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意識&行動変革の“起点”に!SDGs+(プラス)プロジェクト

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Campus × SDGs vol.01

SDGs_法政大学
「SDGs+プロジェクト」を推進する総長室付教学企画室の課長・田中一平さん(左)と荒井俊樹さん(右)

構成:江頭紀子 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

~トップ肝いりの取り組みとしてスタート

15学部38学科を擁する総合大学として多彩な学びを提供する法政大学。「自由を生き抜く実践知」を大学憲章とし、約3万人が学んでいます。
同大が地球環境との調和に注力し始めたのは1999(平成11)年で、国連サミットでSDGsが採択された2015(平成27)年よりもずっと早い時期でした。この年に、環境憲章の制定および持続可能性をコンセプトにした人間環境学部を新設。以来、「持続可能な地球社会の構築への貢献」をキーワードに、多彩な取り組みを進めてきています。
その流れが加速したのは2018(平成30)年のこと。SDGsへの取り組みに関する総長ステイトメントを発表し、廣瀬克哉総長(当時、副学長)による「SDGs+(プラス)プロジェクト」が立ち上がったのです。
総長室付教学企画室課長の田中一平さんは、「SDGsの考え方は、これまで本学が取り組み続けてきた方向性と一致します」と、活動が本格化した背景を語ります。さらに、“SDGs+”としたのは、「既存のSDGsにとらわれず、法政大学ならではの貢献をプラスしていこう、という思いを込めています」と続けます。
プロジェクトリーダーには、SDGs研究者であるデザイン工学部建築学科の川久保俊教授(当時、准教授)が就任。田中さんは「理解あるトップと、実践できるリーダーがいたからこそ、スムーズに進みました」といいます。また、SDGsのゴールである2030年は、法政大学創立150周年にあたる年でもあります。そうした背景からも、総長肝いりの活動としてスタートを切りました。しかし、SDGs関連のプロジェクトを推し進めるといっても、範囲が広く、どこから手をつければよいか迷ってしまいそうです。田中さんは、「問題意識を高めると自然と照準が定まり、実際に『なにができるか』『どういったことをしたいのか』が見えてきます」と話します。

~「SDGs科目群」履修者には修了証が授与される

こうして練られたプログラムの内容は多岐にわたりますが、特徴的なのが、SDGsに関わる科目群を学部横断型で学習できるというもので、2019年度にスタートしました。総長室付教学企画室の荒井俊樹さんは当時をこう振り返ります。
「SDGsの内容は幅広く、どう取り組むか悩みました。ただ、17の目標すべてに貢献しなくてはならないと捉えるのではなく、大学として何ができるかを考えながら得意分野を活かす方向で練っていきました」
外部の力を借りるだけではなく“今われわれが持っている資源でできることはないか”という発想から展開しているのが、学部を横断して履修できる「SDGs科目群」です。この科目群から所定の単位を取得した学生には、サティフィケート(修了証)が授与されます。法政大学ならではの取り組みといえます。
「SDGs科目群」とは、15学部それぞれに、SDGsに関連する科目を挙げてもらい、それを教学企画室が集計して体系化したものです。例えば法学部の科目「消費者法」は、ゴール8「働きがいも経済成長も」とゴール12「つくる責任つかう責任」に該当し、文学部の「宗教学」という科目はゴール16「平和と公正をすべての人に」に該当します。
「2020年度は721科目にものぼり、学生は自分の関心に合わせてSDGsの体系に沿って履修ができます」(荒井さん)
対象者は、2019年度4月以降に入学した学生全員。2年生以上なら他学部の科目も履修可能です。修了証の取得条件は、「SDGsオンライン解説動画(30分)を視聴すること」「SDGs科目群から合計12単位以上修得済みであること」の2点を満たしていることです。
田中さんは「解説動画を見て、SDGsの全体像と、個別科目の特性や環境との関連性を理解していることが大事」だといいます。また、条件ではありませんが、SDGs科目群から取得した科目が合計6ゴール以上に対応していることが望ましいとしています。
申請期間は、春学期(4月まで)、秋学期(10月まで)の年2回ありますが、申請ができるのは在学中に1回だけです。教学企画室が条件を満たしているか確認した上で、学生に修了証が発行される、という流れです。
“1期生”は6名で、田中優子総長(当時)から直接手渡された授与式が、2019年11月に行われました。2020年度秋学期までに累計33名が取得しています。
SDGs_法政大学
SDGs_法政大学
2019年度末に行われたサティフィケート授与式の様子(提供:法政大学)

~地球環境の体系的な理解は今後の社会に必須

荒井さんは「SDGsを体系的に理解しているということは、社会に出る上で必要な能力となるでしょう」と、修了証を取得した学生にとってのメリットを語ります。
さらに、就職活動の際などでアピールできる点も見逃せません。ただ、田中さんが「修了証自体は、単に見える化しているだけです」と指摘するように、大切にしているのは、学生たちの意識・行動の変化です。
「各学生が『自分たちが学んでいることはSDGsにつながっているんだ』ということを理解してもらうことがこのプログラムの目的です。自分が履修している科目が、例えばゴール4とゴール7に関係しているのだと気づけば、同じ学びでも違う意味を持つようになります」と田中さんは、学生の行動変容にも期待します。
荒井さんも「やはり多くの学生たちにこのプログラムを受講してもらいたい」と願う一方で「ただサティフィケートを取得すればいいのではなく、その先に、社会にどうつながっているのか、社会にどう活かせるのかを学生たちに示しながら、事前にこれを取得する意義を理解した上で参加してもらいたい」といいます。
学生からは「SDGs科目群で学んだことは、課題解決というのは一筋縄ではいかないということ。1つのゴールだけの解決を目指すと、どこかに矛盾が生まれる。ただ、17のゴールがあるので多様な方向からアプローチできる重要性に気づかされて、同時に多くの協力が必要であることを学んだ」といった声が上がるなど、手応えも上々です。田中さんと荒井さんは、「SDGs科目群」の存在を、学内外にもっとアピールする必要性を感じています。
「SDGsの社会認知度は、まだ不十分です。そこが上がれば、学生の認知度も上がるでしょう。この科目群は、特にSDGsを意識して新設した科目ではなく、既存の科目を体系化したものなので、学生にとってハードルは高くありません。ですから、どんどん活用してもらいたい。同時に、法政大学の学生はSDGsを学ぶ環境が整っているのだということを、社会にもっと認知してもらうよう私たちもしっかり広報していきたいと思います」(田中さん)

SDGs_法政大学 法政大学
総長室付教学企画室
荒井 俊樹さん

ゼロからつくるのではなく、『今あるものを活用しよう』
ということからプロジェクトが始まった」

~企業や自治体、地域と連携しさらなる拡充へ!

本プロジェクトは、SDGs科目群に代表される「教育」という軸の他に残り3つの軸がありますが、ここでは「社会貢献」と「学生」に的を絞って取り組み例を紹介していきます。
まず「社会貢献」については、学外の人でも参加できるオンライン講座「SDGs入門」の開講が挙げられます。初回に約5千人が受講するほど好評で、毎年開講しています。2020年には協定を結ぶ関西大学と、「持続可能な未来のために私たちができること」をテーマに学生コンテストを開催。25件の応募があり4件が入賞しました。コロナ禍で会場は各大学でしたが、今年は状況が許せば両大学が集まって発表し、意見交換なども計画しています。
また、「SDGsは次世代につないでいくことが大事」という視点から、札幌市、北海道大学、法政大学の3者でSDGsの伝え手を目指す講座を開き、その学びを札幌市の子どもたちに伝授しました。
都内の活動としては、「HOSEI SDGs WEEKs」があります。第一回(2019年)は、市ヶ谷キャンパスを会場に、企業講演やゼミ生のポスターセッションを実施。2020年はオンラインで企業や自治体のSDGsの取り組み事例を紹介しました。
次に「学生」ではどのような取り組みを進めているのでしょうか。2021年4月からは、全学部の学生を対象に「SDGs実践知ゼミナール」を開講しています。少人数で学びながら議論し、行動を模索する全6回のプログラムです。
荒井さんは、現在は自由参加のこのゼミナールを、「修了証を手にした学生向けに、よりレベルの高い内容に発展させたい」と希望を語ります。さらに「一つひとつのプログラムについてはノウハウが蓄積しつつあるので、今後はパートナーを含めて、大きな枠組みをつくっていきたい。本学を軸として、企業と企業、あるいは企業と自治体がつながるようになれば、より新しい効果が生まれるかもしれません」と期待します。
田中さんも「次のアクションにつなげていくにはどうしたらいいかが、今後の課題。修了証取得者同士が交流できるような仕組みも考えていきたいですね」と、さらなる充実を目指します。
ダイナミックに展開していくためのコツを伺うと、荒井さんは「企業や自治体の協力により、多様な視点でSDGsを学ぶことができています」とパートナーシップの大切さを強調します。他方、田中さんは、「これまで企業や自治体とは就職中心の関係でしたが、SDGsを横串にして多彩な連携が増えてきました。またオンラインでの開催は、海外大学との交流機会の増加につながっています」と、学外、国外でも連携が広がってきている様子をよろこびます。
3万人もの学生数を抱える法政大学の取り組みが、今後学内外に浸透していけば、社会に与える影響も少なくないはずです。そして同大の取り組みを参考に、後に続く大学が増えれば、持続可能な社会の実現に近づくことができるでしょう。

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