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「パクリ」を超越する アナロジー思考

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構成:野澤正毅 
編集:プレジデント社

パクリは楽。しかし、先例を超えるリターンは期待できない

BILANC27「「ひらめきの達人」になる!」細谷先生 ビジネスコンサルタント/著述家
細谷 功氏(ほそや・いさお)
東京大学工学部を卒業後、東芝で技術者として勤務したのち、ビジネスコンサルタントに。専門領域は業務改革、戦略策定など。ロングセラーとなっている『具体と抽象』(dZERO)をはじめ、『「具体⇄抽象」トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)など著書多数。講演・セミナーも数多く手がけている。

~模倣はローリスク、ローリターン

大学の教職員には、クリエイ ティブな能力が必要と言えるでしょう。R&D(研究開発)が仕事のベースである大学教員はいうまでもありませんが、大学のマネジメントを担う職員にも、高い企画力が求められるようになりました。なぜなら少子化が進む中、さまざまな差別化戦略で学生を集めたり、経営効率化の秘策をひねり出したりしなければ、大学は生き残りが難しくなっているからです。
とはいえ、いいアイデアを思いつくのは容易ではありません。そのため、「クリエイティブな才能は生まれつきで、才能がない人間にはとても無理だ」と、思い込んでいる人もいるかもしれません。しかし、発想力は、誰でも豊かにすることができるのです。私は、とりわけ、「アナロジー思考(類推)」という方法をお勧めしています。
高校生や保護者向けに、大学のPRイベントを企画するケースを想定してみましょう。多くの場合、まず行うのが模倣。いわゆる「パクリ」です。他大学のPRイベントを探してきて、焼き直すといった類いです。模倣は、他者からアイデアを拝借するので、発想力はいりません。誰にでもできます。ただし、それなりの情報収集力が必要になってくるので、日頃から他大学の動向をこまめにチェックしたり、教育関連の人脈を広げたりする努力は欠かせません。
模倣のメリットは、何と言っても「ローリスク」という点に尽きます。前例があるので見通しがつき、成功事例をまねすれば、それなりの成果を上げやすいのです。一方で弱点は「ローリターン」ということ。「二番煎じ」で先例を超えることは至難の業です。社会からの評価や注目度は、先例よりも格段に下がってしまいますからね。

~大学と別の何かの共通点を探ってみる

模倣に対してアナロジー思考は、自分に似ていない「遠くのもの」をまねることといえます(図表①参照)。

BILANC27「「ひらめきの達人」になる!」細谷先生

特徴は、物事を抽象化して、一見無関係な事柄から共通項を見出し、関連させていくこと。例えば、「都会のタクシーと観光地の土産物屋の共通点」はわかりますか?両方とも「一いち見げん顧客がほとんどでリピータはいない」ことです。そこから、これらの仕事の共通の成功要因が見えてきます。リピータが多いビジネスでは必須の「顧客満足度」は、相対的にあまり重要ではありません。その代わりに言えるのは「場所が重要である」ことです。このように、遠くのものでも似ている点は見つかるのです。
そこで、大学と異質に見えるものを比べてみましょう。例えばショッピングモールはどうでしょうか? 実は、似ている点もけっこうあります。総合大学には文学部、法学部、理工学部とさまざまな学部がありますが、ショッピングモールも、食料品、衣料品、インテリアといった、さまざまな売場で構成されています。また、学部は多くの研究室の集合体といえますが、各売場も多くの店舗が集まっている点は同じです。つまり売場のリーシング、販促方法などが、大学の新しい講座の開設、受験生へのPRなどに役立つ可能性があるわけです。
アナロジー思考は、他者から着想を得る点では模倣と同じ。しかし、無縁そうに見える他者がヒントなので、よりオリジナリティーあふれるアイデアが生まれます。他者が遠いほど独創的で、斬新なアイデアを発想しやすいのです。しかし失敗も多く、「ハイリスク」なのは事実です。それでもうまくすれば、模倣の数倍以上の「ハイリターン」を得られるでしょう。

仕事をしながら遊びのことを、遊びながら仕事のことを考える

~先入観をなくして発想力を豊かに!

アナロジー思考は、意外と簡単に習慣化できます。一つの方法が、環境を大きく変えてみること。物事を違った角度から見るようにして、従来の視点と今の視点を比べてみればいいわけです。例えば、勤務時間中に企画を考えていると、行き詰まってしまうことはないでしょうか? これは自分でも気づかないうちに、「思考の枠」にはまってしまうからです。仕事モードのときは、仕事以外のことに発想が行きにくいわけです。自宅でくつろいでいるときに、案外いいアイデアが湧くのはそのため。そこで、仕事中にふと遊びのことを考えたり、遊びながら仕事のことを考えたりして、思考回路をスイッチするクセをつけるといいでしょう。
もう一つの方法は、発想の制約を取り払うこと。仕事でも「考えてから動く慎重派タイプ」と、「動きながら考える行動派タイプ」の人がいますが、後者のほうが発想力の豊かなケースが多いのです。なぜなら、行動派タイプは先入観がなく、余計なことを考えないから。「4匹の猿の実験」の逸話でも示されているように、理由もわからず制約にとらわれるのはナンセンスです(図表②参照)。

BILANC27「「ひらめきの達人」になる!」細谷先生

斬新なアイデアが欲しいなら、「若者、馬鹿者、よそ者を入れろ」という名言もあります。これら三者は、既成概念がないゆえに、発想もフレッシュなわけです。そうした他者の力を借りて、自分の発想の幅を広げるのも手でしょう。
コロナ禍という未曽有のピンチでは、大学も「リモート講義」のように、前例のない取り組みを次々と迫られています。そんなときだからこそ、アナロジー思考によって大胆な発想をすれば、勝ち残りのチャンスが増えるともいえます。ぜひ試してみてください。

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