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やる気と報酬の微妙な関係

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撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

早稲田大学の枝川教授に、脳神経科学の視点から、業務の効率アップにつながる知恵を教えていただきます(脳のカラクリ 第3回)。

BILANC28「脳のカラクリ」 早稲田大学理工学術院教授
枝川 義邦氏(えだがわ・よしくに)
早稲田大学理工学術院教授。脳神経科学者。『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)など、著書多数。

~お金が絡むと純粋に楽しめない?

やる気についてのシリーズも3回目になりました。今回はやる気と報酬の微妙な関係についてお話しします。
皆さんは、日常の業務や何かのプロジェクトに携わる際には、「ご褒美」があると嬉しいでしょうか。「いや、仕事なのだから、褒美は不要」なんていうプロの鑑のような方もいるでしょう。しかし、人は報酬になびきやすいものです。日常的な声かけで励まされたり、時にはドーンと「金一封が出るよ」というひと言で、頑張ってみようかと思えたりするものです。不謹慎といえばそうなのですが、正直、頑張れてしまうのだから仕方がありません。しかし、報酬はやたらとぶら下げてはいけない、という研究結果があります。
まずは「デシの実験」を見ていきましょう。米国ロチェスター大学の心理学者デシは、大学生を対象にパズルを解かせる実験を実施しました。ボランティアで集まった学生は、すでにやる気があります。しかも、パズルは楽しいので、すぐにハマっていきました。自由時間にもパズルを解くような過ごし方をしたといいます。その後、2つのグループに分けます。1つは、パズルを解いてきたら次のパズルと少額の「報酬」を渡すグループ。もう1つは比較対象として、次のパズルを渡すだけのグループです。報酬を貰えるグループは、楽しいことをして報酬が貰えるので、パフォーマンスが上がります。
この後さらに次の仕掛けが待っていました。報酬グループを無報酬にしたのです。客観的に見ると「元に戻った」だけなのですが、報酬グループからすると、貰えていたものが貰えなくなったという感覚になったのでしょう。結果、報酬グループは、パズルを解くことに興味を示さず、他の娯楽で過ごすようになったようです。

~プロセスを褒めるのが最高の報酬

この実験、単純ではありますが、示唆に富んでいます。
報酬があることで、娯楽が仕事に変わったという解釈がなされています。そして、ここで見られた「望まれざる効果」は、今では「アンダーマイニング効果」(アンダーマイン=土台を崩す)と呼ばれるようになりました。せっかくやる気に満ちた状態であったのに、安易に報酬を出したことで、やる気が失せてしまったのです。そしてこの効果には、金銭が関係していることもわかっています。
別の実験でも、報酬を金銭にするとアンダーマイニング効果が見られました。ただし報酬を金銭以外、例えばチョコレートなどにすると、アンダーマイニング効果は見られなくなるといいます。金の力は恐るべし、です。
ここで、職場でのマネジメント策を考えてみましょう。まずは、安易に報酬をぶら下げないこと。新しいプロジェクトや、自発的に取り組んでいる案件は、もともとモチベーションが高い状態、いわゆる「内発的動機づけ」がなされていることが多いものです。やたらと報酬はぶら下げず、経過を見守るに限ります。
とはいえ頑張っている人に対して、何か励ましたいという気持ちを抑えきれないこともあるでしょう。そのときは金銭以外のご褒美にするか、していること自体、つまり結果ではなくプロセスを褒めるのがよいとされます。「周囲がちゃんと見ていてくれる」となると、安心感が高まり、ますます頑張れる気になるものです。このようなアンダーマイニング効果での脳の働きも調べられています。楽しいと思えるような作業をしている場面では、脳の中で報酬に関係した部分の脳活動が高まっていることが確認されます。そのような状態に対して、アンダーマイニング効果が生じるような報酬を示した場合、せっかく高まっていた脳活動が見られなくなってしまうという研究結果があります。やはり、脳も状況を見て働きを変えているのですね。

BILANC28「脳のカラクリ」

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