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幸せな人は知っている最善主義という処方箋

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撮影:加々美義人 
編集:プレジデント社

理想を掲げるだけでなく、現実も受け入れられる最善主義者

BILANC18「価値観」成瀬先生 セミナー講師・翻訳家・コーチ
成瀬 まゆみ氏(なるせ・まゆみ)
2011(平成23)年、ポジティブ心理学に関する『ハーバードの人生を変える授業』(原著タル・ベン・シャハー)の翻訳を企画し、大和書房より出版、ベストセラーとなる。以来、ポジティブ心理学をテーマとした講演・セミナー・研修を多数行う。監訳書・訳書に『ポジティブ心理学が一冊でわかる本』(国書刊行会)、『ザ・ミッション』(ダイヤモンド社)などがある。

~職場で価値観の違いを感じたら

「あの人とは価値観が合わないんだよな」などと、職場でため息をつくことは誰にでもあると思います。しかし、その場合の「価値観」とはいったい何なのでしょうか?価値観とは本来、「自分が人生のなかで大切にしている優先順位」のことです。職場で話題にあがる「価値観」というと、「仕事に対する考え方や取り組み方」ということになるでしょう。
「仕事では完璧なまでに質のよさを追求したい」「職場での和を何よりも大切にしたい」「仕事にはそんな大きな意味をもたせずに、プライベートの時間を大切にしたい」など、仕事に対する取り組み方を聞けば、いろいろな答えがあがってくると思います。
確かに、仕事の質を追求する人と、とにかく職場で波風を立てたくないという人が一緒に仕事をすれば、「価値観が合わないな……」と、お互いが嘆くのも当たり前のように思えてきます。
人は、とにかく自分のことを理解してほしい生き物です。そして、自分が大切に思っていることを、大切にしてほしい生き物です。それは、あなたがそう思っているのと同じぐらい、他の人もそう思っているということです。そんな人たちが集まっている職場で、みんなが幸せに生産的に仕事をしていくにはどうしたらいいのでしょうか?
そのためには、まず、仕事における自分の価値観を知ることです。自分は、仕事において何を大切にしていきたいと思っているのかを明確にしていくことが必要ですし、それを周りの人に伝えることが大事です。
そして、これと同じぐらい大事なのは、周りの人が大切にしたいと思っていることを理解することです。自分や相手を知ることなしに、真の相互理解は生まれません。この相互理解に関して、知っておいていただきたい言葉があります。それは、「完璧主義」と「最善主義」です。ハーバード大学で人気ナンバーワンとなったポジティブ心理学の授業をおこなったタル・ベン・シャハー(『ハーバードの人生を変える授業』の原作者)が提唱した概念です。

~完璧主義から最善主義への移行

「完璧主義」とは文字どおりの意味で、「最善主義」とは、「完璧主義からその神経質的なネガティブな要素を取り除いた、より健全なかたちの完璧主義だ」と、タル・ベン・シャハーは定義しています。「最善」とは、「ある一定の条件下で、最も望ましい」という意味で使われています。「完璧」はありません。「最善」があるというのです。これを、職場での価値観の違いという点で考えてみましょう。
例えば「完璧」は、自分の意見が100%採用され、周りが自分の思いどおり、といったイメージでしょうか? そんなことは現実ではありえません。一方で「最善」とは、「いろんな意見や価値観があり、紆余曲折はあるものの、なんとかみんなで折り合える点を見つけることができた。そして、そのプロセスを通して職場のメンバーのよさが出て、絆が深まった」といったイメージでしょうか。
完璧主義者の期待と、最善主義者の予測を図表①に表してありますので、参考にしてください。

BILANC18「価値観」成瀬先生図表

それでは、完璧主義者から最善主義者になるためにはどうしたらいいのでしょうか? まずは、自分が完璧主義でいることで手にしているメリットと、デメリットを洗い出すことです。自分が完璧主義だと気づいていたとしても、人はなかなか完璧主義から抜け出せません。なぜなら、自分が完璧主義であることにメリットを感じているからです。
「理想を高く掲げるのはいいことだ。それによって仕事の質が高くなる」と思うことは、1つの立派な価値観です。それによって、実際に質の高い成果が生み出されていることでしょう。しかし完璧主義でいることのデメリットにはどんなものがあるのか、ここで少し時間をとって考えてみましょう。
①仲間のミスが許せない。②自分のミスも許せない。③成功の基準が高く、いつまでたっても成功だと認められない。④早急に結果を求めすぎる。⑤プロセスを楽しめない。
もしそういったことに心当たりがあるのなら、ご自身の完璧主義のデメリットを手放し、よい意味での完璧主義、つまり最善主義に移行していく時期なのかもしれません。社会で成功されている人は、誰でも少しは完璧主義の傾向を持っていることが多いものです。しかし、より幸せに生きるには、最善主義的な生き方を取り入れていくことが大切です。完璧主義と最善主義は、決して対立したものではありません。完璧主義の高い理想を捨てるのではなく、全体的な状況をかんがみて、そのときに最善な判断をしていくことが必要だということなのです。

結果ばかりを追い求めずに、プロセス自体を楽しもう

~職場での「共同創造」のために

もしご自身が完璧主義に息苦しさを感じたら、その完璧主義的傾向について自己否定するのではなく、自分にはその傾向があると認めることがまずは第一歩です。私も以前は、完璧主義的傾向が今よりも強くみられました。もちろん、仕事で行う翻訳の質を高めるには、完璧主義的傾向を持つことがある意味で誇りとなるのですが、人生全体で考えるとき、完璧主義はマイナスにはたらきます。自分はもっとできるはずだとか、なぜこうではないのか、といった思いは、自分を苦しめます。焦りや自己否定感、他者に対するイライラがついてまわるからです。しかし最善主義の考え方を知ったあとは、理想を掲げるだけでなく、現実を受け入れる大切さもわかり、より人生を楽しめるようになってきました。完璧主義者と最善主義者の違いは図表②を参考にしてください。

BILANC18「価値観」成瀬先生図表

職場では、いろんな価値観を持った人たちが働いています。そういった有機的な結びつきのなかで、自分と他者、両方の価値観を認め合いながら、いい仕事をしていくには、どうすればいいだろうか。そういった問いを立てることが、最善主義的であるということです。
そしてそれはもちろん100%実現できるものではないですし、時にはフラストレーションを感じることもあるでしょう。しかし、その方向に向かっていくプロセス自体に価値あるということなのです。
完璧な人も、完璧な最善主義者もいません。誰もがそれぞれの学びの道を歩いているといえるのではないでしょうか。

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