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常識の“壁”に 女子教育で挑む

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少子化、地方格差、大学改革、コロナ禍・・・・・。私立大学等を取り巻く状況は変化し続けています。そんななか、名学校法人はいかにして存在感を発揮すべきなのでしょうか。当財団の監事でもある学校法人フェリス女学院学院長の鈴木佳秀先生にお話を伺いました。

bilanc27私学の今「鈴木佳秀先生」
学校法人フェリス女学院 鈴木佳秀学院長


※2022年3月発行BILANC vol.27に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

~ 多様性社会で強みを示す

生き残りのため、共学化を選ぶ私学の女子校が増えています。しかし、ダイバーシティが立ち遅れた日本社会において、女子校の重要性は今後、むしろ高まるでしょう。そう考えるようになったのは2015年、フェリス女学院学院長に就任してから。実は、女子校の経営に携わるのは初めてで、フェリスに来てからようやく、女子校の存在意義の大きさに気づきました。
日本には数多くの女子校がありますが、それぞれ教育理念や校風が違います。同じミッション系でも、カトリック系は「淑女たれ」といったポリシーの学校が多いのに対して、プロテスタント系には自由主義的な学校が少なくありません。中でもわがフェリスは、創設以来「女性の自由・自立」を追求してきた伝統と自負があります。
“ フェリス” といえば、「横浜のお嬢様学校」というイメージが世間で定着していますが、実態は少々異なります。例えば、高校生には外部進学希望者が多く、約半数が理系。医学部や薬学部、理工学部などに進学し、医師や薬剤師になる卒業生が目立ちます。そうかと思えば、東京大学法学部を卒業後「日本のライフラインを守る」と就農した卒業生もいます。彼女を講演会に呼んだところ、在校生から大好評で、質問攻めにあっていました。
大学生もキャリア志向が強く、大企業の総合職、専門職として活躍する卒業生が大勢います。また、本学院は英会話を重視した「生きた実践英語教育」に力を入れてきた特色もあって、航空会社のキャビンアテンダント、女子アナウンサーを輩出してきたことでも知られています。言うなれば、高度に専門的な見識と能力を備えた「職業人」として、多様化する社会で他者と共生し、社会に貢献できる卒業生が多いということです。

~ 卒業生が“ロールモデル”に

では、なぜ本学院の学生・生徒は自立を目指し、自活できるようになるのでしょうか? 私は、それが女子校での、学びの賜物だと考えています。日本の社会では、自然と男性に頼る(男性を立てる)雰囲気があります。ホームルームでも、クラブ活動でも、共学校であれば無意識に「男子に任せよう」となりがちですが、女子校ではそうはいきません。自分たちですべてを運営しなければならないわけです。そうして得た体験や知識が糧になって、「女性だけの力でもやっていける」という自信につながるのでしょう。
本学院の学生や生徒は、誰の前でも物怖じせず、自己主張するのが特徴。実は、私自身もやり込められたことがあります。高校での説教で、「離婚の増加が社会問題になっている」と話したところ、3年生の生徒が名乗りを上げ、「学院長先生は“離婚が悪”と決めつけているようですが、根拠は何ですか」と追及されました。驚きましたが、「高校生にして自分の意見をしっかり言えて、たくましい」と感じました。
一方で、フェリスの女学生は一部の方から敬遠されているのも事実です。日本は相変わらずの男性社会なので、良い意味で男性に遠慮をしない卒業生の多くは、就職してからも苦心が絶えないようです。ところが、そうした「男性社会の壁」をめげずに乗り越え、社会での実績を作り上げていく強さも兼ね備えています。女性の社会進出を加速させ、男女平等社会を実現するには、ロールモデルが不可欠です。フェリスの卒業生がロールモデルとして、社会変革を主導してくれることを期待しています(図表①参照)。

bilanc27私学の今「鈴木佳秀先生」

~ 教養教育重視のカリキュラム

1870(明治3)年に創設されたフェリス女学院は、2020年に150周年を迎えました。それを機に、女子教育のパイオニア精神、キリスト教信仰に基づく「For Others」を中心としたミッションステートメントを策定しました。歴史のある本学院ですが、先人が築いてくれたブランドにあぐらをかいていては、少子化の波にのまれてしまいます。実際21年の入試では、関東圏の女子大学の中で受験生の減少率が最も高かったのが本学でした。私は逆に「ピンチをチャンスに変えればいい」と、前向きに考えています。
私はこれまで教務のかたわら、新潟大学や他の私立大学で経営改革に取り組んできました。そうした経験から、改革の柱として主張しているのが、「学部・学科の枠をなるべく取り払うこと」。私は米国留学経験などに基づいて、「リベラルアーツ」を重視しています。専門性を究めることはもちろん大切ですが、幅広い教養を身につけることも、同じように大事だからです。リベラルアーツを追求しようとすれば、学部・学科にこだわらず、すべての講義を自由に、自主的に履修できるようにしたほうがいいわけです。女性の“自由・自立”を掲げる本学院としては、そうした制度のほうがフィットするでしょう。それに、学部・学科の枠を外したほうが、配分できる研究費も増えるし、研究体制も効率化できます。スタッフなどのリソースも、共有化によって有効活用しやすくなります。
そこで、改革の一環として、語学・教養課程を発展させた「全学教養教育機構」を17年に開設しました。学部共通単位の講義を増やしてきたのですが、同機構によって、そうした仕組みを拡充したわけです(図表②参照)。

bilanc27私学の今「鈴木佳秀先生」

例えば、「産学協同で食品を商品化する」というユニークな講義科目があります。そこでは、百人一首にちなんだ最中をつくったり、外資系メーカーと組んでブレンド紅茶を販売したりするので、学生から人気です。そのほか、教員の外部評価制度の導入、入試制度の刷新なども進めています。
経営改革は、一朝一夕にはできません。教職員の労働環境・労働条件やキャリアプランにも大きく影響しますし、自治制度との調整もあるからです。しかし、私は希望を持っています。コロナ禍が契機となって、教職員の危機感が高まり、問題意識も共有できるようになったと感じています。粘り強く教職員を説得し、理解と協力を得られれば、改革への道は開けると信じています。

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お話を伺った方
鈴木 佳秀 氏:
学校法人フェリス女学院 学院長
(すずき・よしひで)
新潟大学教授、敬和学園大学学長などを経て、2015年より学校法人フェリス女学院学院長。
旧約聖言学などを研究し、日本学士院貰を受頁した『申命記の文献学的研究J(日本基昔教団出版局)など著書多数。2020年11月、私立大学退職金財団監事に就任。

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