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退職金制度と就業規則の基礎知識

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当財団の退職資金交付事業は、当財団に加入している学校法人(維持会員)の皆様が支給する「退職金」に必要な資金を交付する制度です。ここでは、退職金及び退職資金交付事業の重要性を皆様に再確認していただくために、当財団の顧問弁護士である立﨑・小林法律事務所の小林誠弁護士に、退職金制度について、基礎的な内容を中心に解説していただきました。

BILANC10小林先生 立﨑・小林法律事務所 弁護士
小林 誠氏(こばやし・まこと)

~まず、退職金とは何でしょうか。

退職金とは、退職に当たって使用者から退職者に支給される金銭のことをいいます。退職手当、退職慰労金といわれることもあります。
では、退職金は、「賃金」(労働基準法(以下「労基法」といいます)11条)に当たるでしょうか。「賃金」に当たれば、労基法の「賃金」に関する諸規制が及ぶことになります。これについて、退職金の支給基準が定まっておらず、その支給が使用者の裁量に委ねられている限りは(このような給付を「任意的恩恵的給付」といいます。)「賃金」に当たらないとされています。これに対して、就業規則、労働協約、労働契約等によって予め退職金の支給基準が明確に定められている場合は「賃金」に当たるとされています(昭和22年9月13日発基第17号)。もちろん、この場合、使用者は就業規則等の定める支給基準に基づいて退職金の支払義務を負うことになります。今日、大多数の学校法人では、就業規則(「退職金規程」などの名称を付されたものもこれに当たります。)で退職金の支給基準を定めていますから、これらの学校法人では、退職金は「賃金」に当たることになります。
ただし、退職金は、「賃金」に当たる場合であっても、なお多くの場合、功労報償的な性格を併せ持つとされています。この点をもう少し詳しく説明しますと、多くの就業規則では、退職金は、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定することとされています。この点から見ると、退職金は、賃金の後払いと位置付けられます。しかし、また、多くの就業規則では、勤続年数が増えるにつれて支給率が上昇することとされています。この点から見ると、退職金が功労報償的な性格を有していることも否定できないのです。自己都合退職と会社都合退職で退職金の支給基準を区別したり、懲戒解雇など一定の事由があったりする場合に退職金を減額・没収する条項が設けられることがありますが、これも退職金の功労報償的な性格によるものとされています。

~退職金制度と就業規則の関係を教えてください。

(1)労基法89条本文は、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」と定めています。したがって、就業規則を作成する際には、「次に掲げる事項」(労基法89条1号から10号に掲げる事項)を必ず記載しなければなりません。ただし、これらの事項にも、いかなる場合であっても必ず記載しなければならない事項(これを「絶対的必要記載事項」といいます。)と「定めをする場合においては」必ず記載しなければならない事項(これを「相対的必要記載事項」といいます。)があり、退職金に関する事項は、後者に当たります(労基法89条3号の2)。ですから、退職金制度を設けるかどうかは使用者の自由ですが、この制度を設ける以上、就業規則(「退職金規程」などの別規程でも構いません。)に、後に述べる(2)の事項を記載しなければなりません。この記載を欠けば、就業規則の作成義務に違反することになります。ただし、この記載を欠く就業規則であっても、周知の要件(労基法106条1項)等を具備する限り有効と扱われるものとされています(昭和25年2月20日基収第276号)。
(2)退職金制度を設ける場合、就業規則に必ず記載しなければならない事項は、①「適用される労働者の範囲」、②「退職手当の決定、計算及び支払の方法」、③「退職手当の支払の時期」とされています(労基法89条3号の2)。
ここで、「退職手当の決定、計算及び支払の方法」とは、例えば、勤続年数、退職事由等の退職手当額の決定のための要素、退職手当額の算定方法(俸給月額×支給率など)及び一時金で支払うのか年金で支払うのか等の支払の方法をいいます。なお、退職手当について不支給事由又は減額事由を設ける場合には、退職手当の決定、計算の方法に関する事項に該当しますから、就業規則に記載する必要がありますので注意を要します(以上、昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号)。
また、「退職手当の支払の時期」は、できる限り明確に記載しなければならないとされています。確定給付企業年金制度に基づき年金あるいは一時金が支払われる場合で、保険会社の事務的理由等によりあらかじめ支払時期を設定することが困難なときには、確定日とする必要はないが、いつまでに支払うかについては明確にしておく必要があるとされています(昭和63年3月14日基発第150号・婦発第47号)。なお、「賃金」は、権利者の請求があった日から7日以内に支払わなければなりませんが(労基法23条1項)、「退職手当の支払の時期」が定まっている場合には、その時期まで退職金を支払わなくても差支えないとされています(昭和26年12月27日基収第5483号,昭和63年3月14日基発第150号・婦発第47号)。
(3)維持会員の方々の就業規則の中には、退職金に関して、「退職金財団と同額を支給する」、「退職資金交付業務方法書の規定に基づき支給する」などの記載がされることがあります。これらの記載も、退職金の金額や算定方法については、公益財団法人私立大学退職金財団(以下「財団」といいます)から交付される「退職資金」の金額やその算定方法に依拠することが明確になっていれば、「退職手当の決定、計算の方法」として必ずしも明確性を欠くとはいえないと思います。ただし、この場合、退職金の金額等は、財団の退職資金交付業務方法書(以下「業務方法書」といいます)なども見なければ分かりませんから、これについても周知する必要があります(労基法106条1項)。また、業務方法書の改正によって、退職金に関する就業規則の内容が実質上変更されることになりますので注意を要します。

~当財団の業務方法書との関連を教えてください。

今日、大多数の学校法人では、就業規則等で退職金制度を設けていますが、退職金は、月例賃金と異なって、相当多額にのぼることもありますから、その支給は、ときに、極めて大きな財政的負担になることがあります。財団の退職資金交付事業(以下「本事業」といいます)は、このような場合に、教職員に対して退職金が確実に支給されるよう、併せて、これを支給することによって学校法人の経営が圧迫されることがないよう、維持会員が教職員に対して退職金を支払った場合に、当該学校法人に対してそのための資金(退職資金)を交付する制度です。本事業の内容については、財団の業務方法書に詳しく記載されていますから、これをご覧いただきたいのですが、ここでは、いくつかのポイントを説明したいと思います。
まず、本事業の適用を受けるためには、学校法人が財団に加入していなければなりません。そして、財団に加入した学校法人である「維持会員」は、掛金その他所定の負担金の納付義務を負い(業務方法書6~9条)、これを怠った場合には、これを怠った期間、「退職資金」の交付が停止されます(業務方法書12条2項)。ここでのポイントは、財団に「加入」するのは学校法人であって、教職員ではないということです。もちろん、掛金その他の負担金の納付義務を負うのも学校法人です。
次に、本事業に基づいて「退職資金」の交付を受けるためには、教職員が退職し、維持会員がその教職員に対して退職金を支給したことが必要となります。ここでのポイントは、教職員に対して退職金を支給するのは、あくまで維持会員であって財団ではないということです。維持会員は、自らの就業規則等に基づいて教職員に対して退職金を支給しなければなりません。もう1つのポイントは、「退職資金」の交付請求は、教職員に対して退職金を支給した後でなければできないということです。このため、「退職資金」の交付請求をするためには、教職員が退職金を受領したことを証する書面又はその写しを添付しなければならないこととされています(業務方法書14条)。
そして、維持会員が財団に対して「退職資金」の交付請求をした場合、所定の要件を満たしていれば、所定の金額の「退職資金」が維持会員に対して交付されます。ここでのポイントは、「退職資金」は維持会員に対して交付されるのであって、教職員に対して交付されるのではないということです。
以上を踏まえますと、就業規則で、以下のような記載は、避けていただく方がよろしいでしょう。
一つ目は、「教職員は財団に加入する」という記載です。財団に「加入」するのは学校法人で、教職員について行うのは「登録」(業務方法書8条1項、11条1項など)です。
二つ目は、支給する退職金の額について、「財団から支給される金額を差し引いた金額を支給する」という記載です。教職員に対して退職金(全額)を支給するのは維持会員で、財団は維持会員に対してそのための資金(退職資金)を交付するに過ぎません。
三つ目は、都道府県の退職金団体の制度を念頭に置いて「財団から退職資金の交付を受けた後、すみやかに退職金を支給する」という記載です。「退職資金」の交付を受けるためには、それに先立って、教職員に対して退職金を支給しなければなりません。

○ 誤解をしないように、法律用語等の基礎も確認しましょう。

❶ 使用者
主に雇用関係における事業主、雇用主、経営担当者などを指します。労働契約法では、その使用する労働者に賃金を支払う者とされています。

❷ 要件
一定の法律効果を生じるため要求される事実、特定の法律上の行為をするために必要な前提条件を指します。

❸ 就業規則
事業所における労働者の就業に関し、使用者が作成する規則で、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、行政官庁に届け出る義務があるものです。

❹ 発基、基発、基収、婦発
厚生労働省からの取扱いの統一性を確保するための通達文書の略称です。「発基」は事務次官名、「基発」「婦発」は局長名、「基収」は厚生労働省労基局長による疑義への回答を示しています。

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