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賢い「余暇」の取り方、過ごし方

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「1日あたり11時間休めば十分」というのは本当でしょうか……?
働き方改革やコロナ禍による急激なデジタル化によって、働き方だけでなく、余暇に対する考え方も変わりつつあります。そこで、労働時間や時間配分を踏まえながら、余暇について考えてみましょう。

構成:江頭紀子 
編集:プレジデント社

BILANC27黒田先生 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
黒田 祥子氏(くろだ・さちこ)
専門分野は労働経済学、応用ミクロ経済学。
研究テーマは労働時間、時間配分などで、「日本人の余暇時間 長期的な視点から」(『日本労働研究雑誌』2012年8月号所収)など、余暇時間に関する論考や雑誌寄稿も多い。『労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』(共著・日本経済新聞出版社)など著書多数。

~日本人が休めないのは「勤勉」が理由ではない

ここ2年ほど、コロナ禍でテレワークが推奨され、「通勤がなくなり時間が増えた」と感じている方もいるでしょう。「時間が増えた」ことで睡眠時間が増え、体が楽になったという人もいますが、仕事と生活の境界があいまいになり、遅くまで働いてしまうという声も聞かれます。海外では「通勤時間が減ったぶんの3分の1を労働時間に振り分けている」という研究結果もあります。
そもそも余暇の定義は、「テレビを見る、くつろぐ」という狭義のものから、睡眠・食事時間などを加えたもの、さらには、労働時間以外のすべてを「余暇」と捉えるものまで、さまざまです。
日本人の主たる労働観では、「業務量をこなすため労働時間はめいっぱい広げ、余暇時間はそこから差し引いたもの」との見方が大半でしょう。一方、欧州では、「まず余暇時間があって、残りの時間でいかに効率よく働くか」という考え方が主流です。とはいえこうした考え方が確立されたのはそれほど昔ではなく、1970年代のオイルショックがきっかけでした。失業者対策にワークシェアリングを導入し、1人あたりの労働時間を短くして長期のバカンスを取るよう推奨したのです。すると、バカンスでリフレッシュして健康的になったり、そのバカンスを楽しみに仕事を頑張れたりするなどして、余暇を楽しむ文化ができたとされています。日本も同様で、休まない文化は「勤勉だから」ではなく、単にきっかけがないだけだと考えられます。
2019~2020年に始まった労働基準法の改正は、そのきっかけとして期待されましたが、コロナ禍で働く時間・場所の自由度が増したことによって、「ついつい働いてしまう」ことになりかねないのが現状です。そこで、会社から解放されて心身がリセットできる時間を持つこと、いわば「つながらない権利」を、雇用者と労働者の双方が認識することが必要になります。常に職場の人間から連絡がくるようでは、気が休まりません。メールを出さない時間帯を決めるほか、週末のメールはサーバに貯めておき、週明けに配信するようにしてもいいでしょう。

~適度なインターバルでメンタルを保つ

そもそも適切な労働時間は、どの程度なのでしょうか。コロナ禍前にある企業のホワイトカラーを対象に調査をしたところ、1週間に同じ時間数で働く人を比較した場合、「月~金の5日間で働き土日は休む人」よりも、「週末も出勤して働く人」のほうが、メンタルが悪くなりやすいことが見えてきました。日本では、1日11時間のインターバルが提唱されていますが、1週間の中でのまとまった休みも重要といえます。
ただ、必要なインターバル時間は、性格や職種、体力などで異なります。ちなみに日本の有給取得率は約55%ですが、1年間のインターバルも必要です。余暇の大切さがわかってきたコロナ禍を機に、有給も気兼ねなくとれる社会になっていくことが重要ではないでしょうか。
余暇時間の有効な過ごし方は、当人の嗜好や仕事の内容によって異なります。体を使う仕事なら、しっかり休息をとるのも一案です。私の場合は机に向かうことが多いのですが、コロナ禍で運動の時間を増やしたところ、生産性が上がることに気づきました。
余暇の一部を使うことを提案したいのは、スキルを磨き直す「リスキリング」の時間にあてること。勉強すると頭が休まらないと思うかもしれませんが、自分への投資としての勉強は、「余暇を削り、その対価として金銭報酬を受け取る労働」とは違います。おうち時間が増えた人は、ぜひ、ご自身への投資時間を増やしてみてください。

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