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「開拓者精神」で変革の一歩を(矢野泉氏)

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私大等の今を聞く

Date: 2025.12.12

少子化や地方格差、大学改革など、私立大学等を取り巻く環境が年々厳しさが増しています。そのようななか、各学校法人はどのような役割を果たすべきなのでしょうか、広島修道大学学長の矢野泉先生にお話を伺いました。

BILANC38私学の今「矢野泉先生」
左から広島修道大学 矢野泉学長、当財団 守田芳秋常務理事


※2025年12月発行BILANC vol.38に掲載
構成:江頭紀子 
撮影:梅田雄一 
編集:プレジデント社

~地方に根ざす私学の役割

守田 私立大学等を取り巻く環境が年々厳しさを増していくなか、今後私立大学等はどのような役割を果たしていくべきとお考えですか。

矢野泉先生(以下「矢野」) 多くの地方で、国立大学は1県1校しかありません。そのため、地域の私学が「学生が学びたい教育」を提供していくことは、日本の将来にとって極めて重要です。しかし、地方の大学では自ら学生を獲得すべく動かねば、学生が集まりにくい時代になりました。
総務省の統計によると、その中でも、広島県は転出超過(一定期間における転出数が転入数を上回っている状態)が全国最多。進学や就職を機に、県外へ出ていく若い方が多いのが現状です。
しかし一方で、地元で学び、働きたいという学生も少なくありません。地方の教育水準を維持し、人口流出を食い止めるうえでも、地方私学の存在は欠かせないのです。地元で学ぶことの意義や地方ならではの強みをしっかり発信していくことが必要でしょう。

守田 その現状を踏まえ、貴学が2024年に策定された“2040年ビジョン” への強い想いとは?

矢野 予測の難しい時代だからこそ、自分たちの志を見失わないようにと、設立80周年となる2040年に向けて目標を設定しました。教職員で議論を重ね、たどり着いたのが、表題にある「開拓者精神」という言葉です。
本学は、原爆で被害を受けた広島の復興を支えるために、専門的な人材を育成してほしいという地元の強い要請を受けて設立されました。新しい時代に向かって、広島の街をリードしていく人材を育成する。今も本学の存在意義の根幹にあり、初代学長が大切にしていた言葉でもある「パイオニア精神」を現代に引き継ぎました。
さらに、校名にある「道を修める」という建学の精神に基づき、「未知(道)を切り拓く挑戦と創造の拠点」というテーマを掲げています。これは、「広島修道大学らしさ」を大切にしつつも、「変化を恐れず挑戦する」姿勢を示しました。
 

広島修道大学2040 ビジョン・バリュー

~学生の挑戦を支える“場”に

守田 ビジョン実現の柱である6つのバリューとは?

矢野 6つのバリューは、研究・教育・学生支援などを横断して「共通して大切にしたいこと」という観点からまとめました。中でも特徴的なのが、1つ目の「誰もがやりたいことに挑戦できるトポス」です。トポスとは、ギリシャ語で「場所」。学内が挑戦の場や居心地のいい空間となるように、施設や制度などの環境を整えています。

守田 具体的に、どのような取り組みをされているのでしょうか。

矢野 2ラーニングコモンズ的な場所を増やしています。2015年に建てた「協創館」には、国際センターなど3つのセンターを配置し、国際交流や学生グループが学び合える拠点をつくりました。そのほか、修道学園創始300周年記念事業として新設した体育館前には、学生がくつろげる人工芝の広場を整備しています。芝生にごろごろ寝そべりながら昼寝をしたり、レポートを書いたりできる憩いの場になりました。リラックスできる空間から、新しいアイデアや挑戦が生まれてほしいですね。

守田 今、大学にはリアルな“場”の魅力とデジタル環境の充実、双方が求められており、貴学のバリューには「誰もがやりたいことに挑戦できるトポス」と「デジタルシナジーキャンパス」の2つが並んでいるのは、とても魅力的です。

矢野 ありがとうございます。もう一つ特徴的なバリューが、「社会からつながりを求められる大学」。地域から求められて存在している大学なので、社会連携を大切にしていきたいと考えています。

守田 2010年から実践されている「地域つながるプロジェクト」ですね。

矢野 学生が自ら地域の課題を見つけ、チームで解決策を考え、大学が資金支援を行うプロジェクトです。近年は地域から課題を募集した「課題設定型」や、気軽に参加できる「発見型」など、段階的な仕組みを整備しました。地域に根ざした実践の積み重ねが、まさにビジョンの具現化につながっています。
成果として横展開したものが、「防災意識を高めるプロジェクト」。地域防災に関心がある学生が2021年度に立ち上げました。他地域にも広がり、防災イベントを地域の方と企画したりしています。防災士の資格を取得した学生もいて、大学全体で防災ボランティアを育成する活動に発展しました。

~学びたいときに学べる仕組みを

守田 最後に読者である教職員の皆さまにメッセージをお願いします。

矢野 どんな時代であっても、やはり大切なのは「人」。大学には、その人を育てるという大きな使命があります。教職員一人ひとりが、その責任を認識し、日々の教育・研究に取り組むことが何より重要です。日本の高等教育に携わるすべての人が、仲間として連携しながら進んでいくことが求められています。
また、高等教育における修士・博士課程の充実も課題の一つ。本学では、成り立ちからも実学重視の学士課程を通じて教育を行っていますが、「地域のために」は重要なキーワードです。地域の企業からも「即戦力として活躍できる人材」と高く評価をいただいていますが、その反面、大学院進学を充実させていくことの難しさもあります。しかし、本学の使命は「地域で学んで世界を支える人材を育てる」こと。そのうえで、「専門性を深めることが面白い」と感じてもらえるようにしたいですね。
学士卒業後、すぐに大学院へ進まなくても、「もっと学びたい」と思ったときに挑戦できる環境があることが理想です。地方ではそうした仕組みがまだ十分ではありませんが、そこに応えていくことも地方私学の役割だと考えています。

守田 本日は貴学のさまざまな取り組みを通して、学びの可能性をお聞かせいただき、ありがとうございました。

BILANC38私学の今「矢野泉先生」

お話を伺った方
矢野 泉 氏:
広島修道大学学長。
広島県生まれ。
1993年北海道大学大学院、1996年広島大学大学院修了。
広島大学大学院生物生産学部助教授、広島大学大学院生物圏科学研究科准教授、広島修道大学商学部教授などを歴任し、2022年4月より現職

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