広報活動

「自然セラピー」がストレス社会を救う

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構成:田之上 信 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

都市環境下で過ごす現代人は必然的にストレス状態

BILANC23「癒やしの処方箋」宮崎先生 千葉大学グランドフェロー
宮崎 良文氏(みやざき・よしふみ)
センター自然セラピー研究室・特任研究員、グランドフェロー。東京農工大学修士課程を修了後、東京医科歯科大学助手(医学博士号を取得)。2019年に千葉大学教授を定年退官。自然セラピー研究が専門で、『Shinrin-Yoku(森林浴):心と体を癒す自然セラピー』『森林浴はなぜ体にいいか』など、森林医学、森林セラピーに関する著書多数。

~人は歴史上最大のストレス状態に

コロナ禍のいま、人は歴史上かつてないほどの強いストレッサーにさらされています。
人類の歴史は約700万年になりますが、その進化の過程において、人は99.99%以上の時間を自然環境下で過ごしてきたため、私たちの生体は自然環境に適したものになっています。そのため、現代のように都市環境下で過ごす生活は、必然的に人をストレス状態にするのです。さらに、コロナ禍のこの1年は人類史のわずか0.00001%にしか相当せず、私たちはまったくといっていいほど、この新しい生活環境に適応できていません。

BILANC23「癒やしの処方箋」宮崎先生

ストレス状態が高まると体の免疫機能が低下し、新型コロナウイルス感染症をはじめさまざまな病気にかかるリスクが高まります。
逆に、ストレス状態をできるだけ抑え、リラックス状態を保つことで免疫機能が改善し、病気になりにくい体になることが、多くの知見からわかっています。
それではストレス状態を抑制しリラックスするためには、いったいどうすればいいのでしょうか。方法はいろいろありますが、その一つが「森林浴」です。多くの人が、森の中を歩いてリラックスした経験があると思います。これは、人の体は「自然を心地良い」と自動的に感じる仕組みになっているからです。
ただ、理由は科学的に解明されていませんでした。そこで私は森林浴について、人の自律神経活動や脳活動、ストレスホルモンなどを使って生理実験を行い、その効果を世界で初めて証明し、2003(平成15)年に「森林セラピー」という言葉を提案しました。

~「森林セラピー」から「自然セラピー」へ

その後、私は「森林セラピー」を発展させ、「自然セラピー」を提唱しています。森林だけではなく、さまざまな自然にも森林浴と同様の効果があることが明らかになったからです。自然セラピーには、公園を歩く「公園セラピー」や、花や観葉植物を観賞する「花セラピー」、住環境に木材家具やフローリングなどを取り入れる「木材セラピー」といったものがあります。
この「自然セラピー」がいま世界的に注目されています。それは、ストレス状態を緩和させる効果とリラックス効果による免疫機能の改善により、病気になりにくい体をつくる「予防医学的効果」が期待されるからです。
現在のストレス状態を少しでも緩和させ、リラックス効果を得るために、「自然セラピー」は有効です。自然セラピーは、「小さな自然」「中程度の自然」「大きな自然」の3種類に分けることができます。森林浴は「大きな自然」に入ります。
理想的なのは、定期的に森の中を歩くことですが、都市に暮らす現代人にとって、それは難しいことです。そこでより現実的なのは、「中程度の自然」です。近所の公園を歩いたり、自宅の庭やマンションのベランダで植物を育てて鑑賞したりすることでもストレス状態は軽減し、リラックスできます。
そして、より手軽に取り入れられるのが、「小さな自然」です。部屋に花を飾ったり、エッセンシャルオイル(精油)の香りをかいだり、自然の音を聴くだけでも十分なリラックス効果が得られます。

BILANC23「癒やしの処方箋」宮崎先生

好きな自然でより大きなリラックス効果

~手軽なのは花などの「小さな自然」

小さな自然の一つである「花」は、リラックス効果が大きいことが科学的にも証明されています。さまざまな年齢、職種の男女114人を対象にした実験では、花瓶のバラ30本を見てもらったところ、バラがない時に比べて、リラックス状態の時に高まる副交感神経活動が15%増加しました。逆に、ストレス状態の時に高まる交感神経活動は16%減少しました。視覚だけでリラックス効果が確認できたのです。観葉植物を見ても、バラほどではないものの、リラックス効果があることがわかっています。
また香りも有効です。バラのエッセンシャルオイルを含有した空気と無臭の空気を比べた場合、バラの香りでリラックス効果が高くなり、ストレスレベルが下がることがわかりました。

BILANC23「癒やしの処方箋」宮崎先生

~大切なのは自分で選ぶ「能動的」な快適性

こうした自然に触れることで得られる心地良さを、私は「能動的快適性」と呼んでいます。これと対になるのが「受動的快適性」です。たとえば、夏の暑さや冬の寒さといった「不快」を除去することで得られる心地良さなどが該当します。受動的快適性を求めるのは人間の基本的な欲求で、個人差はあまりありません。
それに対して「能動的快適性」は、五感を介してプラスαの快適の獲得を目指すもので、何をプラスαの快適と感じるのかは、好き嫌いなどもあり個人差が大きいです。自然セラピーでは、実はこの能動性が大切になります。「花」にはいろいろな種類がありますが、人によって好きな花は異なります。バラが好きな人もいれば、バラよりユリが好きな人もいます。同じ「花」でも、たいして好きでない花を見るよりも、大好きな花を見たほうがリラックス効果は大きいことがデータでわかっています。
香りも同じで、万人が好きな香りはありません。個人差が大きいものです。
自然セラピーでは「自分の好きな自然を自分で見つける」という能動性が重要になります。自分で探し出すことで、はじめて快適性が得られるのです。
ぜひ、生活の中に自然セラピーを取り入れてみてください。「小さな自然」「中程度の自然」「大きな自然」、どれでもかまいません。
能動的に自分の好きな自然を選択しましょう。

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