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2023年「吹田みらいキャンパス」を開設、2025年にビジネスデータサイエンス学部を開設予定の関西大学。高等教育を提供している大学が果たす役割について、関西大学の芝井敬司理事長(当財団評議員)にお話を伺いました。

BILANC33私学の今「芝井敬司先生」
左から関西大学 芝井敬司理事長、当財団 守田芳秋常務理事


※2024年3月発行BILANC vol.33に掲載
構成:𠮷川明子 
撮影:梅田雄一 
編集:プレジデント社

~ 9つの構想の実践

守田 芝井理事長は2020(令和2)年9月まで学長を務められ、10月から理事長に就任されたのですね。

芝井敬司先生(以下「芝井」) コロナの真っ最中に、ご縁があって理事長になりました。こんな大変な時に理事長なんて、とも思いましたが、せっかくの機会ですので、当時正解のわからないコロナ対応に取り組みながらも、就任3カ月後に「これからの関西大学が目指すもの」と題して、9つのテーマを提示しました(図表参照)。それからの約4年間で、すべてのテーマについて、何らかの形で手を付けることはできています。

BILANC33私学の今「芝井敬司先生」

守田 これらの中で、特に順調な成果を見せているものはどの構想ですか?

芝井 「SDGs」は、2018(平成30)年にプロジェクトを設置してから、全学をあげてSDGs達成へのムーブメント醸成に取り組んでいます。2022年には『アカデミアが挑むSDGs』という書籍にもなりました。
特に盛り上がりを見せているのは「大阪・関西万博2025」です。前回の大阪万博は本学がある大阪府吹田市で開催されたという縁で、学生が自発的に「関大万博部」を設立しました。地元のスタートアップ企業と連携し、大阪ヘルスケアパビリオン「リボーンチャレンジ」での展示も予定しています。また、リアルとバーチャルで、本学キャンパスでも「関大万博」をやろうという話もあります。
前回の万博開催時、私は中学3年でした。「月の石」の展示は大行列で見られず、コートジボワール館に行ったら大歓迎されて、大柄な黒人男性に握手とハグをされたのが印象的でした。その時、世界の大きさや多様性をリアルに感じることができたんですね。若い時にビッグイベントを経験すると、人生に何らかの影響があります。そこは大事にしたいですね。

~ データサイエンスの新学部

守田 「新学部の構想」というのは、どの ようなものでしょうか。

芝井 まず2023年10月、千里山キャン パスから2キロほど離れたところに、「吹田みらいキャンパス」を開設しました。
研修用の滞在施設が全244個室の「関西大学グローバルハウス」という国際学生寮に生まれ変わります。国内外の学生が共に生活し、多様な価値観を育む場にもなるでしょうね。

守田 “居抜き”キャンパスですね。

芝井 メディアにもそう呼ばれました。でも、SDGsの時代ですし、あるものをうまく活用すべきだと考えたのです。

守田 2025年にはビジネスデータサイ エンス学部の開設を目指していると伺いました。どのような特徴の学部になるのでしょうか。

芝井 文理融合型でビジネスとデータ サイエンスの両者を体系的に学びます。
英語が教養のベースにあるように、今後はデータサイエンスもビジネスのベースになっていくはず。エンジニアの育成ではなく、ビジネス分野に根ざした知識も身につけられる場にします。さまざまな企業の協力を得て、授業では実データを用いる予定です。架空のデータが役に立たないとは言いませんが、実データを読み解き、次のアクションを考えることが、実践的な人材の育成に繋がります。
2010年に開設した社会安全学部は、日本初の安全科学分野での学部でしたが、開設当初は他大学の追随がありませんでした。でも、お陰様で就職実績が堅調で、自治体や企業の危機管理分野でかなりのニーズがあります。少子化の今、新学部の設立はハードルが高いのですが、社会で必要とされる人材育成のためには、大学として意欲をもって取り組まなくてはならないと感じています。

守田 国際寮の開設もあるように、留学 生の受け入れも課題の一つですね。

芝井 現在、約3万人の学生のうち、留学生は約1000人。コロナ禍でブレーキがかかったのち、最近は留学生の数が回復傾向にあるのですが、まだまだ少ないと感じています。本学には協定校が280くらいあるので、交換留学なども推進しています。日本人以外の学生の割合が高まれば、多様性によって生み出される価値は大事でしょう。だから私たちは、海外の学生に「学びたい」と思われる大学にならなくてはなりません。

~ 学びを提供する大学の役割

守田 大学の門戸を広げるという意味では、いくつになっても高等教育を学べる環境作りも重要ですね。

芝井 国際化も多様性の一つで、とても大事なことですが、私は、何歳であっても高等教育の機会を提供する場であることに、もっと重きを置きたいと思っています。今の日本は、大学の取り組みが18歳から22歳を対象とした考え方で、卒業したら社会に出ていき、そのあと大学に戻る人はまだ少数です。世界に目を向けると、企業や自治体の上層部は修士や博士が大勢いるのに、日本では学士が大半です。社会に出てから大学に戻る人が少ない理由の一つに、修士号や博士号を取得しても、給料アップのような形で評価をしてもらえない点があります。社会の仕組みとして変えていくべきところですし、本学も大学院の強化は大きな課題の一つです。

守田 ビジネスデータサイエンス学部も、将来的には大学院まで作る予定なのでしょうか?

芝井 まだ仮定の話ですが、もちろん大学院を想定しています。

守田 関西大学は2022年に大学昇格100周年を迎えられました。100年を経ても変わらないこと、変わっていくべきことは何なのでしょうか?

芝井 関西大学の前身は関西法律学校で、フランス人法学者ボアソナードの弟子たちが設立したものです。1922(大正11)年に千里山に学舎を新設し、法学部と商学部の2学部をもつ大学として認可されました。この時、総理事兼学長となった山岡順太郎は、新しい大学の理念として「学の実化(じつげ) 」を掲げました。大学は教育研究に実社会の知識や経験を取り入れ、社会は大学の学術研究の成果を取り入れることによって、「学理と実際との調和」を求める考え方です。この調和が大切で、大学昇格から100年が過ぎても、この理念は確固として変わらないものとなっています。教育と研究は大学の二本柱ですが、2000年初頭から、そこに社会連携と国際活動も掲げました。これら4つの柱は普遍的な意義があり、今後も重要性を増していくはずです。

守田 社会連携の一つが、さきほどの話にも出ていた「何歳でも学べる高等教育の場」ということですね。

芝井 日本ではリスキリングなどが容易 ではありません。働く期間と学ぶ期間をフレキシブルに捉えられる社会にしたいですね。海外では当たり前ですが、大学に来るルートを多様化するために科目等履修生をもっと生かすことも考えています。また、アメリカではカレッジリンク型老人ホームによって大学と社会が連携するように、何歳になっても、さまざまなことを学びたいという人たちに対して、高等教育を提供している大学が果たせる役割は大きいはずなのです。

BILANC33私学の今「芝井敬司先生」

お話を伺った方
芝井 敬司 氏:
関西大学理事長

学校法人関西大学第21代理事長。
1984年より関西大学に着任し、文学部教授、文学部長、副学長、第42代学長を歴任。
2017年より私立大学退職金財団評議員。

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