広報活動

誰も気づいていない “真の欲求”

 一覧に戻る

撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

早稲田大学の枝川教授に、脳神経科学の視点から、業務の効率アップにつながる知恵を教えていただきます(脳のカラクリ 第1回)。

BILANC26「脳のカラクリ」 早稲田大学理工学術院教授
枝川 義邦氏(えだがわ・よしくに)
早稲田大学理工学術院教授。脳神経科学者。『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)など、著書多数。

~重い腰を上げるには、自覚が重要

モチベーションとは実に儚いものです。なかなか言うことを聞かないじゃじゃ馬であり、つかみ所がなく、いったんつかんでもスルリと逃げてしまうウナギのようでもあります。出るのか、出ないのか、予想だにしないことから、オバケのようだと評した人もいます。
秋から冬にかけて日照時間が短くなり、心の晴れない日が続きがちになります。寒さも手伝い、体も縮こまると、やる気を上げるのがなかなか難しいでしょう。今回は、モチベーションを高めるための第一歩となる、“欲求の自覚”に注目することにします。
人は手に入れたい「結果」に対する「欲求」に気づくと、「モチベーション」が高まってきます。そして、その結果を得るための「行動」を起こすようになるものです。つまり、モチベーションとは「(重い腰を上げて)行動に移すためのスイッチ」を入れる役目といえましょう。モチベーションのスイッチを入れるのは自身の「欲求」となりますが、皆さんも仕事やプライベートなど、場面によって行動につながる欲求の種類や強さは異なるはずです。場面は違えど、やる気を高めるためには、自分の「真の欲求」をどれほど自覚できるかがカギとなるのです。ところが、多くの人は自身がなにを欲しているのかを正確には認識できていないのではないでしょうか。そこで今回は、欲求の気づき方をご紹介します。

~欲求を知るには、5段階説が役立つ

自分の欲求についての理解を深めるには、米国の心理学者エイブラハム・マズローが提唱した“欲求の段階性”を基に考えるとわかりやすいでしょう。マズローの説に従うと、人間の欲求は下位から順に「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階に分かれます。

BILANC26「脳のカラクリ」

自分の欲求がどの段階にあたるかを考えてみると、どのような物事がやる気をくすぐるのかをつかめるはずです。
例えば、あなたが「来週までに、プレゼンの資料を作る」という課題を抱えているとします。課題をこなしたことで自分が得られるものは、5段階のうちどこにあるのか、と想像してみてください。仕事を頑張って生活を安定させたいなら「安全欲求」になりますし、上司や同僚に褒められたいなら「承認欲求」、自分の能力を納得いくまで高めたいなら「自己実現欲求」と捉えられます。自分に承認欲求があることがわかったら、上司や同僚に認められた姿(望む結果)をイメージしたりすると、やる気もくすぐられます。実際には、複数の欲求が同時に生じているでしょう。目的の裏にある自身の欲求を一つずつ丁寧に読み解き、手に入れたい姿を想像することで、「やる気のスイッチ」も入っていきます。
ところで、やる気が高まる理由がいつも同じようなものであった場合には、何か心に欠けた部分があるのかもしれません。私たちは人生で大事にしていることや、これまで満たされなかった対象に欲求を持つことが多いものです。自分の欲求のクセに気づいたら、「実は心に欠けた部分があるのではないか」と意識するだけでも、モチベーションを高められるでしょう。
さらに、「思わず買ってしまった」「それがないと心が満たされない」と感じるものがあれば、それは5段階のどれにあたる欲求なのかと一度立ち止まって考えてみるのも、やる気を高めるツボをに気づくよい手となります。他人に伝える必要はありません。正直に自分の心を見つめ、「真の欲求」に迫っていきましょう。

Top