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発想広がる匠のメモ、 しぼませる凡人のメモ

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構成:田之上 信 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

ふとした気づきは必ずメモする。でないと、確実に忘れる

BILANC27「ひらめきの達人」になる!小西先生 クリエイター・コピーライター
小西 利行氏(こにし・としゆき)
POOL INC.FOUNDER/クリエイティブ・ディレクター/コピーライター。博報堂を経て、2006年POOL INC.設立。CM制作、商品開発から、街づくりや国の戦略構築も行う。「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」「PlayStation」「モノより思い出。」などヒット作多数。著書に、『伝わっているか?』(宣伝会議)、『すごいメモ。』『プレゼン思考』(以上、かんき出版)、『売れ型』(PHP研究所)がある。

~未来の自分への指示。それが、メモの役割

打ち合わせや会議では、多くの人がメモを取ると思います。しかし、あとで見返したら意味不明ということはないでしょうか。書いて終わりでは、メモの意味がありません。メモは目的ではなく、手段だからです。
メモは思考を整理したり、アイデアを出したりといった、さまざまな役に立ちます。ただ、メモを有効活用するためには、ちょっとした工夫が必要です。最も大事なことは、「未来の自分を信じない」ということ。なぜなら人は忘れやすいため、メモした内容は、1週間後には何を意味するのか思い出すのが難しいからです。「見返すときには忘れている」という前提で、未来の自分にメッセージを残す気持ちでメモをまとめるのがポイントです。メモは「未来の自分に対する指示書」なのです。
したがってメモにはキーワードだけではなく、それに対する自分の考えや思ったこと、または何をすべきか、といったことを記します。「この点が重要課題だ」「これはあとで調べよう」など、打ち合わせや会議での話し合いや思考のたどった道筋がわかるようにメモに残すことが大事です。
とはいえ、細かく丁寧に書く必要はありません。メモは簡単かつシンプルに。単語と単語を矢印で結んだり、二重丸などの記号を使って優先順位をつけたり、自分がわかりやすくなる工夫をします。

~気づきや思いつきは1カ所に集約

アイデア術でメモを活用するなら、ふと思いついたことや、気になったことも書き留めます。こうした気づきや思いつきは、バラバラに記録しがちですが、未来の自分への指示書であることを考えると、1カ所にまとめておかなくては散逸してしまい、意味がありません。「必ずここにメモしている」という状態にしておくのです。
また、メモは文字情報だけでなく、写真などでもいいでしょう。こうしたことに注意してメモを取ると、アイデアを考える際に有効に使えて、発想がふくらみやすくなります(図表①参照)。

BILANC27「ひらめきの達人」になる!小西先生

ちなみによく勘違いされるのですが、私はクリエイターだからといって、四六時中いろいろなことを考え、常にメモを取り続けているわけではありません。そんなことは無理です(笑)。「考えること」が仕事であるわけですから、少なくとも仕事の時間内に取り組むようにしています。ただし、仕事を離れて町を歩いているときなどにヒントを得ることもあります。当然、こうした時はメモをします。
情報のインプットも、特別なことはしておらず、読書や映画鑑賞は人並みだと思います。
ただし、意識して大切にしていることがあります。それが、会話や雑談です。打ち合わせや飲食をともにしたリアルなコミュニケーションは、情報の総量が圧倒的に多く、発想やアイデアの質が変わると実感しています。
では、アイデアというものは、具体的にどうやって生まれるのでしょうか。これもよく誤解されますが、「クリエイターだからすごいアイデアが考え出せる」ということはなくて、アイデアは誰にでも考えられますし、どんな職種や仕事でも必要なものだと考えています。
ここで改めて、アイデアとは何かを考えてみたいと思います。アイデアとは、世の中の「滞り」を解決するものだと、私は認識しています。「滞り」とは、つまり既存のやり方では解消できていないことですから、新しい方法が必要です。それを考えるのが、アイデアなのです。仕事でも日常生活でも、必ず何かしらの「滞り」があるはずです。ですからアイデアは、すべての人に共通に大事なものなのです。

半径5メートル以内の不満を解決することから、アイデアは生まれる

~アイデアの源泉、「三角メモ」の活用法

「滞り」は「不満」に置き換えるとわかりやすいと思います。より自分事になるからです。たとえば仕事の不満をメモに書き出します。それがアイデアのタネになるわけですが、この時に大事なのは、解決策を同時に考えることです。不満だけを書き連ねても意味がなく、どうすればその不満が解決するかを考えることで、それがアイデアにつながるのです。
そしてもう一つ大事なことは、その不満を解消することは、周囲の人のメリットになるのかという点です。利己的なアイデアではダメで、周囲も喜ぶことを考えることが大切です。
しかしながら、自分の不満と、その解決策が周りの人にとってうれしいことなのかは、なかなかつながりにくいと思います。人はつい、大きく俯瞰的にものごとを考えがちだからです。仕事の不満でも、会社全体の問題としてとらえて、会社を変えなければいけないと考えてしまう。それだと解決が難しいので、諦めてしまいます。
そこでおすすめなのが「半径5メートル」で考えることです。つまり不満を自分事化して、周囲の人、たとえば同僚や家族を想像しながらどんどん身近なリアルなものに落とし込んでいく。その小さな問題解決が少しずつ広がっていき、より大きな問題の解決につながるのです。
この考え方を応用したアイデアをつくる公式を一つご紹介しましょう。「三角メモ」というもので、私も実際に使っています(図表②参照)。

BILANC27「ひらめきの達人」になる!小西先生

ノートに図のような二つの三角形を描いて、左側に「送り手」がやりたいことで、かつ、できそうなことを書き出します。右側には「受け手」の不満(あるいは好み)を書き出します。重なったところに「隠れニーズ」があり、それがアイデアになります。
よくいわれるように、アイデアはゼロからの発想ではなく、既存のものをかけ合わせることで生まれます。三角メモは簡単ですから、ぜひ活用してみてください。

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