つのアプローチ
あまたある哲学書の中から、何を読めばいいのか。哲学ブームの今、ちょっと背伸びをして「ソクラテス」や「カント」を読もうと考えている方もいるかもしれませんが、私がおすすめするのは、入門書から入るスタイルです(図表❶)。いきなり古典に手を出すのは推奨できません。「そもそもソクラテスって、何を言った人だっけ?」といった状態で読み始めても、内容を理解するのは難しいからです。
1.『ことばの饗宴』岩波文庫編集部編、岩波文庫 2.『人生が変わる哲学の教室』小川仁志、中経出版 3.『大論争! 哲学バトル』畠山創・岩元辰郎、KADOKAWA 4.『哲学用語図鑑』田中正人、プレジデント社 5.『倫理資料集』倫理資料集編集部、山川出版 |
では、どのような入門書がいいのか? 私は、「ファンになれる哲学者を探せる本」がいいと思います。その一つが名言集の『ことばの饗宴』。哲学に特化したものではありませんが、好きな哲学者探しに打ってつけです。
『人生が変わる哲学の教室』は、プラトンやヘーゲルなど、主要な哲学者の概念をわかりやすく解説したもので、これも最初の一冊にぴったり。
拙著『大論争! 哲学バトル』でも哲学者の主張を集約しているので、ガイドに役立つと思います。毛色の違うところでは『哲学用語図鑑』。図がとてもわかりやすく、複雑で難解な哲学用語が手に取るようにわかるので、私も学生に推薦しています。
『倫理資料集』は高校生向けの参考書。思想家1人につき1ページで紹介し、名言や思想などもコンパクトにまとめられています。類書と大きく違う点は、索引がテーマ別(「大衆」「正義」など)になっていること。たとえば自分が愛に悩んでいたら、「愛」の項目を引けば、ハイデガーが愛について語っていることがわかり、「ハイデガーの本を読んでみたい」という気も湧き出ると思います。
~読む本の難易度を少しずつあげていく
このようにして好きな哲学者が見つかったら、自然と哲学への興味が広がっていくはずです。そこで、いよいよ「哲学的思考」を身につけるための本を読んでいきましょう(図表❷)。
まず読みたいのは「初級編」の4冊。しかし、ラッセルやヤスパースは少々難しいので、最初は『君たちはどう生きるか』がおすすめです。2017年にベストセラーになった漫画版の原著で、内容は主人公のコペル君が叔父さんとの日常会話を通して「世界」を見つめ直していくというもの。初版は1937年ですが、現代に通じる普遍性があり、漫画化されてヒットしたのも納得です。
『14歳からの哲学』は2003年発行。著者はその4年後にがんで亡くなっています。おそらく闘病生活中に死と向かい合って書かれたのでしょう。作中、病気について明言されていませんが、そうした背景を思いながら読むと、一言一言が心に重く響いてきます。
初級編で挙げた本で「考え抜く」という作業に慣れたら、中級編で「思考実験」にチャレンジしてみましょう。思考実験とは、「1+1=2は本当か」「目の前にあるボールペンは本当に存在しているのか」などと考えることをいいます。ここで挙げた『100の思考実験』は、明確な答えを提示してくれるものではありませんが、「考えること」の面白さを体感できると思います。『プラトンとの哲学』も架空のプラトンとの対話形式で進められ、「思考」と向き合える一冊です。
これらの実践書をへて、上級編で古典に挑んでみましょう。私が選んだのは3冊。
『方法序説』でデカルトが言っているのは、「とにかくものごとを疑い考え続けよ」ということです。同書を読むことで、哲学は「ある」ものではなく、いまある現実を「疑う」ことだと理解できるでしょう。
ミルの『自由論』は、自由とは何かを疑い、「疑う」という行為を社会に向けた点で特筆される書物です。「多数決が当たり前とされる世界で、多数決は必ずしも正しいわけではない」と、現実社会の問題を哲学に結びつけたことが、ミルの功績といえます。
『ブッダのことば スッタニパータ』は、昭和の哲学者・中村元が古典の内容を集約したブッダの名言集。人生最大の問いといえる「死」を、いろいろな形で説いています。短文の警句であるため印象に残りやすい点も特徴です。
~本はネットより書店や図書館で見つかる
今回ご紹介した本以外にも数多くの哲学書があります。ぜひ自分に合う本を見つけてみてください。はじめのうちは古典の壁にぶつかるかもしれません。読んでわからない部分もあるでしょう。そんな時は、思い切って飛ばしてしまいましょう。わからない部分を無理に理解しようとするのではなく、わかる部分についてとことん考えたほうが有意義です。
また、本を探す時は、書店や図書館で実物を手に取ってみることが大切です。私はよくジュンク堂書店を利用しています。気になる本をパラパラと読んで、共感できる部分があり、「読みたい」と思った本を買うと失敗が少ない。
これは余談ですが、私は学生時代にたまたま図書館でロシアの作家ゴーリキーの『どん底』を見つけて読みました。哲学書ではありませんが、当時、私はいろいろと思い悩んでいて、まさにどん底の気分だったので、タイトルに目がとまったのです。同書の中に、「仕事が楽しみならば人生は極楽だ。苦しみならばそれは地獄だ」という言葉があります。その言葉に勇気を得て、いまの仕事を選びました。本にはそういう力があるのです。
今、さまざまな悩みを抱えている人も、小説、思想書、歴史書など広い意味での哲学書を読むことで、目の前がパッと開けるかもしれません。