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「引き算」発想法で仕事・家事にゆとりを

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構成:村上 敬 
イラスト提供:尾石 晴 
編集:プレジデント社

時間もお金の管理と一緒。把握することがはじめの一歩

BILANC25「タイムマネジメント」尾石晴先生 文筆家・ヨガスタジオポスパム代表
尾石  晴氏(おいし・はる)
外資系メーカーに16年勤務し、うち6年は管理職として活躍。ワンオペ育児をこなしながら残業0時間を達成する。2020年4月に会社員を卒業し、ヨガスタジオ「ポスパムfukuokaスタジオ」の代表、音声メディア「voicy」トップパーソナリティとして活躍中。著書に『やめる時間術 24時間を自由に使えないすべての人へ』(実業之日本社)など。

~時間の使い方は「自分の人生」の選び方

このままでは仕事を辞めるか、実家の両親に頼るしかない―。そう追い込まれたのは、出産後に職場復帰して半年経ったころです。
私はいわゆる“バリキャリ”で、出産前は、朝8時から夜10時ごろまで働くのがあたりまえ。勤め先は男女差がなく、自分の裁量で自由に働けました。そうした環境に私自身もとても満足していました。しかし、産休から復帰後は前と同じように働けませんでした。保育園のお迎えに間に合うように、会社を18時に出る必要があります。仕事は片付いていないので、家に持ち帰って子どもの世話をして寝かしつけた後に再開です。
普段はそれでギリギリ回りました。しかし、子どもが体調を崩すとアウト。イライラが溜まって夫とも喧嘩になり、精神的にも余裕がなくなってきました。逆説的ですが、好きな仕事を続けるには、クビも覚悟で思い切って何かを変えるしかない、そう考えて時間の使い方を見直すことにしたのです。
結論をお話しすると、時間を見直したことで生活や働き方は激変しました。仕事は朝8時半から18時まで。ときには17時に終わる日もありました。持ち帰り残業もなし。睡眠時間は、かつての5時間から最低7時間に増えました。それで成果を出せなくなったら困りますが、むしろ会社は評価してくれて、昇進して管理職になりました。
気持ちにもゆとりができました。子どもの成長や夫との関係に意識を向けられるようになり、ストレスが軽減。また、趣味のヨガでインストラクターの資格を取ったり、自分と同じ悩みを持つママたちに向けてブログを書き始めたりもしました。以前は生活を回すこと以外に頭を使う余裕がありませんでしたが、自分の人生を広く捉えて楽しめるようになったのです。

~「やりたくないこと」を分解すれば解決策が

最初は、時間の可視化から取り掛かりました。お金を管理するとき、財布に入っている金額を把握できていなければ話になりませんよね。しかし、時間については多くの人が、「なんとなく」でやっています。私もこれでは時間を管理できないと思って、1週間分、自分の行動と所要時間をメモしました。すると、30分くらいでサクッと書いていたと思っていたメール作成作業に、実は1時間かけていたことなどが見えてきました。
可視化すると、予定の「引き算」ができます。時間術と聞くと、やりたいことややるべきことを予定にねじ込む「足し算」をイメージする人が多いかもしれません。しかし、時間は有限です。足すより先に、優先順位の低いタスクをやめたり効率化したりして、時間に空きをつくらなくてはいけません。そのために、まず自分の使っている時間を可視化することが必須です。
問題は予定の優先順位の決め方です。これにはさまざまな切り口があります。例えば「短期か、長期か」。短期では大事なことに見えても、時間軸を伸ばすと、必ずしもそうとは言えないものがあります。私の場合は、子どもの服を買うことがそうでした。子どもの服選びは一時的なストレス解消に役立っていました。しかし、想像以上に買い物に時間がかかっていたり、枚数が増えて管理の手間がかかっていたりしました。その分、子どもと直接触れ合う時間に使ったほうが有益です。
切り口として「やりたいことか、やりたくないことか」も大切です。もちろん、やりたくないからといってそのままやめてしまうと、生活が回らなくなるおそれがあります。
重要なのは、何をやりたくないのかを細かく分解すること。私は「ごみ捨て」が大嫌いでした。ただ、捨てないと家が汚くなるのでやらないわけにはいきません。そこでごみ捨ての何が嫌なのか細かく分解すると、私は「各部屋からごみを集めてくることが面倒だから嫌い」なのだと気づきました。原因が自覚できれば解決策も見えてきます。集めるのが面倒なら、家のごみ箱を一つにして、家族みんながそこに捨てに来るルールにすればいい。こう変えてから、ごみを集める時間が節約できて、同時にごみ捨てへの抵抗感も消えました。
その他にも「衝動か、行動か」「投資か、消費か、浪費か」など、さまざまな切り口があります。自分が重視する切り口で、何を引き算すべきか考えてみましょう。

BILANC25「タイムマネジメント」尾石先生図表

BILANC25「タイムマネジメント」尾石先生図表

引き算すべきは「やりたくないこと」「やらなくてもいいこと」

~「やったらいいこと」はやらなくてもいい

プライベートは自分の裁量でかなりの部分がコントロールできます。厄介なのは仕事。まずは自分でコントロールできる範囲から引き算を始めることが重要ですが、自分の裁量だけで完結しない仕事はどう考えればいいでしょうか。
私が心がけたのは、プラスアルファの「“やったらいいこと”は全部やめる」ことです。それまでは、仕事は100%のクオリティーに仕上げるべきだと考えていました。例えば資料なら、補足のデータを入れたり、見栄えを整えたりといった完成度を高める作業。この「やったらいいこと」が業務時間を圧迫していたので、勇気を出して、自分にとっての80%で出してみることにしました。
結果は、意外と誰にも何も言われませんでした。今までは求められる以上を出そうとして、余剰な時間を使っていたのかもしれません。もちろん、指摘を受けてやり直すリスクもあります。ただ、相手の求める改善に対応するというほうが、「自分の時間」を得られる確率は高いのです。
自分だけでなく、関係者全員にメリットがある形で提案することも大切です。
私の勤め先では、会議が長引くことが常態化していて、予定を狂わせる一因になっていました。しかし、私がいきなり「会議を短くしてください」と言っても相手にしてもらえません。そこで会議にタイムキーパー役をつくってもらうことから提案。その結果、半年後には私の所属部署は会議が時間通りに終わるようになり、上司の評価も上がりました。
自分の裁量では動かせないことも、関係者が得する形をつくれば動かしやすくなります。そのために、短期的に自分が汗をかくこともあるでしょう。例えばタイムキーパーをつくるときも、提案者である私が雑務や調整を行って、一時的に負担は増えました。しかし、長い目で見ると会議時間が短縮されて、私の仕事時間に余裕ができました。これは時間を「長期」「投資」の視点で考えた結果です。
仕事だから時間は自由にならないと決めつけてはいけません。できるところから工夫すれば、うまく時間を引き算できるはずです。本当に自分に必要な時間を使いましょう。ぜひ挑戦してみてください。

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