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経営で守るもの、変えるべきもの

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18歳人口の減少がますます深刻化していく中で、「不断の努力により智・徳・体を修め、社会に奉仕する」を建学の精神とし、体育大学の改革を続ける学校法人浪商学園の野田賢治理事長(当財団評議員)にお話を伺いました。

bilanc30私学の今「野田賢治先生」
左から浪商学園 野田賢治理事長、当財団 守田芳秋常務理事


※2023年3月発行BILANC vol.30に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:梅田雄一 
編集:プレジデント社

~「体育」大学の重要性

守田 貴学園は、最近ではサッカー日本代表となった林大地選手や、元メジャーリーガーの上原浩治さんなどを輩出された大阪体育大学をはじめ、「甲子園の古豪」として知られる大阪体育大学浪商高等学校なども運営されています。しかしもとは商業学校だったとうかがいました。それがなぜ「近畿圏のスポーツの名門」に変貌を遂げられたのでしょうか。

野田賢治先生(以下「野田」) おっしゃるとおり本学園は1921(大正10)年に商業学校として出発しました。スポーツとの接点は、創設者の一人である私の祖父の野田三郎が根っからの野球好きで、生徒に野球を勧めたのがきっかけです。全国大会でも活躍し、自信をつけた生徒が勉強も頑張るようになったり、進学実績が上がって志願者が増えたりと、好循環が生まれたのです。こうしたスポーツの教育的効果を認めていたことに加え、元五輪選手の中澤米太郎先生の「大阪には体育の大学がない」という助言もあって、1965(昭和40)年に大学を設立する際、「大阪初の体育大学」を立ち上げることに決めたというわけです。また、中澤先生からご紹介いただいた、やはり元五輪選手の大島鎌吉先生は、「産業体育」という、現在の生涯スポーツの理念にも通じる考え方を提唱された方でした。そんな大島先生のお導きもあって、「労働者の健康づくり」という、新たな研究領域に着目したわけです。

守田 その歴史もあって1997(平成9) 年に日本初の生涯スポーツ学科を開設されたのですが、2003(平成15)年開設の健康福祉学部も日本初だそうですね。

野田 日本社会が高齢化し、1987(昭 和62)年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が成立するなど、介護へのニーズは着実に高まると予想しました。介護では、運動機能の回復・維持も欠かせず、体育と関連が深い領域です。そこで健康福祉の専門学校を短期大学に昇格させ、さらに、大学の学部に発展し、社会福祉士や精神保健福祉士の養成を目指したのです。

~ 組織改革はダイナミックに

守田 しかし健康福祉学部は2018(平成30)年に閉鎖されました。1500人を超える学生を世に送り出し、実績も評価されていたのに、なぜですか。

野田 介護保険制度が発足した当初は補助金も多く、健康福祉学部卒業生の初任給の水準も高かったので、とても人気があり、大勢の学生が集まりました。しかし自治体等の財政が厳しくなって初任給の水準が下がり、学部の志願者も減ってしまったのです。教育で社会貢献するには、学校を維持しなければなりません。経営を続けるため、やむなく健康福祉学部を閉鎖したわけです。それでも介護への人材供給が重要だという考え方は変わりません。そこで2015(平成27)年4月に教育学部を新設し、健康福祉学部のカリキュラムを残すことにしました。

守田 社会のニーズに適応するため、ダイナミックに組織改編に踏み切れるのが、貴学園の強みですね。

野田 専門職が多いので、人材も流動性が高く、スタッフは比較的フレキシブルに入れ替わります。それが組織改編を進めやすい理由でしょうね。

守田 指導力も貴学園の強みです。付属中高のクラブ活動だけでなく、地域のクラブや学外の選手を支援する活動でも定評があります。

野田 熊取町へキャンパスを移転した1989(平成元)年に、地元の子どもたちを対象とする「トップスポーツクラブ」を立ち上げました。体育教員を目指す学生が指導する点が特徴で、指導法の開発やその実践で大学にもフィードバックがあります。2012(平成24)年には外部の道場やジムと連携し、各種スポーツ選手を支援する「浪商スポーツクラブ」も設立しました。本学としては2024(令和6)年4月に、愛着のある体育学部を「スポーツ科学部」に名称変更し、学科を再編します。例えば、コロナ禍ではマンツーマン指導のパーソナルトレーナーの需要が高まりましたが、今後もこの傾向が続くと予想され、その養成にも力を入れる考えです。

~ 建学の精神を継承する

守田 ところでコロナ禍で授業の進め方は変わりましたか。

野田 海や山での野外実習をキャンプに代替したりしましたが、それ以上に体育系クラブで試合や大会がなくなってしまったことがショックでした。学生スポーツをしたくて入学した学生が大半ですからね。もともと教職員と学生の距離は近いのですが、ウィズコロナでは教職員が一丸となって、今まで以上に学生をケアし、寄り添っていくことが大切だと実感しました。以前より、1年次から学生全員と個別面談を行い、キャリアや生活を個別に支援していますが、今回それがとても役立ちました。

守田 私もコロナ禍を無事乗り越えられることを願っております。さて、そうした中ではありますが、貴学園は2021(令和3)年に創立100周年を迎えられました。今後10年の学校経営を見据えて、4 つのポイント(図表参照)を柱とする長期ビジョンも発表されましたね。

野田 今後10年は少子高齢化や経済格差、日本経済の国際競争力の低下などがさらに顕在化し、私学を取り巻く経営環境は一層シビアになります。差別化戦略も求められるでしょう。本学でも実績を積んできた生涯スポーツに加え、「eスポーツ」も研究領域として検討しています。

bilanc30私学の今「野田賢治先生」

守田 貴学園の開拓者精神は現在も旺盛なのですね。さらに次の100年に向けて、「NEXT100構想有識者会議」も立ち上げられたそうですね。

野田 正直100年後の姿は想像がつきませんが、一つだけはっきりしていることがあります。それは、「不断の努力により智・徳・体を修め社会に奉仕する」という建学の精神は、100年後も変わらないということ。建学の精神は学校のアイデンティティです。時代に応じて、フレキシブルに変えるべきところは変えても、建学の精神は堅持しなくてはなりません。それが持続可能な学園のあり方でしょう。

守田 貴学園がどうして力強く発展してこられたのか、とてもよくわかりました。
本日は長時間ご協力いただき、誠にありがとうございました。

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お話を伺った方
野田 賢治 氏:
学校法人浪商学園理事長
公益財団法人大阪府私学総連合理事長。2005(平成17)年より私立大学退職金財団評議員。
大阪私学経営者協議会会長・顧問、大阪私立中学校高等学校連合会会長・顧問などを歴任し、2012(平成24)年より文部科学省の大学設置・学校法人審議会にて学校法人分科会特別委員、2014(平成26)年より委員に就任。2019(令和元)年、藍綬褒章受章。

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