“ 働きやすい” オフィスのコツ(古川靖洋氏)
私大等の今を聞くDate: 2025.12.12
構成:三浦愛美
編集:プレジデント社
進化する組織の「仕掛け」(第1回)
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関西学院大学 教授 古川 靖洋氏(ふるかわ・やすひろ) 関西学院大学総合政策学部都市政策学科教授。 オフィスの生産性、オフィス環境と、そこで働く人々のモチベーションの関係について研究している。著書に、『テレワーク導入による生産性向上戦略』(千倉書房)など。 |
コロナ禍を経て、私たちの働き方 は、「テレワーク」「リアル出勤」「ハイブリッド型」へと広がりをみせています。
昭和や平成の時代は、自宅より会社のほうが設備も回線も整っており、オフィスで働くことに合理性がありました。
しかし令和の今、“働きやすい環境”は多様化しています。自宅や、コワーキングスペース、カフェ……。
そんな時代に、わざわざ出社したくなるオフィスとは、どのようなものなのでしょうか。
~ 一律的・画一的に進めず業務特性に応じた改革を
昨今は、おしゃれでポップなオフィスづくりも流行りですが、我が子に最高級の勉強机を用意すれば、誰もが成績が上がるわけではありません。環境は必要条件に過ぎず、個室のほうが勉強しやすい人もいれば、ワイワイにぎやかな食卓のほうが生産性が高い人もいます。事務所移転やリフォーム時は、どうかコンサルタントやメーカー任せにせず、どんな職場が働きやすいかを周囲にヒアリングしてみてください。オフィス環境に対する評価が高いほど、作業効率は向上し(図表参照)、プレゼンティーズム※が改善されることも明らかになっています。

※ 就業しているものの、病気や体調不良により仕事に集中できず生産性が低下している状態
業務内容によっても、最適なオフィス環境は変化するものです。例えば、進捗確認などはオンラインでも可能ですが、創造的な議論や相互理解、偶発的な“気づき”は、対面でこそ育まれます。そのため単一のレイアウトではなく、目的に応じた「居場所」を複数用意することをお勧めします。個人が集中できる個室や、6人程度の気軽なミーティングに最適な「ファミレス型ボックスブース」、モニターを備えた半個室、小会議室から大会議室など、コストを抑えつつ業務内容に応じて、働く場を使い分けられるようにするのが良いでしょう。
また、大学の教務課のように、カウンター近くの席の人が常に受付業務を担当するなどの負荷が固定化しないように、席のローテーション化や、出社時にランダムに席が割り当てられるフリーアドレス制などの仕組みも有効です。
一風変わった取り組みとしては、オフィス家具メーカー大手のオカムラが実践する“部活”制度があります。日頃、縦割部署ごとに固まりがちな社員に、趣味を通じて横のつながりを持ってもらうのです。グルメ部やガーデニング部などの多彩なチームを設け、それぞれカスタム自由な部室を持ち、そこが「自分の居場所」にもなる仕組みです。
一方で、管理職に求められるのは、部下を信じ、自ら環境を活用する姿勢です。リフレッシュスペースがあるなら率先して使い、多様な働き方を「サボっているのでは?」と疑わない。制度や環境は存在するだけでは意味がなく、活用してこそ真価を発揮するのです。オフィスは単なる労働の場ではありません。多様な価値と視点が交差し、新しいものが生まれる場所です。ぜひ、できることからエンゲージメントや、活発な情報交換、多様なアイデア創出を育めるオフィスづくりを目指してみてください。

