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新時代のキャンパス運営は「省エネ」の先の「創エネ」で!

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国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の考え方が浸透しつつあります。そうした中、「自然エネルギー100%大学」で注目されている千葉商科大学の原科幸彦学長にお話をうかがいました。

bilanc24特集記事「千葉商科大学原科幸彦学長」 bilanc24特集記事「千葉商科大学原科幸彦学長対談守田常務」
リモート対談の様子。左から千葉商科大学原科学長、当財団 守田芳秋常務理事。

※2021(令和3)年3月発行BILANC vol.24に掲載
※この対談は2021年1月21日に行われました
構成:野澤正毅 
撮影:石橋素幸 
写真・図版提供:千葉学園 
編集:プレジデント社

~ 学生主体でISOを取得

守田 国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の考え方が浸透しつつあります。そうした中、「自然エネルギー100%大学」を標榜されている貴学は、環境問題への取り組みで日本の教育界をリードし、注目されています。

原科幸彦先生(以下、「原科」) 本学は1928(昭和3)年、巣鴨高等商業学校として設立されました。その際、「公徳心を備えた経済人を養成して“商人道”を正そう」との考えがあり、以来、経済と公共性の両立という理念が脈々と受け継がれてきました。2000(平成12)年には従来の商経学部に加え、公務員等の公的部門で働く人材の育成なども目的とした政策情報学部が開設されました。環境経済学などの講座も設けられ、環境問題に取り組むベースもできたのです。

守田 それで貴学は、環境問題のソリューションに、いち早く取り組んでこられたわけですね。

原科 2003(平成15)年には、学生が中心となって環境管理の国際規格「ISO14001」認証を取得しました。千葉県では初めて、学生主体では全国初だったそうです。2002年には「千葉学園環境方針」も策定して、07年には「10年までにCO2排出量を90年比90%に抑える」という目標を掲げ、目標通り10年に太陽光発電設備をキャンパス内に設置し、これをクリアしました。さらに、2011(平成23)年の東日本大震災と福島原発事故を契機に、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)を活用するようになったんです。

守田 原科先生は、東京工業大学を定年退官された後、2012(平成24)年に貴学教授に就任されたそうですね。貴学では、環境問題に対する取り組みの主役として活躍されているわけですが、そうなった経緯を教えていただけますか。

原科 その前年に起きた東日本大震災と原発事故が一つの転機になりました。私はもともと社会工学を専攻していたので、その経験と、本学が長年取り組んできた環境分野とを組み合わせれば、持続可能なエネルギーシステムが構築でき、社会貢献できるのではないかと考えたのです。新しいエネルギーが開発されても、それを流通させる仕組みがなければ、普及しません。環境問題を解消するには、科学技術とそれを社会に生かす経済的な知見が必要なのです。

守田 貴学教授にご就任後、環境問題に関して、どのような取り組みに力を入れてこられたのでしょうか。

原科 2013(平成25)年には、東京・丸の内のサテライトキャンパスで、環境問題に関心が高い先生方と一緒に、「持続可能な環境エネルギー政策」という公開講座を開催しました。学内だけでなく、ほかの大学や一般市民にも、環境問題への関心を高めてもらいたかったからです。また、本学では2014年、千葉県野田市で大学日本一の規模のメガソーラーを稼動させました。この電気はFITにより東京電力に売電していますが、本学の使用電力の約60%相当を太陽光で発電していることがわかり、政策情報学部長として、「自然エネルギー100%を目指す」と意思表明したのです。ただし、この時は大学組織としての意思決定ではありませんでした。

~ コロナ禍に目標を達成!

守田 なぜ太陽光発電に熱心に取り組まれてきたのでしょうか。

原科 省エネはもちろん大切ですが、「創エネ」と組み合わせれば、持続可能なエネルギーシステムの実現に、弾みがつきます。どこの大学でも取り組みやすい創エネが太陽光発電ですよね。文系の本学がその成功モデルとなれば、教育界での創エネの普及を促せるのではないかと考えたんです。大学が自らの力で自然由来の発電をし、社会に提供していることが重要です。

守田 2017(平成29)年に学長に就任されてから、環境問題への取り組みもいっそう推進されてますよね。

原科 学長プロジェクトとして、公式に大学組織が「自然エネルギー100%を実現する」と学内外に示し、2017年には市川キャンパス内の建物すべてにLED照明を導入しています。2019年1月には大学で初めて、自然由来の発電量と消費電力量を同量にし、同年11月にはすべての電力調達を自然由来のものにしました。なお、2020(令和2)年6月には、自然由来の発電量と消費エネルギーの全量を同じにするという目標も達成しましたが、コロナ禍のもと消費電力も減っているので、コロナ後に改めて確認することとしました(図表①参照)。

図表① 自然エネルギー100%大学達成への道
bilanc24特集記事「千葉商科大学原科幸彦学長」
(提供:千葉商科大学)

守田 電力をすべてクリーンエネルギーにしたということですよね。どのように快挙を達成されたのですか。

原科 千葉県野田市内に所有するメガソーラーに、発電用パネルを約1600枚増設し、キャンパスの太陽光発電設備も増強しました。電力会社から買い入れる電力もクリーン化しました。太陽光発電は、陽が差している時しかできないので、夜間や悪天候のときは、電力会社から電力を購入しなければなりません。そこで、自然由来の電力を選んで買うようにしました。
一方、太陽光発電のうち、自家消費以外の東京電力に売電している分は買い戻せる仕組みがあるので、これを利用しています。その結果、本学の電力を実質的にすべてクリーン化できたのです。
ガスも加えた総エネルギーに対する100%も達成しましたが、これは、コロナ禍による消費エネルギー減という特殊事情があるので目標年次を繰り下げ、2023年の達成を目指しています。

~ 大学は省エネを推進すべき

守田 それにしても貴学のように、本格的な太陽光発電事業を展開している例を、ほかに知りません。事業化に成功したポイントを教えてください。

原科 事業化のモデルケースにしたいので、採算ベースはきちんと考えています。例えば、経済産業省の補助金などを活用し、投資負担を軽減しました。また資金調達のため、太陽光発電事業を行うCUCエネルギーというベンチャー企業を設立。学内から出資を募り、当時の理事長や常務理事らにも株主になってもらいました。同社が本学に発電設備をリースにする形で、大学の単年度の設備投資を抑えています。

守田 大学が環境問題に取り組む意義について、どのようにお考えですか。

原科 第一に、大学自体がモデルを示すべきということ。大学はエネルギー多消費型の機関ですが、でも自前で自然エネルギー100%が可能です。
第二が地域貢献。地域の各主体が自然エネルギーを導入し広げていく支援をする。また、大学に自然由来の発電設備があれば、2019年の房総半島台風のような大災害時に、非常用電源として地域に電力を供給することが可能です。第三が高等教育機関としての人材育成。本学の卒業生には社長が多く、中小企業等において、環境問題への意識が高い経営者を増やすことができます。

~ 成功のカギ「ハートウェア」

守田 環境問題を重視する大学の経営者や教職員は多いのですが、大学の環境保全の取り組みは進んでいません。貴学は、なぜ環境保全の取り組みを進めることができたのでしょうか。

原科 規模がそれほどは大きくないので、経営層の意思決定が速く、組織全体にもすぐに情報が伝わって、合意形成がしやすいといった利点もあるからでしょう。とはいえ、どんな大学でも、環境保全の取り組みを進めるコツはあると考えます。一つは継続すること。それから、専門家の助言を得ること。そして、これが重要なのですが、「ハートウェア」です(図表②参照)。

図表② 自然エネルギー100%大学の全体像
bilanc24特集記事「千葉商科大学原科幸彦学長」
(提供:千葉商科大学)

守田 ハートウェアというのは、どんなことなのでしょうか。。

原科 一言でいえば、行動につながる意識、マインドです。このマインドを 定着させるにも、継続が重要ではないかと考えています。本学でも、私は環境問題について、教職員や学生、取引先の企業といったステークホルダーに粘り強く訴え続けてきました。その結果、環境に対する問題意識が、学内で自然に広がったようです。今では、学生にも浸透しているようで、2018年には環境問題に取り組む学生団体「SONE」も結成され、また、キャンパスの自販機を減らす活動などもありました。ただし、これをトップダウンで進めようとすると、反発を招いて逆効果になってしまう恐れがあります。草の根でジワジワと広げて大学のカルチャーになれば、トップが交代しても環境問題への取り組みは続くでしょう。

守田 環境問題への取り組みは、実は、貴学の経営にもプラスをもたらしているとうかがいました。どのような効果が上がっているのですか。

原科 本学の「ブランディング」に寄与しています。進路指導担当の高校教員2000人を対象にした2019年のアンケート調査では、「改革力が高い大学ランキング」で全国第30位になりました。環境問題に関心の高い志願者が集まるようになり、学生も本学にプライドを持つようになったようです。

守田 大学が今後生き残るには、何が必要でしょうか。

原科 特色を打ち出していくことでしょう。本学では地域貢献の一環として、子どもたちに仕事などを体験してもらう「キッズビジネスタウン」という取り組みを、2003年から実施しています。そのなかには、本学を志望する地域の子どもも出ています。

守田 先生の目標や夢は何ですか。

原科 日本を「自然エネルギー大国」にすることです。東日本大震災などがきっかけで、エネルギーの安全保障についても、国民の関心が高まっています。実は日本は、太陽光や風力、小水力、バイオマス、地熱といった自然エネルギーの宝庫なのですね。自然エネルギーをフル活用すれば、現在の国内消費電力の何倍も輸出できるほどの電力を生み出せるとも試算されています。自然エネルギーは、小規模・分散型がメインなので、千葉県内の本学OBに出資を募ったり、電力を販売したりする地産地消の新電力を地域の大学発で実現してみたいですね。

守田 未来に希望の持てるお話をありがとうございます。原科先生のますますのご活躍と、貴学のご発展をお祈り申し上げます。

bilanc24特集記事「千葉商科大学原科幸彦学長」

お話を伺った方
原科 幸彦 氏:
千葉商科大学学長
東京工業大学教授、ロンドン大学客員教授、スイス連邦工科大学客員教授などを経て、2012年千葉商科大学・大学院教授、2017年3月より現職。国や地方自治体の環境関係の各種組織で委員長・会長などを歴任。現在は「自然エネルギー100%大学」の実現に向け、各種の研究・広報活動を率先して行っている。

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