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スポーツの力で学生の愛校心を育む

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新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけとなって、社会のあり様は大きく変化しました。当財団の監事でもある学校法人国士舘理事長の大澤英雄先生に、私立学校ならではの教育の将来像についてお話を伺いました。

bilanc26私学の今「大澤英雄先生」
学校法人国士舘 大澤英雄理事長


※2021年12月発行BILANC vol.26に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

~ 教育理念の継承

私学にとっては、建学の精神や学風がとても重要だと、私は考えています。それらが学生や卒業生のカラーを生み出し、大学の個性にもつながるからです。
学校経営の観点からいえば、差別化戦略にもなります。わが国士舘についていえば、心身ともにたくましく、世のため、人のために尽くす若者を育成することが、創立者である柴田德次郎先生以来、脈々と受け継がれてきた教育理念です。
私は学生時代、柴田先生と起居をともにして薫陶を受けました。したがって、理事長として柴田先生の教育理念を、後世に正しく伝える責務があると考えています。
柴田先生は学生をわが子のように大切に考え、深い愛情を注いでいました。私が汗と泥まみれになってサッカーの練習をした後、柴田先生に「なんじゃ、そのボサボサの頭は! 床屋に行きなさい!」と叱られながらも、「散髪代がないなら、これをやるから行きなさい」と、小遣いをもらった経験があります。柴田先生は頑固親父を絵に描いたような厳しい一面もあったのですが、実は心が大きくて、温かい人だったんです。
本学の近くには、幕末の志士を多く育てた吉田松陰を祭る松陰神社があります。柴田先生は、吉田松陰の教育を理想としていました。私はその理想を受け継いで、次世代につないでいきたいと思っています。

~ 学生との絆を深める努力

当時の体育教員は、教育職員免許法の改正により有資格者が重宝され引く手あまただったため、学友の多くは、待遇のいいほかの学校に就職しました。ところが、私は本学に就職し、気がつけば60年が経過しました。それというのも、柴田先生の教えによって、私が国士舘に対して強い愛校心を抱いていたからです。国士舘大学は、いまや体育学部だけでなく、文系・理系の全7学部を擁する総合大学になりました。学生たちもスマートな現代っ子が多く、昔の“バンカラ”のイメージとは様変わりしています。
とはいえ、根幹となる国士舘の教育理念は変わりませんし、変えてはいけないと思っています。現在の大学は、ともすればマスプロ教育、一方通行の教育になりがちです。しかし、私は工夫次第で学生と教員が絆を深め合い、二人三脚で学びを進めることは可能だと考えています。大教室の講義では難しいですが、少人数制のゼミナールなら、教員が学生全員の顔と名前、プロフィールを覚えられるはずです。私は、時間が許す限り学内を回り、学生たちとコミュニケーションを取るようにしています。先日も自主的に構内のゴミを拾っていた学生を見つけて感心したので、名前と所属を聞きました。その学生は、“見知らぬおじいさん”に話しかけられ、けげんそうな顔を向けました(笑)。しかし、そうした積み重ねが学生と教員との距離を縮め、アットホームな学風づくりにつながっているはずです。

~ スポーツが育む母校愛

もう一つ、国士舘の特色を出そうと、私が力を入れているのがスポーツです。その一環として、2018(平成30)年に本学の体育・スポーツ教育を一元管理する「国士舘スポーツプロモーションセンター」を開設しました。本学は、体育学部が看板学部なのですが、ほかの学部の学生にもスポーツを勧めています。体育会に所属するトップクラスのアスリートだけでなく、一般学生にもスポーツに親しんでもらいたいですね。サークル活動も含めると現在、本学の学生のうち、6割ほどがスポーツに汗を流しているようです。

bilanc26私学の今「大澤英雄先生」

私は長年、体育学の研究とサッカーの指導に携わってきましたが、スポーツは、厳しい競争社会を生き抜く能力を育みます。実は、スポーツによって体力だけでなく、知力と気力も養われるのです。スポーツに打ち込むようになると、「勝ちたい」という闘争心が芽生えます。この「勝つ」ための努力が重要です。目標達成まで頑張り抜く強い精神力や意欲が身につくからです。
スポーツを通じて得たそうした能力は、ビジネスや人生でもプラスに働くでしょう。そのために、新しい練習法を考えたり、戦術を練ったりするなど、勝つことをテーマの中心に、共同して研究し強くなるのです。尊いのは勝つまでの過程のさまざまな知的活動や創意工夫であり、そうした経験も実社会で生かせます。つまり、スポーツは、心身ともにたくましい若者を育てるのに適しているのです。実際に、本学では「社会に貢献したい」と警察官や消防官を目指す学生が多く、警察・消防の採用者数でトップを占めるようになりました。
さらに私は、学生たちに自分でスポーツを楽しむだけでなく、スポーツで頑張っている友人を応援するように呼び掛けています。最近はスマートフォンもあり時間を使うのが簡単で、スポーツなど苦行のように思える人もいるでしょう。しかし、やるのは無理でも仲間意識をもって応援することは可能です。本学では、学生が全国大会などに出場する際は、バスをチャーターし、応援する学生を会場に送り届けています。本学のスポーツ情報を伝えるオフィシャルサイト「スポ魂」も立ち上げました。
スポーツは学生同士の一体感を生むだけでなく、教職員との絆を深めるのにも役立ちます。そうした取り組みによっても、教職員が親と同じ愛情をもって、強い人間を育てること、そして学生に母校愛が育まれることを、私は期待しています。

bilanc26私学の今「大澤英雄先生」

お話を伺った方
大澤 英雄 氏:
学校法人国士舘 理事長
(おおさわ・ひでお) 学園のスポーツ振興や大学スポーツの課題に積極的に取り組む。
2009年4月学校法人国士舘理事長に就任。2019年旭日中綬章受章。
2015年から公益財団法人私立大学退職金財団監事を務める。私立大学協会常務理事。一般社団法人大学スポーツ協会理事。

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