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女性研究者支援から始まった首都大学東京のダイバーシティ推進室は、セクシュアル・マイノリティや外国人、障がい者などにも支援の対象を広げ、様々な人が活躍できるよう活動を行っています。マイノリティの当事者に寄り添うために各分野の専門家を特任研究員として採用するなど、他大学にはない独自の組織体制を構築。首都大学東京のダイバーシティの取り組みについて、学長室長 小川仁氏、ダイバーシティ推進室 特任研究員 藤山新氏と横山正見氏に話をお聞きしました。

編集:日経BPコンサルティング

BILANC10「ダイバーシティ」首都大学東京の皆さま
(左から)
首都大学東京 管理部 学長室長 小川 仁氏(おがわ・ひとし)、首都大学東京 ダイバーシティ推進室 特任研究員 藤山 新氏(ふじやま・しん)(男女共同参画推進担当、文化的多様性を持つ構成員支援担当)、同 横山正見氏(よこやま・まさみ)(障がいがある構成員支援担当)

~首都大学東京のダイバーシティ推進室はどのような経緯で作られたのでしょうか。

小川 東京都の公立大学である首都大学東京には、「都市課題の解決」という開学のミッションがあります。その中には、当然ながらグローバル化や少子高齢化といった都市課題があり、男女共同参画についても議論してきました。そして、本学では2011年3月にダイバーシティ推進基本計画を策定し、同年9月にダイバーシティ推進室を開設しました。その時期に、文部科学省科学技術人材育成費補助事業「女性研究者研究活動支援事業」に採択されるなど、本学における男女共同参画推進事業の取り組みが大きく前進しました。
ダイバーシティ推進室では、男女共同参画推進のほか、障がいがある構成員支援、文化的多様性を持つ構成員支援、セクシュアル・マイノリティ支援などを行っています。ジェンダー論やセクシュアル・マイノリティの研究を専門とする藤山さん、障がい者支援を専門とする横山さんを特任研究員として採用し、私たち学長室の職員を含む混成チームでダイバーシティ推進に取り組んでいます。

藤山 混成チームであることはとても重要で、他大学であれば男女共同参画に取り組むスタッフと、障がい者や外国人を支援するスタッフは、それぞれ別の部署に所属しているケースがほとんどです。しかし、本学は専門のスタッフが同じ場所にいて、常に情報共有をしており、全学での合意形成が必要なときは学長室が中心となって動くことができます。ダイバーシティに取り組む環境としては理想的な形です。

横山 最近は他大学でも障がい者支援に積極的に取り組んでいますが、ダイバーシティ推進の一環としているところは少ないので、私も本学のような取り組みが全国の大学に広がってほしいと思っています。

~男女共同参画ではどのような支援をされているのでしょうか。

小川 2011年度から3年間は文部科学省の補助金を得て、妊娠・育児・介護などの問題に直面している女性研究者が研究支援員を雇用できる「女性研究者研究支援員制度」を創設しました。2014年度からは本学独自で事業を継続することになりましたが、支援の範囲を男性にも広げたところ、育児休業で利用する男性教員のほうが多い時期もありました。
昨年には、博士後期課程の女性大学院生を対象とした「首都大学東京女性大学院生研究奨励賞」を創設しました。研究に対するモチベーションを高めてもらうことを目的とした賞で、第1回は20人以上の応募があり、5人が受賞しました。また、大学の近くに教職員や学生が利用できる一時保育施設も開設しました。

~外国からの学生や研究者への対応ということではいかがでしょうか。

藤山 これまで外国から来た研究者には、支援窓口がなかったので、ダイバーシティ推進室で支援をしています。彼らからは研究に関係する周囲の人としか関わる機会がないという話をよく聞きますので、交流の場を設けるようにしています。そのような場は、日本人の学生や教職員にとっても多様な価値観や文化を学ぶ良い機会になるはずです。

~首都大学東京の特徴的な取り組みの一つに、
セクシュアル・マイノリティ支援がありますね。

藤山 セクシュアル・マイノリティは、とても重要な社会課題の一つですから、学生や教職員を対象とした講演会やワークショップなどを開催して、セクシュアル・マイノリティのことを知ってもらうための活動を行っています。セクシュアル・マイノリティの抱えている問題は様々で、人によって違います。例えばトランスジェンダーの人でしたらトイレや更衣室の問題があり、「自分がどちらのトイレを使用するべきか」といった相談を受けたことがあります。どのような場合も当事者と話し合い、できるだけ希望にそえるよう対応していますが、そのためには周囲の理解が不可欠で、関係部署にも多大な協力をしてもらっています。

~障がい者支援では、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

横山 障がい者支援制度として始まったのは2014年で、2016年4月に障害者差別解消法が施行されたことに合わせて、2015年度末には教職員対応要領を策定しました。外部の専門家を招いて、全学を対象としたバリアフリー講習会なども開催しています。昨年、東京都と本学、NECと協働で開催した「TOKYO手話カレッジ」というイベントでは、首都圏から関係者が600人ほど集まりました。
障がい者支援(合理的配慮の提供)では、当事者がニーズや困難を表明する上で環境の整備をすることが大切ですが、ダイバーシティ推進室という部屋があることは大きな意味を持ちます。障がい者といっても、目に見えない内部障がいや精神疾患の学生もいるはずです。そんな学生にとっては「ここに行けば相談できる」と思える場所があり、いつでも相談できるスタッフがいることが大切なのです。

~一般の学生たちに、変化や成長などが見られることはありますか。

横山一般の学生には支援スタッフとして参加してもらっていて、現在40人の学生が登録しています。支援内容は、視覚障がい者の移動や対面朗読などの直接的な支援と、バリアフリーマップを作ったり、点字シールを貼ったりするなどの間接的な支援があります。支援スタッフを見ていると、主体性や視野の広がりを感じることが多いです。食堂の点字メニューを作ったり、調味料入れに点字シールを付けたりするなど、身近なことに気がついてすぐに行動をしています。ダイバーシティ推進室という開かれた場所があるので、一般の学生も参加しやすく、提案しやすいのだと思います。

~職員の方々との連携で意識していることはありますか。

小川 勉強会や講習会などを開催する際は、研修扱いにして職員が参加しやすいように促しています。

藤山 アンケートの性別欄に、「男性・女性だけでなく、その他という項目を設けようと思う」と提案がありました。実際、自分の性別を決められずに悩んでいる人にとっては、性別欄に記入することが苦痛です。
そういった方がいることを理解している職員が増えてきて、とてもありがたいと感じています。

~ダイバーシティを推進したいと考えている大学へアドバイスをお願いします。

藤山 ダイバーシティの問題は、一つの解答で解決するわけではありません。当事者の話を聞いて、どうすればいいかを一緒に考えていくことが重要です。とはいえ、ニーズや困り事の引き出し方も難しく、どのように当事者と向き合っていくかは私たちも試行錯誤を繰り返しているところです。

横山 組織として、専門家と職員が一緒に課題に取り組める本学のような形が理想だと思います。その上で、どこかで学生が関われると、大きく雰囲気が変わりますし、お互いの理解も深まります。当事者であれ支援者であれ、ダイバーシティ推進の中に学生を位置付ける仕組みを作ることをお勧めします。

小川 少子化が進んでいく中で、女性研究者を増やし組織で活躍できるような制度を作ると考えるのは当然です。また障がいの有無や国籍に関係なく、優秀な学生をどのように確保するかは、これからの大学の生命線です。むしろ考え方や価値観が違う人が入ることが重要で、ダイバーシティが維持できなくなった大学は"知の拠点"として機能しなくなってしまいます。大学の経営という視点で考えても、ダイバーシティ推進は重要な課題になると思います。

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