締切厳守、できるリーダーになるための逆算仕事術
余裕があると思いのんびり構えていたら、いつのまにか時間がすぎて慌てるハメに。あげく納期に間に合わなかったり、相手に求められたクオリティーを満たせなかったり......。そうした人は「現時点」から「納期」へ向かって、仕事を積み上げていくやり方が染みついているのでは?「納期」から「現時点」へ仕事を逆算するだけで、そうしたミスは簡単に防げます。「不要不急な仕事の見分け方」などとともに、そのコツを伝授してもらいましょう。
構成:田ノ上信 編集:プレジデント社
「自己満足仕事」「習慣化した仕事」「念のための仕事」
をやめれば、大事な仕事に向き合う時間が増え、
締切まで余裕をもてます
人材カウンセラー
中尾 ゆうすけ氏(なかお・ゆうすけ)
人材育成研究所代表。元一部上場企業の人事部門で人材の採用、教育、各種人事制度構築、労務管理全般に携わった経験をもつ。『頭がいい人の仕事は何が違うのか?』『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』『1割の「できる人」が大切にしている仕事の「基本」』など、人事や仕事術に関連する著書多数。『これだけ!OJT』は、職場で行う職業教育「OJT」(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の定番本として、ロングセラーになっている。
~重視すべきは仕事の内容より納期
仕事ができる人、できない人の差は何か。人事という立場で何千人もの社員とかかわってきた経験から私が言えるのは、「全体像を把握した上で仕事をしているか否かの違い」でしょう。仕事のできる人はたいてい全体像を把握した上で、ゴールから「逆算」して仕事に取り組んでいます。ここではそれを「逆算仕事術」と呼ぶことにし ます。
仕事を逆算する方法には大きく2つあります。「時間」と「目的」です。たとえば、製品や企画、資料づくりなどを期限までに納めるとします。まず時間については、納期に対して現時点でどれだけの時間があり、どういう段取りで仕事を進めるのかを考え、納期から逆算して「ここまでを何日まで」「ここまでを何時まで」とスケジュールを立てます(図❶参照)。間に合わない場合は、必然的に改善をする習慣も身につきます。逆にスタート地点からゴールを目指し積み上げていくと、締切オーバーになりかねません。
逆算のメリットは、①仕事の進捗管理が容易になる、②間に合わないことがわかれば早期に納期を調整できる、
③仕事のやり方を変える必要性を認識できる、④それによって仕事の効率化やプロセスの進化ができる、という4点。
次に「目的」について。この仕事は何のためにやるのかを考えると、そのために必要なことは何か、アウトプットのレベルはどれだけなのかという質が決まります。そこから逆算して仕事の取り組み方を決めることで、無駄なく最短ルートで仕事をすることができます。目的があいまいだと、効率は落ち、仕上げのレベルもあいまいになります(図❷参照)。要求されているレベルより低ければ期待に応えられませんし、逆に高すぎる場合、相手が喜んでくれればよいですが、そうでなければ無駄に時間を費やすことになります。
「何のためにやるのか?」から逆算することで、仕事のやり方が決まり、最短で成果にたどり着ける。
目的から逆算しなければ、誤った方向に進んでしまい、ムダが生じたり、
目的と合わない結果になったりすることも避けられない。
~締切を超えそうなとき、とるべき手段は3つ
逆算仕事術は自分自身の仕事はもちろん、中間管理職が部下に仕事を任せる時にも有効です。部下の経験や能力に応じて、後ろからスケジュールを組み、指示を出します。進捗を確認する時に気をつけたいのが「いつ取りかかるか」。部下も複数の仕事を並行しているため、なかなか新しい仕事に着手しません。上司は「この日までに取りかからないと危険」というリミットを定め、実際に着手したかをチェックすることが大事です。
その後も要所要所で進捗状況を確認します。部下からの経過報告が遅い場合は、「○○の件、いまどうなってる?」「もう少し急がないと間に合わないぞ」など声をかけます。部下の性格もあるので、優しく言ったり、少しきつく言ったほうがいい場合もあるでしょう。計画が予想以上に遅れ、本人にハッパをかけるだけでは不十分だと判断した場合は、人手を増やすなど何らかの支援策が必要になります。それでも間に合わなそうな時、取るべき手段は3つあります。
1つは、質を下げること。これは「投げやりになる」という意味ではなく、アウトプットの質の適正化を考えるのです。相手が求めているレベル以下にすることはできませんが、高すぎる付加価値を追求していた場合は、適正水準にします。
2つ目は納期調整。相手に対し素直に謝り、納期を延期させてもらえないか相談します。数日であれば認めてくれるかもしれません。
そして究極の手段が、仕事をやめる。同時並行している仕事のうち、やめてもいい仕事を見極め、そのぶん重要課題に振り向けます。ちなみに私が考える、やめてもいい仕事は3つあります。1つは、求められていないのに、やらなければならないと思い込んでいる「自己満足仕事」。たとえば企画書をつくる時に大事なのは中身ですが、フォントにこだわったり、パワーポイントのアニメーションに凝ったりというのが、ありがちな例です。
2つ目は「習慣化した仕事」です。誰も読んでいないこまごまとした週報などは極力シンプルにする。あるいは、他の仕事を圧迫しているのなら、いっそやめることも考えるべきです。
3つ目は「念のための仕事」。プレゼンの準備でアレもコレもと用意したりしますが、本当に必要なのかを見直しましょう。
~質・量・速さを最適化する
ここまで見てきたように、逆算仕事術では時間と目的が大きなポイントになりますが、目的に関連して、もう一つ付け加えたいことがあります。それは「質」「量」「速さ」のバランスです。仕事のできる人のアウトプットは、この3つを、求められるレベルで均衡させています。質は高いけれど仕事が遅く、量もこなせないとか、スピードは速いけれど質が低いということではいけません。この3つはどれも必要不可欠です。ただし仕事の目的によってその比重は変わるので、うまくバランスをとることが重要です(図❸参照)。
大学の場合、入試や授業料の確認、学籍登録などの重要かつ緊急な案件は2~4月に集中し、質・量・速さのすべてが最高水準に求められるとのこと。いまから次年度に向けてしっかりと逆算し、必要に応じてマンパワーなどの資源を思い切って投入することも検討してみてはいかがでしょうか。
はじめから必要な質・量・速さを把握しておけば、完成目標を立てやすく、仕事も進めやすい。
納期に遅れそうになったら、いずれかの目標を下げなくてはならないので、それぞれ妥協点の目安もつけておこう。