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「在宅疲れ」解消!賢いオンオフ切替術

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構成:村上 敬 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

仕事も休憩も、オンもオフも、大切なのはリズムを整えること

BILANC23「癒やしの処方箋」小林先生 順天堂大学医学部教授
小林 弘幸氏(こばやし・ひろゆき)
医師、順天堂大学医学部教授、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手やアーティストへのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。専門分野は小児外科学、肝胆道疾患、便秘など。メディア出演や著書、講演活動も多数。

~“病は「気」から”ではなく「体」から

コロナ禍で生活環境が変わり、それによって健康を害する人が増えています。たとえば外出を控えた結果、足腰が弱って高齢者が転倒したり、糖尿病や高脂血症の患者さんが通院を控えて持病を悪化させるケースが目立ちます。体調が整わないと、メンタルにも影響があります。一般に「心技体」といわれますが、医療の観点でいうと、心や技の前に体がある。コロナ鬱で、特に若い女性の自殺が増えているのも、元をたどればコロナで体を動かさなくなったことが大きく影響しています。
メカニズムを説明しましょう。
テレワークで運動量が落ちると、血流が鬱滞します。血流と自律神経は鶏と卵の関係にあって、血流が下がると自律神経が下がり、自律神経が下がると血流が下がるという負のサイクルに入ります。この影響を強く受けるのが腸内環境です。自律神経が落ちると腸の蠕動(ぜんどう)運動が落ちて炎症が起きやすくなり、腸内環境が悪化します。
腸内環境が悪くなると疲れがたまり、さらに「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの生産が阻害されます。セロトニンは脳でも生産されますが、実は脳でつくられる量はごく一部にすぎず、ほとんどが腸でつくられます。これの生産が阻害されるとメンタルヘルスに悪影響を与えます。ちなみにセロトニンの貯蓄期間は約3か月。4月から本格的な自粛生活が始まり、8月以降に自殺者が増えてきたのも、セロトニンが尽きたためと考えれば合理的な説明ができます。
このように、運動不足で血流が落ちれば、肉体にも精神にも悪影響しかねません。コロナへの警戒は必要ですが、同時に運動不足への対策も怠ってはいけないでしょう。

BILANC23「癒やしの処方箋」小林先生

在宅ワークには〝45分+15分〞を取り入れると効率アップ

~仕事を45分したら15分は休憩する

テレワーク中は、血流と自律神経が落ちていく負のサイクルに入りがちです。では、どのように休憩を取れば、このサイクルに陥ることを防げるのでしょうか。
自律神経を整えるのに欠かせないのがリズムです。ですから、毎日決まった時間に起きて、決まった時間に働き始め、決まった時間に食事をしたほうがいい。テレワークは融通が利きますが、逆にリズムが乱れやすいので注意です。
休憩も規則正しく取るべきです。私はイギリスやアイルランドで働きましたが、向こうの人たちは午後4時になると、どんなに忙しくてもティータイムに入る。あの規則正しさは見習いたいところです。もっとも、休憩は短く頻繁に取ったほうがいいでしょう。人が集中し続けられる時間は、せいぜい45分です。一つの作業を45分やったら、15分の休憩を入れて、それを繰り返すとリズムをつくりやすいのではないでしょうか。
15分の過ごし方も重要です。休憩といっても座り続けていると鬱血します。血流を促すために、たとえ短時間でも体を動かしましょう。おすすめはスクワットです。ひざを深く曲げてしゃがむ必要はありません。大腿筋に軽く負荷がかかる程度の“ゆるスクワット”で十分です。1回の休憩で10回やれば、血流は改善されます。しかも、1日単位では50回以上スクワットをやっていることになるのです。
長期的に見てもスクワットは効果的です。人間は足腰が弱ると他にも悪影響で出て、一気に老け込んでいきます。足腰の中でも太ももは、とくに重要です。寝たきりになってもふくらはぎの筋肉は簡単に落ちませんが、太ももはすぐ細くなります。現役時代から太ももをしっかり動かし続けることが、元気な老後につながります。

BILANC23「癒やしの処方箋」小林先生

運動の他には、呼吸に気を配りたいところです。呼吸も自律神経と密接な関係にあり、ストレスがかかって自律神経が落ちると、呼吸が浅くなったり止まったりします。逆に正しい呼吸を意識して行うことで、自律神経を高めることも可能です。
理想は、鼻で3秒吸って、口で6秒吐くというリズム。これをしばらく続ければ、自律神経が高まり、血流も良くなります。
ただ、正しい呼吸を仕事中も意識して続けるのは非現実的です。そこでまずは就寝前に理想のリズムで3分間続けてみましょう。それに慣れてきたら、テレワーク中の15分の休憩中にも取り入れます。そうやって少しずつ実践していくうちに呼吸の意識づけができて、ふとした瞬間にも正しい呼吸ができるようになります。
スクワットや呼吸は数分で終わるので手持ち無沙汰だという人は、休憩中に部屋の片づけをすることをおすすめします。掃除は体を動かしますし、きれいなものを見ると自律神経が良くなります。
ちなみに私はコロナ禍でインスタグラムを始めて、1日1枚、花や街の風景を撮影して眺めることを自分に課すようになりました。これも、きれいなものを見て自律神経を良くするため。世の中の状況に流されず、自分を取り戻す時間をキープするという意味でも続けたい習慣です。

~休日のリフレッシュもリズムを重視する

オンとオフの切り替えという観点では、休日の過ごし方も要注意です。自律神経に良くないのは、なんとなくボーッとして過ごすこと。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、この2つのバランスが重要なことはよく知られています。ただボーッと過ごすと2つのトータルパワーが落ちて、バランス以前の問題になってしまう。一番いいのは、休日も平日と同じリズムで生活することです。休日だからといって寝過ぎずに、普段と同じ時間に起きて、食事もしっかり取ってください。オフなので仕事をする必要はありませんが、いつも仕事している時間に勉強をするなどの工夫をすれば、リズムをキープしやすいと思います。
もちろん精神的にリフレッシュするために、週末に旅行に出かけるのもいいでしょう。ただし、その場合もリズムと計画性が大事です。一日のリズムを意識したうえでオフを楽しんでください。

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