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"私立""女子大""ローカル"…、ピンチの根源を飛躍のチャンスに!

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本来の高等教育の果たすべき社会的使命に視点を置いた取り組みが成功するためには柔軟に変化できる学校の仕組みが必要です。
そこで、社会の発展・改善に目を向け学生を育成するという取り組みを行っている恵泉女学園大学学長の大日向雅美先生に、当財団常務理事の大沼がお話を伺いました。

bilanc17特集記事
左から、恵泉女学園大学学長 大日向雅美氏、当財団 常務理事 大沼聡


※2018年11月発行BILANC vol.17に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:小田駿一 
編集:プレジデント社

~ 国公立にない強み

大沼 私は、日本の高等教育は、私学がなければ成り立たないと考えています。なぜなら、日本の大学のうち約8割は私学だからです。ところが少子化が進んで、学校を取り巻く経営環境は厳しくなり、とりわけ公的支援を得にくい私学では、いっそう窮地に立たされています。そうしたなかで大日向先生は、私学の将来性をどのようにお考えでしょうか。

大日向雅美先生(以下、「大日向」) 日本は今後、18歳人口が減っていきますし、大学間のグローバルな競争も激しくなっています。私学の経営は、ますます難しくなるでしょう。そのなかでも本学のように、女子大学で、小規模で、郊外立地という私立大学は、競争条件で見れば、かなりのハンディではないでしょうか。しかし、経営者のやる気と能力、センスで、ピンチをチャンスに変えることはできると考えています。
国公立大学と違って、私立大学は後ろ盾がない半面、国や自治体とのしがらみも少ないので、社会のニーズとダイレクトに向き合いながら、個性ある大学をつくり上げていくことができます。
さらに本学のような小さな大学は、トップの腕いかんでスタッフ全員が危機感を共有し、同じ方向を向くことができるので、経営改革を進めやすいという利点もあると思います。

大沼 ということは、貴学には勝算がおありになるということですよね。どのようにして、ピンチをチャンスに変えていこうとお考えでしょうか。

大日向 本学のような郊外の小さな私大が、豊富なリソースを持った都心の大きな私大と同じ土俵で戦っても、意味がありません。そこで、本学だからこそできることを見つけていく。潜在的なニーズを掘り起こし、ソリューションを学生に提案する。いわば「ニーズをつくり出し、出口をつくる」ということが、必要だと考えています。

大沼 私もニーズをつくり出すことが、私学にとって重要なことだと考えています。貴学ならではの具体策を教えていただけますか。

大日向 女性が社会を生きていく上で必要な知識・技能・判断力などを養うために、まず、少人数教育を徹底しています。それは学生一人ひとりにじっくり向き合いながら育てていくということ。
本学は、授業の90%が履修者50名以下、そのうち60%が履修者20名以下で、1年から4年まで全員が10名前後のゼミに所属することになっています。しかも、1学年の学生数が少ないので、同じ学年なら、教員もクラスメートも、お互いの名前や顔はもちろん、気心までわかるんですね。
また、学食に「ラーニングコモンズ」を設定し、相談員が勉強だけでなく、教員や学友との人間関係、学生生活や恋愛の悩みといったことまで気軽に相談できるようにしています。そうした4年間の学びのなかで、学生は「自分は一人じゃない。まわりに支えられている」という安心感を抱き、向上心を失わずに自己を肯定できるようになるのです。
さらに、学生が社会に出てからのフォローアップも充実させています。NPO法人に協力してもらい、卒業生の相談に乗ったり、起業やキャリアアップを支援したりもしています。
 

~ 「生涯就業力」を教授

大沼 確かに、大学ぐるみの手厚い少人数教育ということがよくわかります。郊外の小さな大学だからこそできる取り組みとしては、ほかにどんなことが挙げられますか。

大日向 「郊外だから」というよりも「地域密着だから」という点で挙げられるのが、社会人入試です。今や18歳人口の約半数が大学に進学する時代となり、メインの市場はすでに飽和状態になっています。
一方で、社会人の大学入学はニーズが高まっているので、本学では昨年(2017年)度から社会人入試に注力するように なりました。70代で入学された学生さんもいます。
本学のキャンパスがある多摩ニュータウンは、高齢化が進んでいるのですが、高齢の住民の中には、「もう一度、大学で学び直したい」という方が多くいらっしゃいます。そういった方に学びの場を提供しています。

大沼 卒業生をフォローアップしたり、社会人に学び直しの機会を与えたりする貴学の制度はすばらしいですね。社会へのコミットに真摯に取り組んでいるということだと思います。
日本の大学は、偏差値や入試の難易度といった“入口”ばかりが注目されがちですが、“出口戦略”が最も重要なはずです。米国のように本来、大学は「どのような学生を育てたのか」、さらには「卒業生が社会でどのように活躍しているか」という基準で評価するべきです。
社会へのコミットについては、大日向先生は学長にご就任以来、「生涯就業力を磨く」という教育理念を打ち出されているそうですね。

大日向 どんな社会にも欠陥があります。ですので、常に改善が求められます。
社会に出てからさまざまな課題を解決し、人生を切り開いていくためには、学問に裏打ちされた知識や見識が必要です。それとともに、社会の中では、多様な人々と共に生きていく力も欠かせません。それらをあわせて、私は「生涯就業力」と呼んでいます。

大沼 就業については最近、「AI(人工知能)が発達すれば人間の仕事を奪うのではないか」という議論が、よくなされていますよね。

大日向 確かに、AIに代替される仕事があるかもしれません。しかし私は、人間とAIはまったく異質で、例えば、スタッフのマネジメント、コミュニケーションなど、人間にしかできない仕事もたくさんあると考えます。だからこそAI化の時代には、就業のための表層的なスキルやノウハウを取得するよりも、礼儀やマナー、他人への思いやりといったことを身につけるほうが大切です。そのように、人間としての基礎学力、幅広い教養を高め、新しい世の中を生き抜く力が「生涯就業力」といえるでしょう。
しかも私が生涯就業力を提唱しているのは、日本にはまだジェンダーの壁が立ちはだかっているからという理由もあります。

大沼 と、おっしゃいますと?

大日向 就職したら定年まで勤めるケースが多い男性と違って、女性は就職した後も、結婚や出産、育児、介護と、生活のステージが変わるごとにライフスタイルを変えざるを得ないのが現状です。例えば、第一子を出産した女性のうち、同じ職場で働き続ける女性は約50%にとどまっています。つまり女性は、生活環境が変わっても生涯にわたって働き続けられる能力が求められているわけです。
 

~ 梨花女子大との国際シンポジウム

大沼 なるほど。実は、私も家事や育児の経験がありますが、本当に大変でした。主婦は、立派な職業として認めるべきです。男性が女性の家事や育児にもっと感謝し、敬意を払えば、ジェンダーの壁の解消に役に立つと思うのですが。

大日向 それは、違うのではないでしょうか。そもそも家事や育児を対価が伴う“職業”と考えるべきではありません。家族の皆の大切な仕事であり、男性も対等に分かち合うべきなのです。そうすれば、女性も社会進出しやすくなるでしょう。

大沼 これは、失礼いたしました。そういえば、貴学は以前から、国際交流にも力を入れていらっしゃるとうかがいましたが。

大日向 タイやフィリピン、ベトナム、中国、韓国など、アジア各国との交流を長年、実施してきました。アジアからの留学生の受け入れは、大学としては日本初だったのではないでしょうか。
本学からも、交換留学生をアジアに派遣しています。タイの山岳地帯で6カ月間、現地の人々と生活を共にし、本学ならではのオリジナルの体験プログラムを豊富に揃えています。
⇒参考)維持会員通信 「恵泉女学園:海外での体験学習フィールド・スタディ

大沼 貴学は、韓国の名門女子大学、梨花女子大学とも提携されているそうですね。今年10月には梨花女子大学と共同で、国際シンポジウムを開催されたとうかがいました。どのような内容なのですか。

大日向 私が学長に就任して生涯就業力を標榜したとき、「分かち合いのリーダーシップ」の養成を掲げた梨花女子大学の共感を得て、国際シンポジウムの共同開催を持ちかけられたのです。それ以来、定期的に開催し、今年10月で4回目です。今回のシンポジウムでは、初めて梨花女子大学総長をお迎えして、東アジアで活躍する新しい女性のリーダー像について、ディスカッションしました。

bilanc17特集記事
大日向学長と金恵淑(キムヘスク)梨花女子大学総長との講演。
出席者との質疑応答も行われ、生涯就業力を育む教育の具現化を一層進めていくものとなりました

大沼 ところで文化学園大学は文化女子大学を改組し、2012(平成24)年度より共学化に踏み切りました。主な教育・研究対象としているファッションの産業構造がユニセックス化したため、女子学生だけでなく、男子学生も受け入れるのが時代の要請だと考えたからです。男子も優秀な学生しか入れませんから、共学化後もレベルは落ちていません。一方で、貴学は共学化しない方針とうかがいました。

大日向 おっしゃる通りで、本学は今のところ、共学化するつもりはありません。というのは、女子大学には、まだ果たすべき役割があると考えているからです。日本では、40代以下の世代でジェンダーバイアスがなくなりつつあるといわれていますが、全体としては、まだ「男性中心社会」です。ジェンダーバイアスの社会の中で足下を見つめて、どうするべきかということを考え実践するための女子大として本学は、来たるべき「男女共生社会」への転換に向けて、そのリーダーを育成したいと考えています。

大沼 男女共生社会に転換するには、どんな女性のリーダー像が求められるのですか。

大日向 日本政府は「202030(にーまるにーまるさんまる)」、すなわち、2020年までにあらゆる分野の女性指導者の割合を30%にまで高めようと旗を振っているわけです。
女性の適性から考えると、私は「野の花の美しさ」も大切にすべきだと考えています。男性型の競争社会でピラミッド組織の頂点を目指すこともありかと思いますが、他方で、地域の身近なコミュニティーのリーダーになることで、誰もが生活しやすい、平和な男女共生社会に社会モードを転換していくことも、これからの社会に求められる真の女性活躍の姿だと考えています。

大沼 とても興味深いです。ファッション産業も、男女平等ですし、平和産業ですから、男女共生社会でこそ、繁栄できるのかもしれませんね。本日は、有意義なお話をさせていただき、誠にありがとうございました。

bilanc17特集記事大日向先生

お話を伺った方
大日向 雅美 氏:
恵泉女学園大学学長。
専門分野は発達心理学。NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事として、子育て広場の運営・支援などを行い、NHK「すくすく子育て」ほかテレビ出演も多数。著書は『母性の研究』『母性愛神話の罠』(共に日本評論社)など。2003年、エイボン教育賞受賞。2016年、男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰。

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