広報活動

デキる学校のSNS&Webサイト新戦術

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高校生や大学生などの若年層にとって、SNSの影響力は絶大。
若者を“主客層”とする大学ではPR戦略に役立てたいところです。
しかし、本当に効果的に使うことができるのでしょうか。

構成:野澤正毅 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

BILANC18落合先生 Webメディア評論家
落合 正和氏(おちあい・まさかず)
大手アミューズメント施設などの勤務を経て、2011(平成23)年office ZERO-STYLE設立。以来マーケティングコンサルタントとして活動する。なかでもソーシャルメディアマーケティングに注目し、日本初となるFacebook解説ブログを立ち上げ、月間300万PVを達成。その後もテレビ、ラジオ、新聞、Webメディアなどでの解説や講演などを中心に活動中。

~2種類のオンラインメディアを使い分ける

かつて大学や短期大学のWebサイトといえば、ただ一つの公式サイトがあるくらいでしたが、近年は志願者向けの特設ページにブログ、FacebookにTwitterと、多彩をきわめています。その半面、同じ情報を複数のメディアに重複掲載しているケースも少なくありません。せっかくなら、メディアの特性に合わせて見せ方を変え、効果的に利用したいものですよね。そこでまず、オンラインメディアには、Webサイトやブログのような「ストック型」と、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のような「フロー型」の2種類があるということを整理しておきましょう。
ストック型は、検索エンジンにかかるメディア。カリキュラムや教員プロフィール、研究領域、就職支援など、賞味期限の長いコンテンツの掲載に向いています。「在校生・卒業生インタビュー」や、「ユニークな研究室紹介」といった読み物ページ、イベントなどを収録した動画(YouTube)も、実はこれに該当します。
対するフロー型は、鮮度が重要な「速報ニュース」を発信するのに適しています。情報の伝達・拡散のスピードが速いからです。
また、これらのメディアは、次のように捉えることもできます。「大学が発信する一方通行の情報はストック型メディアに」「志願者や在校生とのやり取りを前提とする情報はフロー型メディアに」という考え方です。こう考えると、フロー型メディアでは、志願者からの質問にリアルタイムで答えたり、悩み事の相談に乗ったりするコンテンツを企画しても面白いでしょうね。

~ストック型メディアは担当者が「楽しむ」べし

では、それぞれのメディアはどのような戦略で組み立てていけばいいのでしょうか。
ストック型のポイントは大きく3つ。まず、コンテンツを増やすこと。ブログなどであれば、1日に最低1記事はアップしていきたいところです。コンテンツが充実しているとリピート率が高くなり、結果として認知度も上がります。
2つ目はSEO(検索エンジン最適化)対策。これは検索エンジンの上位に表示されるようにするためのもので、志願者が検索時に入力する可能性の高いキーワードを設定するとよいでしょう。情報量が十分なサイトは、それ自体がSEO対策にもなります。
3つ目は、担当者が「楽しむ」こと。完璧な知識は必要ありません。義務感でサイトを運営しても、読んで楽しいページにはなりませんからね。
一方のフロー型では、Facebook、Twitter、Instagram、LINEなど、それぞれの「文化」に応じた使い分けを心がけましょう。たとえばTwitterは、1回の文字数が140字に制限されているぶん、投稿数が非常に多いサービスで、情報の賞味期限は1日といわれています。このため、1日に5、6回投稿しても問題ありません。
対照的に、長文での投稿が可能なFacebookは、多くの利用者が熟読する傾向にあり、1日に何度も更新するアカウントは敬遠されます。
画像投稿サイトのInstagramは雰囲気重視型。同じ食料品でも、Twitterでは「豪快に食い散らかした構図」がウケるのに対し、Instagramでは「梱包された状態でおしゃれなキッチンに飾った構図」がウケます。
※ Twitter社はTwitterを「ソーシャルネットワークではなく、社会的な要素を備えたコミュニケーションネットワークである」と規定していますが、本記事ではSNSとして取り上げました。

~「個人」と「個人」を結ぶのがSNSの役目

このように、それぞれの文化に適応していけば、一つのネタを多角的に見せることができるのですが、残念ながらSNSを活用した大学の経営戦略では、ほとんど成功事例がないように思います。法人アカウントで運営すること自体が、成功を難しくしているのです。
その理由として、SNSが基本的に個人間のコミュニケーションを盛り上げるのに対し、法人と個人のコミュニケーションの難易度は高い傾向にあるからです。例えば日本企業では、無線通信サービスのソフトバンクや、ファッション通販のZOZOTOWNのフォロワーが多いことで知られています。しかしこれは孫正義さん、前澤友作さんといった、強烈なキャラクターのオーナー社長がメッセージを発信するかたちになっているからです。企業ではなく、いわば“経営者個人”にフォロワーがついているわけです。
また、企業には「目立ってなんぼ」という部分があるため、風当たりが強まるのを覚悟で、思い切った情報を発信することもあります。しかし大学には公共性や社会的信用が求められるので、“ウケ狙い”の情報発信は難しいでしょう。「炎上」も引き起こしかねません。SNSを運用する場合は、書き込む前に、複数のスタッフが内容をチェックする体制にしたほうがいいでしょう。
このように考えると、大学にはストック型メディアが効果的です。ストック型は「蓄積」ですので、地道に中身を育てる作業が必要になります。大学の専門分野や魅力を“棚卸し”して、客観的な魅力を発信しましょう。もちろん、フロー型を並行運用するのは構いません。
大学の魅力を棚卸ししたら、あとは「誰に情報を届けるか」を考えるのみ。マーケティング用語に「ペルソナ」というものがあります。年齢・性別・趣味・ライフスタイルなどを細かく設定した架空の顧客のことです。広告情報は不特定多数に届けようとするより、特定の1人に向けたほうが効果的だという調査結果も出ています。情報がより具体的に、わかりやすくなるからです。さらにペルソナに近い人物(家族や友人)に響く可能性も高まります。
ストック型にしろ、フロー型にしろ、広報アカウントは時間をかけて育てるものです。簡単に成功するコツはありません。広報活動について、じっくり皆さんで話し合ってみてはいかがでしょうか。

BILANC18「SNS」落合先生図表
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