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AIに勝つ人、負ける人の分岐点

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昨今、「○年以内にAI(人工知能)に置き換わる職業リスト」のたぐいがメディアを賑わせている。今年5月にはAIの「アルファ碁」が世界チャンピオンに勝利し、もはや人間は勝てないとされている。この先AIにより人はどの程度職場を失うのか。どんな働き方をすればAI時代を生き延びられるのだろうか。

構成:田ノ上信 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

「マニュアル族」「指示待ち族」はやがてお払い箱

BILANC13梶谷先生 ニュービジネスコンサルタント㈱代表取締役社長
梶谷 通稔氏(かじたに・みちとし)
東北芸術工科大学客員教授。早稲田大学卒業後、日本IBM入社。1993(平成5)年、米IBMビジネス・エグゼクティブに就任。「クローズアップ現代」などTV取材・出演多数。著書に『企業進化論』『続・企業進化論』(日刊工業新聞)、『成功者の地頭力パズル』(日経BP社)など多数。

~「眼」の獲得で人類に肩を並べたAI

いま世界的に注目されているAI。しかし、多くの方がこの言葉をIT(情報技術)と混同されています。しばしばAIの説明としてなされる「コンピュータにさまざまなプログラミングを施し、人間と同等の働きを持たせるもの」は、実はITのことです。
では、真のAIとはどんなものか。それは、プログラミングされなくても自ら学ぶ「ディープラーニング」(深層学習)をするコンピュータのことです。
AI史上最大の出来事は「眼」を獲得したことです。それまでのAIは、高度な数学や論理的思考、科学分野などを得意としていましたが、3歳児でさえできる簡単なこと、たとえば顔やモノの認識はできませんでした。それがディープラーニングによって眼をもち、自ら体験・学習し、顔やモノの認識が可能になった。ほかにも細かい手作業、空間の認識や移動も可能になりました。
その代表格が、米グーグル傘下の英ディープマインド社が開発した「アルファ碁」です。今年5月、世界トップの中国人棋士、柯潔九段を3戦全勝で倒し、世界中を驚かせました。アルファ碁にはルールを一切教えず、15万局分の棋譜の画像読み取りと、約4500万局分のアルファ碁同士による対局によって自ら好手を学ばせたのです。

~世界から秀才が結集する"AI大学"

以下、これからの高度なIT技術も含めた意味でAIという言葉を使いますが、その普及により今後多くの職場が失われると懸念されています(表参照)。金融業界での象徴的な例が、米投資銀行のゴールドマン・サックス。同社のニューヨーク本社には2000年に600人いたトレーダーが、2017年現在は2人だけに。AIが過去の膨大なデータをもとに投資先を決めているのです。日本でも三井住友銀行が、AIによる作業の効率化を図ることで、今後3年で4000人の配置換えをするとしています。

表 AIやロボットによる代替可能性が高い職業、低い職業
BILANC13梶谷先生表

大学も例外ではありません。効果と効率化を狙って、米国のサンフランシスコに2014年創立されたミネルバ大学は、すべての授業をオンラインで行う、キャンパスのない大学です。授業はグループワークが中心。オンライン上に集った学生が意見交換しながら、自ら設定した課題を解決していくのです。議論の進行とともに、「現在どの意見が優勢か」「誰が何%発言しているか」などが細かく記録され、進行役の教師から最適なフィードバックがなされます。このほか課外授業や世界7都市での4カ月の滞在授業で実社会を学ぶのです。
注目すべきは、まだ卒業生もいないこの大学に、米ハーバード大や英ケンブリッジ大に合格した優秀な学生が、それらを蹴って入学していることです。実社会に則した課題に取り組むことができ、かつ個人指導的な授業スタイルが優秀な学生の魅力となっているのでしょう。こうした大学が増えたらどうなるか。学術研究を除けば、教室で同じ講義を繰り返すだけの、いわゆるマニュアル族的な大学教員は必要なくなり、大学自体も淘汰されることになります。

~問題発見・解決力は人間だけの特性

AIの普及で今後、「マニュアル族」や「指示待ち族」は要らなくなります。激変する社会で求められるのは、自ら考え、問題を発見し、解決する力をもった「地頭力」のある人材です。逆に言うと、ここにこそ人が生き残る道があります。というのも、AIは問題の発見・解決を苦手としているからです。人間が問題を示せば、最適解を導き出しますが、AIは何が問題かわからない。目標設定もできません。遠い将来、それができるAIが登場するかどうか。当面は無理でしょう。
では、人がAIを凌駕できる要素「問題発見・解決力」を磨くにはどうしたらよいのか。それには何事もよ~く考えること。特に、危機に直面した時に考え抜くことです。これを後押しするかたちで大きな力になるのが、机上論ならぬ先人たちの言動です。
私はかつて松下幸之助、本田宗一郎、カーネギー、稲盛和夫氏ら、内外の第一人者数百人をコンピュータ分析し、『企業進化論』という本を出しました。彼らはみな多くの苦難を乗り越えていました。そして彼らにとって、危機感がエネルギーの源泉の一つだとわかりました。人間の感度は窮地に追い込まれた時にこそ最高レベルに上がる。だから困難な時はチャンスで、とことんよ~く考え抜くことにより、新たな気づきと解決力を発揮できたと述懐しています。こうした時にこそ、AIには出せない革新的なアイデアや技術が生まれるのです。
さらに彼らはみな「根明(ネアカ)」です。苦しい時にこそ、明るい気持ちを維持するよう努めていました。暗く思い悩むのではなく、チャンスだと前向きにとらえる。ビル・ゲイツ氏や孫正義氏も、自らを楽観主義だと述べています。また、「やる気」は「才能」より勝るとも言っており、ハングリー精神が重要です。うまくいっている時も、常に新しいことに挑戦する気概。現状に満足していては、革新的なものは生まれません。

~人と触れ合う仕事は最後まで生き残る

かつてコンピュータが登場した時にも、多くの仕事がなくなるといわれました。実際、コンピュータに置き換えられた仕事もありますが、一方でIT関連の仕事が多く誕生しました。AIも同じように、多くの仕事が消える半面、新しい仕事が生み出されます。
そんな中で人に接する仕事は、AIが普及しても優位に立てるでしょう。人は、人にぬくもりを感じるからです。具体的には、鉄道関係であれば運転士よりも車掌、医療現場なら医師よりも看護師のほうが、AIに取って代わられにくいと思います。教育では、保育士や幼稚園教諭、小学校教諭は、最後まで残るでしょう。成長期の子供には、コンピュータよりもハートを持った人間のほうがふさわしいからです。
では今後のAI時代に、個人としてどう立ち向かえばいいのか。それには問題をよ~く考え、果敢にチャレンジして自分を変えていくことです。企業の興亡にもヒントがあります。シャープやソフトバンクに見る大型買収劇は、いずれも「考える部門」といえる研究開発を狙ったものです。またデジタルカメラの登場に、何も手を打たなかったコダックが倒産しました。富士フイルムでも死活問題となりましたが、フィルム製造で培った化学技術を生かして付加価値をつけ、医薬品や化粧品分野に進出、今では事業が一層発展しています。人も、自分が得意とすることを軸にして、そこから派生する分野を伸ばし付加価値をつけることです。そうすればAIが台頭する中でも、社会が求める人材でいられるでしょう。

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