在宅ワークを進化させる3つの留意点
構成:江頭紀子
写真:arts & crafts
編集:プレジデント社
生活が変わったのだから「仕事の定義」から見直すべき
アーツアンドクラフツ株式会社 C&S事業部長・コンサルタント 平田 久郎氏(ひらた・ひさお) ペンシルバニア大学社会学部、東京工業大学大学院価値システム専攻修了後、外資系戦略コンサルティングファームでコンサルタントとして従事。その後、アーツアンドクラフツ株式会社の創業メンバーとして立ち上げに参画し、現在は、C&S事業部長として同社の事業開発及び業務運営などプロジェクトマネジメントを一手に担う。 |
~移動時間の消滅で生産性が向上
コロナ禍で生活環境が変わり、在宅ワークなど働き方も多様化しました。移動時間がなくなったため、生産性が飛躍的に向上した―これが、私が実感している在宅ワーク導入による変化です。具体的に説明していきましょう。
私はコンサルティング事業部の管理職として働いています。部下は約30人。これまでは、顧客企業を訪問してコンサルティングを行うほか、社内では顧客分析業務や会議、部下の管理や教育などを行うため、日々出社していました。
在宅ワークとなってからは、顧客とのやりとりや社内会議はオンラインに。往復3時間の通勤時間と、客先に出向く移動時間がなくなった分、社内外の会議を数多くこなせるようになりました。社内業務は通信環境とパソコンがあればできるので、在宅でむしろじっくり取り組めるようになり、部下とのこまめな対話に当てる時間も以前より増えました。
会議は複数を連続して設定するようにしています。多少きつくても、その分、会議と会議の空き時間を一つにまとめることができるので、デスクワークに集中するためのまとまった時間がつくれるからです。このような働き方により、生産性がぐっと上がりました。
業種や職種によっては在宅ワークが馴染まない場合もありますが、適用可能な仕事であれば、時間を有効活用することで、効率は格段に向上すると思います。
ただし、自宅が職場となるため、オンとオフがあいまいになりがちです。私の場合は幸い書斎があるので、書斎に入ったら仕事モードに、出たらプライベートにと、自分で切り替えるよう意識しています。
~管理職が留意すべき3つのこと
以上のように、在宅ワークには 大きなベネフィットがあると実感 していますが、同時に「落とし穴」 もあります。ここからは、管理職と して、留意しておいたほうがいい 在宅ワークの特徴と、うまく活用 するコツをお伝えします。 第一の特徴は、先の例のように 「物理的な距離の制約がなくなる」 ことです。時間ができて、参加で きる会議数が増える分、負担も増 えます。「本当に参加する必要があ る会議か」を見極めて、数を削っ てもいいでしょう。後で録音デー タや議事録で確認すれば十分だ という場合もよくあります。 2つめは「作業風景が見えなく なる」、つまり部下の仕事のプロセ スが見えにくくなることです。その ため評価も成果で判断することに なります。もともと成果主義を導 入していたり、アウトプットが明確 な業務であったりすれば問題あり ませんが、そうでなければ、評価 項目の変更を検討する必要もあるでしょう。そのためには、「仕事 の定義やフロー」から見直さなけ ればならないかもしれません。た だ、そもそも在宅ワークになった 時点で、対面時とは仕事のやり方 は違ってくるわけですから、むし ろ仕事のフローを見直すのは当然 ともいえます。「印鑑のために出社 が必要」といったムダな出社はそ の代表例です。そうならないよう、 管理職が部下の仕事を再定義し、 在宅ワークに合うやり方を考えて 助言してあげましょう。また、在宅 ワークに限らず定型業務の場合で も、どこかにムダが潜んでいる可 能性もあるので、この機にフロー を見直すことをおすすめします。 3つめは「空気感を共有しづら い」ことです。オンライン会議は、 リアルな会議よりも合理的に淡々 と進められるのが利点ですが、感 情が見えにくく、一体感を醸成し づらくなります。また出社していれ ば「顔色がさえない」「いつもとな んとなく違う」など、表情や雰囲気 から察して声をかけることができ ますが、在宅ワークでは、そうした ことを感知しにくくなります。1日 数分でいいので、パソコンの画面 越しであっても、部下とこまめに 1on1で話をするといいでしょう。
タイムマネジメントのコツは一日一日の「ゴールを設定」すること
~部下の自己管理のサポートを
コロナが収束したとしても、オンラインを活用した在宅ワークは続くと思われます。そうした中、個人にも組織にもプラスになる在宅ワークのポイントは「いかにタイムマネジメントをするか」です。本人ができればいいですが、これまで在宅ワークの経験がなく、コロナ禍で突然始めたという場合、管理職のサポートが欠かせません。
一番大切なのは、「1日のゴール(アウトプット)を決める」こと。個人、組織それぞれのゴールを毎日定義し、「17時に提出」など具体的にやるべきことを設計します。ゴールが決まれば、そのための時間配分を考えられますが、最初の設計が間違っていると、その後の時間がムダになってしまいます。慣れないうちは部下と一緒に考え、終業時には今日1日の進捗などを報告してもらいましょう。
在宅ワークは自己管理ができなければ成功しません。それが苦手な人には「ルーティンなど決めご
とをつくる」ことをおすすめします。始業・終業時の報告もその一つですが、「昼食後に毎日20分仮眠をとる」のも一案です。昼間に短時間の睡眠をとることは「パワーナップ」と呼ばれ、先進企業では生産性向上策として導入されています。「毎朝7時に30分散歩する」など、生活面でも自分だけのルールをつくるとリズムができ、メリハリがつきます。
ずっと自宅にこもって、オンラインでのやりとりが続くと、疲労しますし気分も滅入ります。「出社」というルーティンがなくなると、生活も不規則になりがちで、心身の健康にも影響します。それを防ぐには、部下が困っていないか意識して話を聞くようにするといいと思います。メンバー同士、日々の生活の工夫をオンラインで共有するのもいいですね。タイミングを見計らい、リアルで集まれる機会をつくるのも手です。普段はオンラインの当社も、表彰などで定期的に出社する機会をつくっています。コミュニケーションを円滑にするには「楽しさ」が大切だと思うからで、事務所を「イベントの場」としても使っています。在宅ワークは、組織、管理職の差配次第でより有効にすることができます。オフィスの役割も個人の働き方も変化を余儀なくされる中、この状況を「改善の機会」と捉え、パフォーマンスの向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。