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思考の「起点」づくり、 5つのアプローチ

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構成:田之上 信 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

「予算無制限」より「100万円」と言われたほうが、アイデアは湧く

BILANC27「ひらめきの達人」になる!瀬田先生 頭の使い方コンサルタント
瀬田 崇仁氏(せた・たかひと)
インスピレンサー株式会社代表。教育コンサルティング会社に入社後、“ひらめき”を生かして立ち上げた個人部署が躍進。その後、独立し、「名刺を持たないコンサルタント」として、口コミのみで顧客を拡大する。著書『ひらめきはスキルである』(総合法令出版)。講演・セミナーには海外からの参加者も多い。「瀬田崇仁メルマガ」にて情報発信中。

~本も映画も旅行も、A4マトリクスで記録

アイデアとは、「どこかから降りてくるもの」「何もないところからひねり出すもの」と思いがちですが、そんなことはありません。ゼロから何かを生み出すのは至難のわざです。そこで大事になるのが、アイデアが湧き出す「起点」をつくることです。そうした起点づくりの方法を、いくつかお伝えしたいと思います。
まずは「ネタ集め」。代表的なのが読書ですが、いくら大量に本を読んでも、それだけでは意味がありません。インプットしたものを腐らせず、必要な時にアウトプットできるよう整理することが大事です。その方法の一つが「A4マトリクス・ノート術」です(図表①参照)。

BILANC27「ひらめきの達人」になる!瀬田先生

まず、ページに十字線を引き4等分にします。次に、左上を「実行すること」、右上を「思いついたこと」、左下を「衝撃を受けたこと」、右下を「その他、重要なこと」と区分けします。本を読んで思ったこと、考えたこと、思いついたことなどを、この4つに分類しながら書き留めていくのです。読後は必ず実行しましょう。書き出しただけでは無意味です。
このノート術は読書に限らず、映画や旅行にも使えます。読書と同様、自分の考えや思いついたことを書くことで、頭の中を整理するのです。記録したノートは、アイデアが必要な時のヒントの宝庫になりますよ。
ネタ集めとしては、「違和感リスト」もおすすめです。仕事や日常生活で、「これっておかしくない?」「もっとよくできるのでは?」と、疑問や不満に感じたことをメモ帳などにリストアップしていきます。ただ、それだけでは仕方ないので、自分なりの「答え」を書いておくことが大切です。これにより独自の視点が増え、ひらめきやアイデアを高める力が磨かれます。

~「制約」があれば発想は豊かに!

アイデアを考える上では、「制約」も大事な「起点」になります。たとえば、あるイベントのプロモーションを行うことになったとします。「予算はいくらでもかまわない」と言われたら、担当者は困ると思います。どこまで手を広げていいのかわからないからです。「予算100万円」ならば考えやすいでしょう。これが制約です。
大学のオープンキャンパスを例に考えてみましょう。有名大学ではなく、スポーツも強豪ではなく、地方の田舎町にある……。ここで「ハンデ(制約)ばかりでどうしようもない」と諦めるのか、「制約があるからこそクリエイティブなことができるはず」と発想を切り替えるのかで大きな差が生まれます。「田舎の大学」であれば、「自然豊かな環境」や「地方再生を実学として学べる」などという点を魅力として伝えるのです。こうすることでアイデアは湧きやすくなります。
アイデアの「起点」づくりでは、「自分ペルソナ」もおすすめです。「ペルソナ」とはマーケティング手法の一つで、自社の製品やサービスの典型的なユーザー像を設定するものです。とはいえ、中高年の職員が志願者(高校生)をペルソナとしてイメージするのは難しく、どんなに想像しても現実との乖離が生まれます。
そこで有効なのが「自分ペルソナ」。私の造語ですが、要は、自分の体験を活用するのです。
マイホームを例に考えてみましょう。家を買う場合、大手住宅メーカーもあれば、地元の工務店もあります。大手メーカーなら安心で正解かというと、必ずしもそうではないですよね。地域密着型の工務店のほうが、合っているかもしれません。
大学も同様に、大手かどうかよりも、本当に勉強したい分野がある、少人数教育を実践している、学びたい教授がいる……、という点が売りになります。このように自分のマイホーム購入の体験をもとにオープンキャンパスのアイデアを考える。地方の小規模な大学であれば、都市部の総合大学との違いや独自性、魅力を打ち出せるアイデアを考えればいいのです。

起点になり得るのは、「ネタ集め」「違和感リスト」「制約」「自分ペルソナ」「枠の外」の5つ

~異業種・異分野はアイデアの宝庫

ビジネスの世界では、新製品を考案する時に同業他社を研究します。しかし、それではおもしろい企画は生まれにくい。たいていは後追いで似たようなもの、少しだけ差別化したような製品になってしまいます。
そこで大事になるのが、「枠の外を探す」という視点です。これもアイデアの「起点」になります。異業種や異分野で、似たものを探していきます。コロナ禍の今であれば、非接触やオンラインで成功しているビジネスをヒントにしてみるのはどうでしょうか。
例えば、自宅で過ごす時間が増えているために、テレビ通販は好調のようです。実際に商品に触れず、体験することもできないのに、視聴者が思わず買いたくなるような仕掛けになっていますよね。商品のよさや魅力が伝わる工夫が施されています。大学の魅力の発信も、これの良いところを取り入れられないか……、などと考えてみてはどうでしょう。
実は、私には、原体験と言えるほど影響を受けた『ミスター味っ子』という漫画作品があります。母と一緒に食堂を切り盛りする中学生の主人公が、名だたる料理人たちと勝負に挑む内容です。主人公はライバルに比べ予算や食材など「制約」がある中で、斬新な料理をつくり勝ち続けます。作中には彼が料理以外の、たとえば町中の親子の会話や、自然の風景などから料理のヒントを得るシーンが出てきます。まさに「枠の外」がアイデアの起点になっているのです。

BILANC27「ひらめきの達人」になる!瀬田先生

アイデアや企画は、自分ではスゴいと思っていても、否定されることが少なくありません。大事なのはめげないことです。スモール・サクセスで小さな成功事例を一つずつ積み上げ、ワイド・スプレッドで広げていくのです。ぜひアイデアの起点づくりを参考に、小さな成功を重ねていってください。

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