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午前のスッキリ頭で取り組む3つの仕事

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構成:上島寿子 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

朝はクリエイティブな仕事をするのに最適な時間

BILANC20「朝活」松浦先生 「くらしのきほん」主宰
松浦 弥太郎氏(まつうら・やたろう)
 2005(平成17)年から9年間『暮しの手帖』の編集長を務めた後、2015(平成27)年にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の共同CEOを兼任。暮らしや仕事における楽しさ、豊かさ、学びについての講演や執筆などを行う。中目黒のセレクト書店「COW BOOKS」代表。

~心身が活性化する朝は意思決定に最適

僕は毎朝4時台に起床するのを習慣にしています。起きるとシャワーを浴びてから着替え、仏壇にお線香をあげ、コーヒーか紅茶を飲んだらすぐに家を出ます。オフィスに着くのは6時ぐらい。自家製のグラノーラに豆乳をかけて朝食を取り、新聞に目を通したら7時には仕事を始めています。
こうした生活スタイルになってもう20年以上。早朝から取り組みたい仕事はいろいろあります。
まず一つは、クリエイティブな仕事。朝は脳が活性化されているのでアイデアが浮かびやすく、起きた瞬間からいろいろ頭に浮かんで、朝食を取りながらメモすることもよくあります。朝はクリエイティブな仕事をするのに最適な時間帯なのです。例えば、原稿の執筆なら午後は2時間かかってしまうものが、頭が冴えている朝なら15分で書けてしまう。そのぐらいの違いがある「勝負の時間」なのです。二つめが意思決定の仕事。頭の中でこんがらがっていた事柄が、一晩寝るとシンプルに整理されて自然と答えが見えてくるのです。重要な案件は特に、意識的に朝まで待ってから答えを出すようにしています。
そして三つめが、集中力を求められる仕事です。早朝は電話やメール、社内のチャットも入らないので、コミュニケーションに気を取られずに仕事に打ち込めます。自分の時間を確保できるという点も、僕にとっては大きなメリットなのです。
このように、生産性が高く、仕事を効率よく進められるのが朝の時間。逆に、お昼を過ぎると次第に自分のスペックは落ちていくので、会議や打ち合わせ、人に会うなど、さほど集中力を必要としない業務を入れるようにしています。人が1日に使えるエネルギーには限りがありますから、それに合わせて仕事を配分していくのが僕のスケジュールの組み方。自分の体力を考慮しながら行動を考えるところは、スポーツに通じるものがあります(図表①参照)。

BILANC20「朝活」松浦先生図表

~「時間を追い越す」ことで心にゆとりを

もちろん、時間にゆとりが生まれるのも早起きの効果でしょう。僕はもともと時間に追われるのが苦手。「時間を追い越す」ぐらいの感覚で行動するのがちょうどいいのです。時間に余裕があれば心にも余裕が生まれて、物事に自発的に取り組むことができるからです。
そもそも仕事というものは、納期などの約束事だらけです。その約束は、相手に決められるより自分で決めたほうが積極的に取り組めるのではないでしょうか。例えば、書類の作成をする場合、「明日の16時までにお願いね」と相手に決められるとやらされている感がつきまとい、作業しても楽しくありません。一方、「明日の16時に提出します」と自分から“ 約束”して実行できれば達成感と自信が生まれ、自分のキャリアにもなります。やらされる“指示待ち”になるのでなく自分から進んでやる。そのためにも、時間と心にゆとりを持たせることが大切なのです。
僕の場合、朝起きてからの生活パターンは旅行の時以外、まったく変わりません。休日でも同じように5時前に起きて、午前中はオフィスで仕事をします。普段と違うのは、帰宅時間が早くなることぐらい。規則正しい生活をしていると、体調や気分などコンディションの変化にも繊細になれます。いつもと違うと気づけることで深刻になる前に対処でき、健康管理に役立つのです。

自分で決めて実行することで、達成感とキャリアアップになる

~朝型の生活パターンで日々の暮らしが充実

さらにもう一つ、朝型のメリットには、夜の時間を有効に使えることもあります。実を言うと、僕が朝型の生活スタイルになったのは、家族と一緒に夕食を取りたいため。今日あった出来事などを話しながらゆったりと食卓を囲むのが、僕にとって一番リラックスできる幸せなひとときなのです。娘が一人暮らしを始めて妻と2人の生活になった今も、この時間はとても大切なのです。
夕食は19時と決めています。その時間に席に着くには、遅くとも18時にはオフィスを出なければなりません。それまでに仕事を終わらせるには……と逆算していった結果、早起きが自然と習慣化したのです。
『暮しの手帖』の編集長時代も、この生活パターンは譲りませんでした。編集の仕事は夜型の生活になりがちですが、僕は一度も残業をしたことがないのです。編集部員も同様です。残業がなくなれば、仕事の後に映画を観たり、展覧会に行ったり、本屋さんに寄ったり、レストランで食事をしたりと、日々の暮らしに感動する機会を増やすことができます。そうやって毎日を満たされた気持ちで生活している人こそ、良質なメディアをつくれます。夜中まで仕事をして家へは寝に帰るだけ。そんな不健康で、生活に余裕のない人が素敵な暮らしをテーマにした本をつくるのは、読者に不誠実だと思ったのです(図表②参照)。

BILANC20「朝活」松浦先生図表

編集部員たちはおそらく最初は戸惑ったでしょう。でも、どんな仕事の先にも“人”がいると考えます。仕事に誠実であるために他人を不快にさせない当たり前の身だしなみであったり、1日を大事にするためにコンディションを整えて午前をしっかりと働くことであったり、そんなカルチャーが会社に浸透して、結果として発行部数を伸ばすことにつながりました。
もちろん、編集者でなくても、仕事以外のなにかに興味を持ち、探究する時間を持つことは大切です。人生が豊かになるばかりか、人の輪を広げることもできます。実際、なにかに詳しい人は話しても楽しく、周りから声がかかる機会は確実に増えます。世の中に求められれば、成功の道が開けることもあるのです。
いつもより1時間早く起きて行動し、朝の時間をうまく活用する。それだけで、仕事だけに留まらず、1日の暮らし全体がより一層、充実するように思います。

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