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大学の固定観念を突き破る!

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「変革を担う、女性であること」をモットーとする津田塾大学。少子化、地方格差など様々な社会の変化が続く厳しい状況の中で、私立大学等はいかに本来の役割を果たしていくべきか、津田塾大学の髙橋裕子学長(当財団評議員)にお話を伺いました。

BILANC31私学の今「髙橋裕子先生」
左から津田塾大学 髙橋裕子学長、当財団 守田芳秋常務理事


※2023年7月発行BILANC vol.31に掲載
構成:生島典子 
撮影:小田駿一 
編集:プレジデント社

~ なぜ大学院進学率UPが必要か

守田 少子化や地方格差、価値観の多様化、さらには人生100年時代の到来と、日本社会は大きく変化しています。今後、私立大学はどのように変わっていくべきでしょうか。

髙橋裕子先生(以下「髙橋」) 今、hatGPTなどの生成AIが大きなニュースになり、企業や自治体が業務の一部に導入するという声も聞かれます。大学もそのニーズに対応すべく、学生が習得する内容を変えていかなければなりません。
また、日本の大きな課題は、大学院進学率が非常に低いということです。日本では高等教育というと大学の4年間だけをイメージしています。しかし、世界の先進国では修士課程や博士課程を含めて高等教育と捉え、修士号、博士号の取得者も多い。この差が、日本が国際競争力を発揮できない一因と考えています。
大学院進学率を上げるためには、学部卒業後も親からのサポートを受けて学ぶスタイルだけでは限度があります。むしろ、学部卒業後に働きながら修士や博士課程に進むイメージを、もっと多くの人に持ってほしいと思います。そして、働きながら大学院に行くことを支援するよう企業風土も変わっていかねばなりません。
海外留学する学生の割合が他の先進諸国と比べて非常に低い点も問題です。奨学金などで支援して、まず短期留学に行き、できれば海外の大学院で修士課程を修了する。そういう可能性がもっと広がれば、と思います。

守田 確かに日本の大学院進学率の低さは課題とされていますね。これらのほか、大学をめぐる環境で課題と感じているところはありますか。

髙橋 大学の評価法にも問題があります。大学では近年、多様な試験方式を取り入れています。偏差値が関係するのは一般入試のみで、その割合は大きく減っているのに、日本のメディアは「偏差値」と「倍率」で大学を評価する視点から脱却できていません。偏差値では大学の特色を評価できないのです。

守田 確かに偏差値重視でありながら、 より高度な研究をする大学院に進まないのは、不自然に感じられます。

髙橋 おっしゃる通りです。大学側も偏差値や倍率だけを気にするのではなく、卒業後の選択肢として、大学院進学を重視する必要があります。

守田 しかし卒業と就職は密接に関係しています。ですから、大学の努力のみで大学院への進学率を上げるのは難しそうです。

髙橋 まず、企業や大学で、大学院教育を受けた人をしっかり評価することです。さらに、留学をしても就職しやすいよう、産業界には一括採用から通年採用に変えていただきたい。
卒業後についても、メディアが「どこの大学からどの企業に何人就職したか」で競争力を測っているところも、時代遅れの価値観です。日本では修士の評価が不十分。「大学院を卒業した人がどのようなところに就職したのか」は、ほとんど報じられません。

~ 女性が中心で活躍する光景

守田 多様化する社会において、女子大学の強みや意義について、どうお考えでしょうか。

髙橋 「共学か女子大学か」という二項 対立ではなく、「どの大学が自分のポテンシャルをいちばん上げてくれるのか」という視点で、大学は選ばれるべきです。女子大学は、良妻賢母の育成を目指しているのではありません。常に女性が中心に据えられる経験ができる場です。そこが強みで、そういう経験をする選択肢を残しておくことが重要だと思います。
その経験によって自尊感情や自己肯定感が高まり、自分の道を歩むようになる学生がいます。日本は最底辺のジェンダーギャップ国です。社会に出たら自然に女性が中心に据えられる経験はまずできないし、女性がリーダーシップを発揮している光景を見ることもまれです。女性初の官房長官になった森山眞弓さん、文部大臣を経験し男女雇用機会均等法を立案した赤松良子さんは本学の卒業生ですが、彼女たちのように新しい道を切り開き、ガラスの天井を突破するような女性を、本学は輩出してきました。

守田 髙橋先生は、「日本の大学において女性学長が少ないこと」について、以前よりご指摘されています。その問題点をうかがいたいです。

髙橋 日本の大学の女性学長は、国公立と私立を合わせて約14%。しかし国立大学に限ると、3~4%しかいません。女子学生は共学に進学する時代になりましたが、大学が「女性の上位職」を女子学生に見せられているかというと、必ずしもそうではないのです。大学の光景が、ほかの先進国のようにスピーディーに変わっていないというのが、日本の問題点です。
本学では、入学式や卒業式に壇上に座っている女性割合が非常に高い。しかし、日本の共学校で壇上に上がる経営層や学部長は、ほとんどが男性です。まったくジェンダーギャップを克服していません。学生の女性比率を見ると、4年制大学では45.6%(2022年)ですが、修士、博士、助教、講師、准教授、教授、副学長、学長と進んでいくにつれて、女性の割合が限りなく低くなっていきます。これをグラフにすると、割合がどんどん開いて「ワニの口」のよう(図表参照)。この隔たりを解消して、ワニの口を閉じる必要があるのです。

BILANC31私学の今「髙橋裕子先生」

~ 今後に向けた想いとは

守田 多様化の時代だからこそ、女子大学の存在価値はより大きくなっていきそうですね。
貴学では今後をどのように展望されているのでしょう。

髙橋 世界が新しいものを求めているのだから、変化に柔軟に対応した教育によって、“規定通りの道を進むだけではない人たち”を輩出しなくてはなりません。女子大学としては、粘り強く男性中心社会を突破していくような女性を育んでいく必要があるし、そういう女性をサポートする男性を育てていく必要もあると思います。

守田 最後に、読者である教職員に向けてメッセージをいただけますか。

髙橋 日本の大学が世界の中で競争力をつけていくには、大学職員の地位向上も不可欠。本来は教員も職員も同じ「職員」なのですが、一般職員を指す職種名がないことは問題ですし、そうした職員の中からアドミニストレーター(管理職)になっていく人たちの位置づけを、もっと明確にしていくことが非常に重要です。アドミニストレーターが自らの役割をしっかり果たすことができれば、存在意義が評価され、ひいては大学の国際競争力向上にもつながると考えています。

BILANC31私学の今「髙橋裕子先生」

お話を伺った方
髙橋 裕子 氏:
津田塾大学学長
津田塾大学学芸学部英文学科卒業。
カンザス大学大学院修了後、桜美林大学国際学部専任講師・同助教授、津田塾大学学芸学部英文学科助教授を経て、2004年~同大教授、2016年~学長を務める。
専門は日米のジェンダー史など。

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