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「AI時代」に活躍する人材を

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少子化、DX、Society5.0、コロナ禍など、私立大学等を取り巻く課題に対し、学校法人はいかにして存在感を発揮すべきなのでしょうか。当財団の理事の関西学院大学学長の村田治先生にお話を伺いました。

bilanc28私学の今「村田治先生」
関西学院大学 村田 治 学長


※2022年7月発行BILANC vol.28に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:梅田雄一 
編集:プレジデント社

~ 2039年からの逆算発想

ポストコロナでDXやSociety5.0への移行が加速し、AIがさまざまな分析を行う社会が到来します。これに対し、日本の高等教育がAIに対応できるか、大きな課題となっています。また、今後も少子高齢化が進み、高等教育への進学率が上昇すると見込まれ、大学が提供する教育は変わらざるを得なくなります。私学を取り巻く環境は、ますます厳しくなるでしょう。
そこで本学では創立150周年である2039年を見据え、将来構想「KwanseiGrand Challenge 2039」を策定しました。その中で、2039年から現在までを逆算し、将来構想における重要課題を抽出しました。これによって抽出された経営課題は、主に3つありました。
1つ目は、18歳人口のさらなる減少。
2つ目は、関西経済の地盤沈下。しかしこの点に関しては、コロナ禍を契機に、状況が大きく変わる可能性が出てきました。人口密度と感染者数が正比例することもあり、東京一極集中を避け、社会機能を多極化・分散化させる機運が続けば、関西の地盤沈下にも歯止めがかかるかもしれません。
そして3つ目がAIへの対応です。Society5.0では、AIが社会の隅々まで浸透するため、「AIを活用できる人材の育成」を見据えた教育プログラムの提供が求められます。
私は大学の使命として、文系・理系を問わずAI社会に適応できる高度人材の育成が重要だと考えています。今や、世の中のあらゆる知識がAIに集積され、検索できます。「日本の職業の約半分が、AIに取って代わられる」といった論文も出ているほどで、従来の大学教育だけでは、AI社会のニーズに応じられなくなります。AIの発達により知識に加え、コンピテンシーレベルの能力育成が重要になります。
本学では、卒業生がビジネスを通じて社会へ奉仕(Mastery for Service)し、「真に豊かな人生」を送れるよう、「質の高い就労」を目標に掲げ、10項目の「Kwanseiコンピテンシー」として定めました。

bilanc28私学の今「村田治先生」

これは、全学生が卒業までに身につけておくべき知識・能力・資質として、幅広い知識・深い専門性、多様性への理解といった項目から成り立っています(図表参照)。これらを踏まえてAIを使いこなし、社会課題を解決に導ける人材を育成します。

~ 文・理ともにAIを学ぶ

本学では2019年、日本初となる 「AI活用人材育成プログラム」を、日本IBMと共同開発しました。AI活用に関する知識やスキルをはじめ、プログラミングなどのITスキル、データサイエンスに関するスキルなどを習得します。eラーニングのシステムを活用しており、ビジネス視点を取り入れたプロジェクト型演習、時間や場所に制約されずに学べるバーチャルラーニングを揃えています。
最大の特徴は、文系・理系を問わず全学生が履修できること。AI活用スキルがあらゆる人材に不可欠になると考えているからです。
例えば、金融とITを融合させた「フィンテック」が広まっているように、社会科学でも、さらには人文科学でも、ITに関する知識やスキルは必須のものとなりました。文系学部の学生も、AIのことがわからなければ、将来不利になってしまいます。これからは、学問の専門性だけでなく、「AIを活用する力」を備えた人材が、社会から求められるようになるでしょう。
本学のAI活用人材育成プログラムは、入門から実践演習まで10科目を提供しています。昨年度春の履修は約2,500人でした。今年度春は、その約1.5倍にあたる約3,700人が履修しています。新入生の中には、「このプログラムを学びたいから、関学を選んだ」という学生も増えてきました。受験生をひきつける、新たな手段にもなると期待しています。
さらに本学は卒後教育にも取り組んでおり、2022年4月からは、希望する卒業生がこのプログラムを学べる制度を導入しました。また、このプログラムは、2022年度から本学だけでなく、新潟産業大学や多くの企業でも活用されています。

~ ニーズに応じた理系の拡充

2021年には理工学部を、理学部、工学部、生命環境学部、建築学部に再編しました。OECDの学習到達度調査などから、国の生産性は理系人材の量に影響されるとのデータもあるため、拡充を図りました。
一方で学生には、AI活用スキルを備えるとともに、AIにはできない人間ならではの能力を磨いてもらう必要があります。人間の学習能力は、AIにはかないません。しかし、最終的な価値判断をしたり、新たな価値を見出したりすることは、人間にしかできないでしょう。そうした能力が、今後むしろ重視される、と考えています。この能力の育成のためには、演習などの対面での学びがこれまで以上に必要となるでしょう。
先にも述べた「Mastery for Service」は、本学のスクールモットーでもあり、「本学での学びにより、創造的かつ有能な世界市民になることで、社会に寄与する」という意味です。マックス・ウェーバーは、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で、勤労によって利潤を追求し、経済や社会の発展につなげることは美徳であり、プロテスタントの教えとも矛盾しないと説きました。私立大学にとって、学生を希望の仕事に就労させることは非常に重要です。本学としても、これまでも学生が「質の高い就労」、すなわち、希望する就職ができるような教育に力を入れてきました。そして、社会で通用する能力が高い卒業生を送り出すことで、社会に貢献してきたわけです。
AI活用スキルを身につけた人材を育成するのも、その一環です。ハンズオン・ラーニング(学外での実践型教育)、学生に寄り添う進路指導といった取り組みも強化しています。2020年にも「実就職率」が、全国の大規模大学(卒業者数5000人以上)で第1位になりました。そうした実績によって、本学のブランド力を高め、創立150周年に向けて、確固たる経営基盤を築いていきたいと考えています。

bilanc28私学の今「村田治先生」

お話を伺った方
村田 治 氏:
関西学院大学学長
(むらた・おさむ)
関西学院大学経済学部助教授を経て、1996年教授。2014年より関西学院大学学長。
著書は『公債と財政赤字のマクロ理論』(有斐閣)、『現代日本の景気循環』(日本評論社)。
2017年より私立大学退職金財団理事。中央教育審議会委員(2017年~)なども務める。

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