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時代に即した女子教育の模索

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日本の大学進学率は、男女共に年々上昇している一方、18歳人口の減少がますます深刻化していく中で、女子教育・短期大学はどのように変化していくべきでしょうか。当財団の評議員の京都華頂大学・華頂短期大学学長の中野正明先生にお話を伺いました。

bilanc29私学の今「中野正明先生」
京都華頂大学・華頂短期大学 中野 正明 学長


※2022年12月発行BILANC vol.29に掲載
構成:秋山真由美 
撮影:森本真哉 
編集:プレジデント社

~「現代家政学部」の役割

日本の大学進学率は、男女共に年々上昇しており、特に女子の進学率が伸びていることは、100年以上の長期にわたり女子教育に携わってきた本学にとっても喜ばしいことです。しかし、世界的に見れば、日本の進学率は決して高いとはいえません。今後18歳人口の減少がますます深刻化していく中で、大学の進学者数は頭打ちになっていくと思われます。
女子の大学進学率の上昇に反して、短期大学進学率は急激に減少し、短大改組による4年制大学化が増えています。もはや「短大卒」は就職や昇進に有利とはいえず、その存在意義が問われているのです。
ただし、いまだに大卒よりも短大卒の方が就職に有利な分野もあるのです。それが、保育・幼児教育分野です。私が学長を務める華頂短期大学幼児教育学科では、学生の幼稚園・保育園への就職率は毎年ほぼ100%です。同分野では、4年制大学の入学定員も増えてきてはいます。しかし、いざ就職となると、幼児教育の分野では即戦力を求めるという雇用者側のニーズが圧倒的に強く、短大より大卒の方が就職が難しいという実態があります。本学が短期大学と4年制大学を併設しているのも、それが理由です。短大と大学には、それぞれの役割があり、共に社会からの要請や期待に応えていく責任があると考えているからです。
一方、生活学科や社会福祉学科については、いずれ志願者数が50%を切ってしまうという危機感がありました。そこで、2011年4月に京都華頂大学を開設し、生活・社会福祉・教育の各分野を網羅的に学べる学問領域をつくりました。「現代家政学」という総称で、小学校教諭・保育士・幼稚園教諭・社会福祉士の免許が取得できるカリキュラムになっています。
家政系学部の中で小学校教諭と幼稚園教諭、保育士の免許が取得できるというのは全国でも珍しく、非常に画期的です。時代変容に伴って、乳幼児や児童を取り巻く環境、青年を取り巻く環境、高齢者を取り巻く環境、すべてが変化していきますが、「保育」は欠くことのできない要素です。その証拠に、高等学校学習指導要領・家庭科でも「保育」は大きな割合を占めています。新しい時代のライフサイクルにおける家族や家庭の在り方を追究する学問が現代家政学であり、そこには当然、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭の免許が含まれていなければなりません。前例のない学部ですから、文部科学省に認可されるか不安でしたが、「新しい時代に必要な学問」と説明し、開設することができました。

bilanc29私学の今「中野正明先生」

~学問にも男女平等の意識を

本学では2019年、日本初となる 「AI活用人材育成プログラム」を、日本IBMと共同開発しました。AI活用に関する知識やスキルをはじめ、プログラミングなどのITスキル、データサイエンスに関するスキルなどを習得します。eラーニングのシステムを活用しており、ビジネス視点を取り入れたプロジェクト型演習、時間や場所に制約されずに学べるバーチャルラーニングを揃えています。
最大の特徴は、文系・理系を問わず全学生が履修できること。AI活用スキルがあらゆる人材に不可欠になると考えているからです。
例えば、金融とITを融合させた「フィンテック」が広まっているように、社会科学でも、さらには人文科学でも、ITに関する知識やスキルは必須のものとなりました。文系学部の学生も、AIのことがわからなければ、将来不利になってしまいます。これからは、学問の専門性だけでなく、「AIを活用する力」を備えた人材が、社会から求められるようになるでしょう。
本学のAI活用人材育成プログラムは、入門から実践演習まで10科目を提供しています。昨年度春の履修は約2,500人でした。今年度春は、その約1.5倍にあたる約3,700人が履修しています。新入生の中には、「このプログラムを学びたいから、関学を選んだ」という学生も増えてきました。受験生をひきつける、新たな手段にもなると期待しています。
さらに本学は卒後教育にも取り組んでおり、2022年4月からは、希望する卒業生がこのプログラムを学べる制度を導入しました。また、このプログラムは、2022年度から本学だけでなく、新潟産業大学や多くの企業でも活用されています。

~ニーズに応じた理系の拡充

本学がこれほど女子教育にこだわるのは、浄土宗の開祖である法然上人の教えを建学の精神とし、1911(明治44)年に浄土宗総本山知恩院が開設した華頂女学院を前身としているからです。法然上人は、「万民平等救済」として、「平等の慈悲を信じ、念仏を唱えればどのような人も極楽浄土に生まれることができる」と説きました。 ここで説かれる「平等」には女子も含まれ、「女人往生」といって、仏教者の中で初めて「女子は男子と同様に極楽に往生できる」と言ったのです。
ところが当時は、生まれながらにして平等なんてあり得ない、女子は往生できないと言われていた時代です。法然上人は相当な批判や弾圧を受けて、結局流罪になってしまいます。
つまり女性の極楽往生というのは、浄土宗が鎌倉時代から言っていたことであり、男女平等の柱です。これを大学教育に置き換えて言えば、女子は男子とまったく同じように社会で活躍し、役割を担っていかなければならない存在だということです。とはいえ現代においてもなお男女平等とは言い難いのが実情です。女性を取り巻く環境には、家庭内の価値観や教育、社会的・文化的な固定観念やしきたり、歴史的な要因など、根深く大きな問題が横たわっています。
僧侶でもある私は、それらを何度も目の当たりにしてきました。お寺の大事なことを決める時、決まって参加するのは男性です。一方、行事の手伝いをするのは女性ばかり。世の中の男性の多くは、大事なことを決めるのは男性で、その手伝いをするのが妻であるという意識が当たり前になってしまっているわけです。家のお仏壇に安置している先祖代々の位牌にしても、夫方だけでなく、妻方の先祖代々の位牌も安置した方がいいと私は思います。法律や社会が変わるのはまだまだ先のことかもしれませんが、この問題の本質に男性も女性も早く気づき、意識を変えてほしい。本学が家政学を扱い、家族や家庭を研究対象にしているのは、そんな思いもあるのです。

~次を見据えて新分野を開拓

日本社会全体の力を底上げするためには、高等教育を受ける国民の数をもっと増やしていかなければなりません。そのためには「機能別分化」といって、世界的な研究・教育の拠点としての大学も必要ですし、圧倒的に多い中間層が基礎知識を身につけるための大学も必要です。
さらにいうと、学びへの関心があまり高くない人たちにも高等教育機関で学んでもらい、一定水準にまで学力や学習意欲を高めてから社会に送り出す必要があると考えています。
自分の研究だけ行いたいという教員は、一部の限られた世界水準の教育研究を行う大学に行けばいいでしょう。現場で圧倒的に必要なのは、教育方法の改善に努力し、学習成果を身につけた学生を社会に送り出せる教員です。つまり、「教育力」を持った教員をもっと増やしていかなければなりません。学力の低い学生ばかりだと嘆くのではなく、学生に感動を与え、伸びしろをつけて社会に送り出すことができれば、大学の志願者数も自ずと伸びてくるのではないでしょうか。今後も、大学の新分野開拓やモデルチェンジは恒常的に必要でしょう。特に、18歳のニーズに適った分野の開拓はとても重要です。本学のような新興大学ならばなおさらです。例えば、情報学分野の知識はこれからの時代に必要不可欠であり、各業界からの求人も増えています。本学でも、「生活情報学科」という新しい学科をつくれないか模索しているところです。
一方、大学運営の根幹となる教育理念とキャンパスの立地は変えるつもりはありません。知恩院の境内という至便な環境を学生募集に生かし、時代に合わせたモデルチェンジを重ねながら、引き続き女子教育に尽力していきたいと思います。

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お話を伺った方
中野 正明 氏:
京都華頂大学・華頂短期大学
(なかの・まさあき)
文学博士。学校法人佛教教育学園副理事長、京都華頂大学学長、華頂短期大学学長、華頂短期大学附属幼稚園園長、浄土宗総本山知恩院文化財保存委員長、文部科学省学校法人運営調査委員、文部科学省学校法人分科会特別委員。2005年より、私立大学退職金財団評議員。

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