広報活動

変革の時代に探る「労働」の意義

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今年の4月から、時間外労働の上限規制や5日間の有給休暇取得の義務化など、働き方改革関連法案の一部が施行されました。これは過度な残業時間などにメスを入れ、過剰なストレスがかかる労働環境や、不当な格差を改善することを目的としています。改革を機に大きな変化が訪れている今、改めて「働く」について考えていきます。

構成:八色祐次 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

BILANC20村山先生 キャリア・ポートレートコンサルティン グ代表。
村山 昇氏(むらやま・のぼる)
組織・人事コンサルタント。概念工作家。企業の従業員・公務員を対象に、教育プログラムを開発・実施している。哲学の要素を盛り込んだ内省ワークや直観的に本質をつかむ図表現、レゴブロックを用いたキャリアのシミュレーションゲームなど、独自の手法により企業内研修の分野で幅広く支持を受けている。

~国が環境を変えている今が自分を変えるチャンス

現状、働き方改革は外圧という点では労働環境の揺さぶりに成功しましたが、対症療法的なところに留まっており、生き生きと働ける社会づくりにはまだ課題が多いという意見があります。私もこの改革をさらに進めるには、働く人を取り巻く環境を変えるだけでなく、個々人の「仕事観」まで議論が深まらないと根本的な解決には至らないと思っています。
ただ、働くことがどのような意味を持っているのかを改めて考え、自分を変えていくには、絶好の機会だとも思っています。
「働く環境や組織」と「自分(個人)」は互いに影響し合っていて、変化を起こすにはどちらかが起点となる必要があります(図表①参照)。たとえば、仕事が面白くないと感じている人の場合、上司が別の部署へ異動したり、自分が異動したりすれば仕事が面白くなるかもしれません。これは環境・組織起点で自分に変化が起こるケースです。
一方、自分起点で環境や組織を変えていく人もいます。自分から組織に働きかけていくことで関係性を変えていけると思い、行動する人です。このような人は「自分が変われば、組織・環境は変わる」と考えるため、能動的・主体的に環境を変えていこうとする力を持っています。ですが、日本人は受動的で「環境・組織が変わらなければ、自分は変われない」と考える人が相対的に多いため、残業が多く過剰労働気味になっている状況が長らく続いたのではないでしょうか。
ですから、働き方改革を国が主導し、労働環境を強制的に変えていこうとする今がチャンスです。しかし、働き方の「型」が変わるだけになってしまう場合もあるので、ゆっくりとでも「この契機を逃さず、自分の内面に目を向け、変えていこう」という雰囲気を醸成できれば、自分と仕事の関係性をより良いものへと変化させていくことができるはずです。

図表① 「自分(個人)」と「組織・環境」2つの起点による循環図
BILANC20村山先生図表

~何がやりたいかではなくどうありたいかが重要

社会人は、1日のおよそ3分の1を仕事に充てています。これだけの時間を費やすのですから、できることなら仕事を楽しみたいという人は少なくないはずです。では、どうすれば仕事を楽しめるようになるのでしょうか?
多くの人は「やりたい仕事をする」とか、「出世する」「今よりも給料の高い会社へいく」といった外的要因を挙げることと思います。
しかし、心理学的に外的欲求を満たすことで得られる満足感は、一時的なものでしかなく、欲求が暴走するだけであることがわかっています。「何がやりたいか」という欲求を軸に仕事を考える限り、長期的に仕事から充足感を得るのは難しいといわざるを得ません。
大切なのは、「どうありたいか」という発想です。英語で言うと、「want」ではなく「well-being」ですね。夢や志、働く意味といった「望むべきこと」「ありたい姿」を、仕事をしていく中で学び、それを実現する手段として一層仕事に夢中になっていく―そんな好循環を生み出せれば、仕事はより面白いものになり、そこから得られる充足感も大きなものになるはずです。
反対にもともと仕事が楽しい人にも「どうありたいか」は重要です。能動的な仕事観の人は優秀な半面、一律に残業をなくし、仕事を減らすと物足りなくて転職してしまうことがあります。そこで「自分がどうありたいか」を考えさせるのです。そもそも働き方改革関連法案は残業時間に上限を設けたものであって、残業をなくそうというものではありません。
また、どうありたいかという発想で仕事をとらえている人は、仕事とプライベートが融合している「ワーク・ライフ・ブレンド」タイプが多いように思います。かつて話題になった「ワーク・ライフ・バランス」は、仕事とプライベートを分けて考えるものです。しかしワーク・ライフ・ブレンドタイプは、プライベートの中から仕事のヒントを見出したり、その逆もあったりと、仕事と日常生活の間で相乗効果を生み出している人たちです。
誤解してほしくないのは、私はワーク・ライフ・バランスを否定しているわけではないということです。仕事と生活それぞれでしっかりとした軸を持ってさえいれば、充実した人生を送ることができるからです。注意しなければならないのは、仕事を生活の糧を得る手段としかとらえていないのに、肝心の生活のほうもどんよりとしていて働くことのストレスばかりが肥大している状態や、仕事と生活がごちゃごちゃになってしまっている状態です。このような人こそ、自分を変えていく必要があると考えます(図表②参照)。

図表② 働き方早見表
BILANC20村山先生図表

~「観」を変えれば仕事は楽しくなる

内面を変えると言われても何をどうすればいいのか戸惑ってしまうかもしれません。要は、「ものの見方・とらえ方=観」を変えればいいのです。
同じような仕事環境にいても、楽しめる人とそうでない人がいます。例えば、目標を設定されたとき、やる気をなくす人もいれば、やる気を奮い立たせる人がいるように。このような違いを生んでいるのが「観」です。やる気をなくしてしまう人は、高い目標を「そんなの無理だ」と否定的にとらえている一方、後者は「認めてもらうチャンスだ」と前向きにとらえモチベーションが上がるのです。
否定的な、心に余裕がない状態のときに変化を起こす方法は、いくつかありますが、読書がオススメです。人生の転機に読書をあげる人は少なくありませんが私自身もその一人です。出版社で週刊誌の編集をしていたとき、苦心してつくった記事が毎週のように消費されていくことに、強い虚しさを感じていました。そんなとき、中国の古いことわざに出合ったのです。「1年の繁栄を願わば穀物を育てよ、10年の繁栄を願わば樹を育てよ、100年の繁栄を願わば人を育てよ」。この言葉が胸に刺さった私は、直感的に人材育成を生業とし、次のステップへ進むことに決めました。
読書が苦手だという人は、スポーツ選手や敏腕経営者のコメントなどでも構いません。何か感化される言葉と出合うことで、夢や志、働く意味を見出せるかもしれませんよ。
職場にばかりいては視野が狭くなってしまいがちなため、異業種交流会やボランティアなどに参加することも大事です。今いる環境とは異なる世界や人に触れることで内面に刺激を与えるきっかけになります。
また、若い人の中には、外的欲求も内的欲求もないため、どこへベクトルを向ければいいのかわからないという人もいます。そんなときは、職場外でもいいので「こんなふうになりたい」と感じるロールモデルを探してみてはいかがでしょうか。その人を目指しているうちに、自分がどうありたいのか、そのヒントが見つかるかもしれません。自分に軸・ベクトルができると、呼び寄せの法則と言って、情報や人が集まってくるのです。

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