テレワークは「性善説」でうまくいく
コロナ禍によって、突然テレワークを余儀なくされた人が多くいると思います。オフィスに行き、仕事をするのが当然だった今までとはまったく異なる働き方の大変革が、期せずして起こったのです。テレワークを導入しながら成果を出すには、どうしたらいいのでしょうか?新しい働き方に順応するためのコツを探ります。
構成:熨斗秀信
撮影:石橋素幸
編集:プレジデント社
カスタマーズ・ファースト株式会社代表取締役 片桐 あい氏(かたぎり・あい) 日本オラクル株式会社サポート・サービス部門に23年間勤務。2012年に独立。企業研修講師として、年間約120件登壇し、これまで約2万5000名の育成に従事している。おもな著書に『これからのテレワーク─新しい時代の働き方の教科書』(自由国民社)などがある。 |
~テレワークで成果が出ない3つの要因
業界や職種にかかわらず、テレワークで仕事の成果を下げてしまった人は多くいます。その要因として、大きく3つのことが考えられます。
1つは、単に「テレワークに慣れていないだけ」というパターン。新たなオンラインツールを使うようになるなど、業務上不慣れなことが多く、順応が遅れることで成果が上がらなくなってしまうのです。しかしこれは時間が解決してくれる可能性が高く、さほど大きな問題ではありません。
2つ目は「自宅の環境」。テレワークでは自宅が職場になるのですから、家族関係は仕事の成果に大いに関わってきます。テレワーク時のタイムスケジュールが家族に共有されていなかったり、部屋やコンピューターの使用などのローテーションを決めていなかったりすると、家族関係を悪化させます。そうなると、自宅にいることが多いテレワークでは、ストレスが増大し、イライラをため込んで、成果を下げてしまうことにつながります。まずはテレワークに対応できる家庭内のルールを作るべきです。
単身者も「オンオフの切り替えがうまくいかない」という悩みを抱えています。何といっても自宅ですから、つい誘惑に負けてしまうこともあります。ワークライフバランスを保つためにも、服装を仕事モードにするとか、女性ならメイクをするなどのルーティーンを自分で作っていくことが、成果向上への第一歩です。
そして3つ目の要因が、「この仕事はテレワークではできない」という「思い込み」です。どちらかというと管理職が陥りやすい考え方ですが、実はこれがテレワークを阻む要因として、最も根深いものだと思います。
テレワークが一般化したウィズコロナ時代の正解は、まだ誰も獲得していません。ゆえにトライ&エラーが重要になってきます。
~否定派は失敗し、肯定派は成功する
現場対応の必要があるなど、仕事内容によってテレワーク導入の方法が異なるのは当然です。しかし、「今までとやり方が違うから」「機密情報や個人情報の流出が心配だから」などという理由で、なかなか導入しなかったり、せっかく導入しても廃止したりするケースもあるようです(図表①参照)。
こうした思考は、はじめからテレワークに否定的でいると陥りやすいと言えます。特に今回のように、緊急事態宣言を受けてやむを得ず導入したケースではなおさらです。テレワークに対して懐疑的で、準備もままならず、「テレワークという名の自宅待機」(テレ待機)を命じた職場もたくさんありました。
確かに、突然の対応を迫られたビジネス現場の負担は大きかったことでしょう。しかし今こそチャンスととらえるべきです。「テレワークという新たな働き方を手に入れた!」と前向きにとらえられれば、準備も入念になったり、テレワークでの働き方にも改良を重ねたりして、徐々に成果を上げられるようになります(図表②参照)。
こうした「正のスパイラル」を起こすには、経営層や管理職がテレワークを肯定的にとらえることが肝要。「家で働かせてもサボるだけ」という声も聞かれますが、性善説に立ってスタッフを信じることが、テレワークをスムーズに導入し、かつ、それによって成果を上げる近道になるのです。
~プラス思考で「幸せテレワーク」を
コロナ禍を経験した私たちは、こうした予想外の出来事に備える心構えが求められています。今回「テレ待機」を余儀なくされたとしても、考え方を変えれば良い教訓になり得るでしょう。
テレワークにおいて解決すべき課題は、数多くあります。最たるものが、「顔が見えないので情報共有が難しい」というもの。こうした場合におすすめなのが、部署間で定例会を設けることです。できれば毎朝行うのが理想的。管理監督者にとっては、オンラインで部下のヘルスチェックができる貴重な機会となるでしょう。
また、ミーティングではせっかくメンバーが揃うのですから、はじめの数分を「雑談・相談タイム(ざっそうタイム)」としてはいかがでしょうか。仕事と関係のない話をすることで、メンバー間に親しみがわきますし、何より皆が口を開きやすくなり、議論も活発になります。ほかにも、チャットやメールなどのツールをうまく組み合わせることで、仕事の精度をオフィスワーク時と同水準に保てる工夫をしてみましょう(図表③参照)。
部下の進捗が気になる場合は、一定の完成度まで進んだら、管理者が中間レビューすることを制度化しておくべきです。オフィスワークなら、声をかけて進捗を確認できますが、テレワークでは、作業の方向性を誤ったまま突き進んでしまうことも考えられるからです。特に不慣れな若手社員に仕事を任せる場合は、中間レビューは必須。同様に、部下への評価が見えにくくなることがあるので、オンラインで面談をする際には、フィードバックのための「評価シート」を用意して臨むとよいでしょう。
テレワークを導入すれば、社員はもちろん、その家族の生活を大きく変えます。先ほども言いましたが、「仕方なくテレワークになってしまった……」というネガティブな考え方ではなく、ワークライフバランスを取りやすい理想的な働き方ができることをプラスに考えたほうが生産的です。
仕事をしているところが見えないからといって、「サボっているのじゃないか?」と疑うのであれば、「困っていないか自分から連絡してみよう」と切り替えてみてはどうでしょう。ビジネスパーソンに、本当の意味での自立を促すテレワーク。うまく運用できれば、個人はより幸せに、組織はより優れた人間集団になっていくことでしょう。