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M字カーブ解消の後押し!人生100年時代の新リカレント教育

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スキルアップやキャリアアップ、学び直しをすることができるリカレント教育。
2018(平成30)年3月の政府の「人生100年時代構想会議」でリカレント教育の財源拡充が明言され、日本でも注目が集まっていますが、なかでも再就職などの「出口」に着目してリカレント教育を行っている日本女子大学の取り組みについてに、お話を伺いました。

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左から、日本女子大学生涯学習センター所長 坂本清恵氏、同リカレント教育課程主任 松梨久仁子氏、当財団 副主幹 荻原悦子


※2019年3月発行BILANC vol.18に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:加々美義人 
編集:プレジデント社

~ 「リカレント元年」を迎えて

荻原 日本政府の「働き方改革」の一環として、女性の活用が進められています。これに伴って、社会人の再教育(リカレント教育)に注目が集まっています。就業経験はあるものの、出産・育児や介護のために離職せざるを得なかった女性が、リカレント教育によって「新たな働き手になってくれるのではないか」と期待されているわけです。とりわけ、2018(平成30)年3月に政府の「人生100年時代構想会議」で、安倍首相が「リカレント教育の財源拡充」を明言した影響は大きく、2018年は「リカレント元年」とも呼ばれました。
そこで、内閣府の「平成29年度女性のチャレンジ支援賞」を受賞するなど、女性のリカレント教育で定評のある貴学に、その現状や課題について教えていただけないでしょうか。

坂本清恵先生(以下、「坂本」) ありがとうございます。初めにお断りさせていただくと、本学としては、女性のリカレント教育に長年取り組んでまいりましたので、やや僭越な言い方をすれば、そうした取り組みに「ようやく光が当たるようになったのかな」と受け止めております。

荻原 そうですね、貴学は、日本でのリカレント教育の先駆けとしても知られています。その背景を教えていただけないでしょうか。

坂本 そもそも本学の創立者である成瀬仁蔵先生は、「良妻賢母」ではなく、「職業婦人」の育成を建学の理念として掲げてきました。「女性も職能を身につけ、社会で活躍するべきだ」と考えていたわけです。そのため本学では、いわゆる教養だけでなく、実学の修得にも重きを置いてきました。
また、多くの女性に教育の機会を与えるため、通信教育部を日本の高等教育機関として3番目に設け、70年以上の歴史も重ねてきました。
さらに本学同窓会である「桜楓会」と連携し、生涯教育も手がけてきました。そうした伝統がベースにあったので、リカレント教育もいち早く取り入れたわけです。

荻原 貴学がリカレント教育課程を開設されたのは2007(平成19)年、日本で初めての試みだったとうかがっております。直接的なきっかけは何だったのでしょうか。

坂本 文部科学省がリカレント教育プロジェクトである「社会人の学び直しニーズ対応教育事業」をスタートし、本学がその事業委託先として選ばれたのです。長年の生涯教育の実績が認められたからだと考えております。

荻原 現在では、貴学以外の大学でもリカレント教育を実施しているわけですが、貴学のリカレント教育の特徴について教えていただこうと思います。まず一つ目が、企業や団体のスタッフとして即戦力となる人材の養成とうかがっておりますが、なぜそのような教育方針を打ち出されたのでしょうか。

坂本 医療者や技術者といった専門職養成のための教育は、それが「リカレント教育である」という認識だったのかは別にして、伝統的に行われていました。しかし一般のビジネスパーソン向けのリカレント教育は、ほとんど広まっていなかったのです。ところが女性の場合、企業や団体に就職しても、結婚や出産、夫の転勤などを機に退職し、仕事上で長期間のブランクができてしまう人が多いんですね。そうすると、年齢が高い上にスキルも足りないということで、再就職が難しくなってしまうのです。そのため、「リカレントで職能をブラッシュアップしたい」というニーズが、女性にはとても高いことがわかりました。
また、「高学歴の女性がパート労働しかできないのは国力の損失」という問題意識も、政府内や教育界で高まってきました。そこで、ビジネスパーソンの養成に特化したカリキュラムにしたんですね。
 

~ カリキュラムの3本柱

荻原 貴学のリカレント教育課程は4月入学で、1年間の通学(2017(平成29)年度平均履修時間約350時間)を課す全日制です。夜間制のリカレント教育も多いなか、なぜそのようなカリキュラムにされたのでしょうか。

坂本 リカレントの受講生には、できるだけ早く復職を果たすため、短期集中で学んでもらいたいというのが一点です。全日制のほうが学びに専念でき、スキルアップが図りやすいという利点があります。 もう一点は、仕事と家庭を両立させるための、いわば“予行演習”をしてもらうのが狙いです。本学のリカレントの受講生には主婦も多く、学業と家事・育児を両立させなければなりません。それをこなした経験が、復職したときに昼間は仕事、朝と夜は家庭の両立を続ける自信につながります。
また、受講生のご主人、お子さんにとっても、「妻や母が仕事を始めたら、家庭環境がどのように変化するのか」を擬似体験ができ、復職を応援してもらいやすくなるメリットもあります。

荻原 なるほど、よくわかりました。
次に、ビジネスパーソンを養成するリカレント教育とは、具体的にはどのようなカリキュラムなのですか。

松梨久仁子先生(以下、「松梨」) 必修科目には3つの柱があります。
一つ目は「キャリアマネジメント」です。これはスキルというよりも、職業人としての心構えを身につけるもの。なぜなら、長らく家庭に入っていると、ビジネス感覚が失われてしまうからです。ビジネスパーソンとしての自覚を取り戻し、「自分にいまどんな市場価値があるのか」「どうやってキャリアアップすればいいのか」といったことを理解するのが、仕事に復帰する上で欠かせません。
それから、「就職氷河期世代」だった受講生は、非正規雇用の経験しかないケースも多いため、正社員・正職員としてのキャリアプランを構築できるように教育する必要もあります。キャリアカウンセラーなど専門家の指導を受けるほか、学生同士のディスカッションなども行い、自らのキャリアプランについてお互いに気づきを得る場も設けています。

荻原 すごく実践的ですね。私も興味が湧いてきました。

松梨 二つ目は英語です。ビジネスシーンがグローバル化している現在、ぜひ身につけてもらいたいスキルだからです。とりわけ、職場ですぐに使えるビジネス英語を習得します。
そして、三つ目がIT。今やビジネスパーソンにとって、ITは必修のスキルといえるでしょう。ITは日進月歩なので、家庭に入る前に職場で覚えたパソコンなどのスキルは、残念ながら役に立たないんですね。ビジネスの現場でいま使われているITについていけるように、学び直す必要があるのです。

荻原 そのほかに、力を入れておられることはありますか?

松梨 「日本語コミュニケーション論」を必修にしています。仕事のスキルやノウハウも重要ですが、ビジネスパーソンにとっては「それ以上にコミュニケーション能力が命なのよ」と、私は声を大にして受講生に口うるさく言っています。ビジネスマナー、ビジネスメールの書き方なども学びます。

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リカレント教育の授業風景。「記録管理概論(記録情報管理士準備講座3級対策)」クラス
(提供:日本女子大学)

~ 多彩な専門職講座

荻原 ビジネスパーソンの養成講座と謳っている意味がよくわかりました。必修科目以外にも、キャリアアップに役立つさまざまな講座が揃っているそうですね。

松梨 専門職向けの講座も開いています。これは、学びの過程で自分の適性がわかったり、新しい希望職種に巡り合ったりして、ビジネスパーソン以外の専門職を目指す受講生も出てくるからです。
具体的な専門職としては、社会保険労務士、消費生活アドバイザーなどが人気ですね。ただし、あくまでも専門職になるための準備講座なので、資格を本格的に取得したい場合は、修了後の学びも必要になります。そのほか、時間を効率的に使うための「タイムマネジメント講座」なども開講しました。

荻原 リカレント教育課程では、どんな受講生さんが学ばれているのですか。

坂本 2017年度については定員40人のところ89人が応募し、55人が入学しました。入学試験では、適性を見るためにITと英語のテスト、面接を行いました。受講生のうち約70%が既婚者で、お子さんがいる人も多くいらっしゃいます。また、約30%が主婦ですが、約40%が非正規雇用で働いていたということで、「正社員として就職したい」という受講生も目立ちます。
年齢では40代が6割近くを占めますが、50代の方もいます。それから、開講時は全員が本学卒業生でしたが、累計では75%以上が他大学の卒業生です。受講生は基本的に女性だけですが、公開講座などの聴講生のなかには男性もいます。
荻原 入試の倍率が2倍とは、すごい人気ですね。キャリアアップのための実践的なプログラムが豊富だからでしょうか。

坂本 それもあると思います。また、学部学生並みの授業を3分の1の費用で学べることも人気の理由でしょう。2016年から文部科学省の「職業実践力育成プログラム」の認定、厚生労働省の「専門実践教育訓練講座」の指定を受けるなど、公的な財政支援も追い風になっていますね。
 

~ 手厚い再就職支援

荻原 それから、手厚い再就職支援も大きいのではないでしょうか。貴学のもう一つの特徴とうかがっておりますが、再就職支援についても詳しくご紹介ください。

坂本 リカレント教育では再就職という出口戦略を重視しています。受講生を送り出しても仕事に就けなければ、「ビジネスパーソンの養成」という目的が果たせないからです。そこで、本学では、東京商工会議所と再就職支援協定を結ぶなど、企業や団体、官庁とも連携して再就職先を支援したり、インターンシップや合同企業説明会を通じて受講生が即戦力となることを理解してもらったりしています。
例えば、2017年度に「合同企業説明会」を開催したところ、37社が参加してくれました。リカレントの受講生の採用実績がある企業・団体からは、修了生が即戦力として活躍しているので、「もっと採用を増やしたい」という声も増えていますね。それから、修了時だけでなく、その後も再就職支援を続けます。修了生の転職や独立・起業といったキャリアアップのサポートも行っています。

荻原 修了生の再就職の実績はどうなっていますか。

坂本 現在では約300件の求人があり、就職希望者のほぼ100%が就職できています。そのうち、フルタイム勤務が約70%、正社員・正職員が半数近くとなっています。

荻原 修了生が女性で、しかも、中高年が多いことを考えると、見事な実績ですね。リカレント教育では今後、どのような目標や抱負をお持ちでしょうか。
坂本 女性がリカレント教育を受けられる機会を、なるべく増やしたいと考えています。今後は「仕事を続けながら再教育も受けたい」という女性が増えると予想されるからです。そこで、土日中心の受講コースを新たに設けたり、他大学のリカレント教育課程と連携したり、インターネットを活用した「eラーニング講座」で地方の方も受講しやすくしたりする取り組みを検討しています。
荻原 すばらしいお考えです。女性の学びの機会が拡大し、女性が社会でより輝けるようになることを、私自身も女性の一人として願っております。本日はたくさんの有意義なお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました。

bilanc18特集記事日本女子大学坂本先生、松梨先生 お話を伺った方
坂本 清恵 氏(左):
日本女子大学 生涯学習センター所長、文学部教授
松梨 久仁子 氏:
日本女子大学 生涯学習センター リカレント教育課程主任、家政学部准教授
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