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〝新しい現状〞に合わせ変革を(ロバート・キサラ氏)

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私大等の今を聞く

Date: 2024.11.29

コロナによる地球規模のパンデミックは私学経営に多くの苦難をもたらしました。その後の大学運営について、南山大学学長のロバート・キサラ先生にお話を伺いました。

BILANC35私学の今「ロバート・キサラ先生」
左から南山大学 ロバート・キサラ学長、当財団 守田芳秋常務理事


※2024年11月発行BILANC vol.35に掲載
構成:布施 恵 
撮影:川島英嗣 
編集:プレジデント社

~大学を取り巻く環境について

守田 環境や社会の変化など多くの課題が大学を取り巻いています。貴学が置かれている状況をお聞かせください。

ロバート・キサラ先生(以下「キサラ」) 日常生活においてはパンデミックから回復し、一見コロナ以前の状態に戻ったようにも見えます。しかし、精神的なダメージから回復できていない人もいるので、そういった人にも寄り添っていくことが大学の使命といえるでしょう。加えて、すべての大学が直面している少子化の影響が大きくなっています。本学も全国から学生を積極的に集めようとはしていますが、約9割が東海地方の学生というのが現状。全国から選んでもらうため、「魅力ある大学」とはどうあるべきかを常に考えています。

守田 「南山大学で学びたい」と思われる魅力の創出はとても重要です。全国から積極的に学生を集めるために、どのような工夫を考えていますか。

キサラ 本学を志望する受験生に向け、積極的に魅力を伝え続けていくことが必要です。高等学校の教育は近年変化を遂げており、学力だけでなくさまざまな経験やスキルを身につけた方が増えました。そのような生徒の皆さんに、全国から南山大学を目指していただけるよう、本学では試験方式の見直しを行っています。2025年度入試からは、主体性を持って多様な人々と協働して学ぼうとする学修意欲のある人材を受け入れるため、総合型選抜を拡大。26年度入試では全学部で導入するための準備を進めています。また、10カ月以上の長期留学経験者を対象にする「学校推薦型選抜」なども実施しています。

~新しい現状の創造

守田 これからの時代は学生のニーズに応じた多彩なメニューを用意し、対応していくということですね。貴学では学長方針でも「新しい現状」をつくり出すというメッセージを強く発信されていますが、この「新しい現状」とはどのようなことでしょうか。

キサラ まず、パンデミックで明確になったことは、国家、年齢、病気、職業などの違いによる格差で、社会的に弱い立場の人も明らかになりました。それと同時に、パンデミックによって、「すべての命がつながっている」ということが明確になりました。感染症を前にしては、家族はもちろん、職場や学校、生活圏など、私たちが関わるすべてのコミュニティが、いわば運命共同体です。その共同体は国家を超え、すべての命とつながっているのです。だからポスト・コロナとなった現在では、「コロナ以前に戻す」という発想ではなく、これを機に、もっと平等で、すべての人の尊厳が守られる、広い意味での「新しい現状」を構築しなくてはなりません。まさに南山大学の教育モットーである「人間の尊厳のために」、かけがいのない価値を一緒に構築していく状況にあると感じます。

守田 では、教育・研究機関として「新しい現状」への考え方をご教示ください。

キサラ さまざまな研究を通じて、どのようにその「新しい現状」を具体的につくっていけるのか。紛争や環境問題等にどのような対応策を検討していけるのか。社会への貢献を通じて、学生がどんな活動に取り組み、その結果、何を身につけていけるのか。そうした検討を続けているところです。また本学は建学以来「国際性」をアイデンティティとし、先進的な取り組みを行ってきました。これは本学の起源にも関係しています。本学の前身は、終戦直後の混沌とした時代にできた南山外国語専門学校で、世界を舞台に活躍できる人材の育成を目標とし、この精神が今も引き継がれているのです。
今後はすべての在学生が異文化(多様性)を肌で感じられるよう、海外に留学できる大学にしたいと思っています。すでにその足掛かりとなる多様な留学プログラムがありますし、海外100以上の大学と協定を結んでいます。毎年長期留学には300人、短期留学には600人ほどが参加し、協定校の少ない国や地域に関してはさらに開拓を進め、多様化した留学目的に対応していきます。

~新しい時代に応える「3Ds」

守田 「3Ds」についてお話をいただければと思います。

キサラ 「新しい現状」に向かう本学の使命は、「3Ds」という英単語のイニシャルで表現しています。Dignity(人間の尊厳の推進)、Diversity(多様性の重視)、Dialogue(対話の場づくりとその実践)です。すべての人が平等に持っている尊厳が守られ、国籍・文化・ジェンダー・世代など多様な背景を有する人々が、お互いに持っている意見、信念、価値観を出し合い、共に真理の探求と現実的な行動を補い合う場こそが重要です。違う文化、考え方、見方、経験を持った人たちが、妥協ではなく真実に近づこうと、一緒に問題を解決するのです。私たちが本学のアイデンティティとして大切にしてきた国際性を礎に3Dsの実現へ尽力していくことこそが、「地球規模の関心、私たちの貢献」として重要な役割を果たすこととなります。本学が実践してきた教育・研究による社会貢献は、常にグローバルな意味合いを持っているのです。

守田 3Dsは教育にどのように反映させているのでしょうか。

キサラ 私自身の授業で特に重視しているのがDialogueで、授業では少人数のグループによるディスカッションや発表の時間を必ず設けています。
また、学内には国際交流の充実を図るための3 つのラウンジがあります。
1つ目が「ジャパンプラザ」。日本語だけを使用する交流の場で、海外からの留学生が教室以外で定期交流ができ、日本語を練習するために日本人の学生と日本語だけで会話をする場所です。
2つ目は日本語禁止の「ワールドプラザ」。外国語を学びたい学生が外国語を練習する場となっています。
そして3つ目が「多文化交流ラウンジ」。すべての学生が自由に多文化交流体験ができる場で、多様なイベントが企画され、留学生と日本人の学生が一緒に参加できる場所です。異文化体験や国際交流の機会を積極的に求める学生で賑わっているんですよ。

守田 対話を重視し、国際性をアイデンティティとする貴学ならではの取り組みの中で、これからも守り続けるべきものはどの部分でしょうか。

キサラ 本学は2046年に創立100周年を迎えます。キリスト教の世界観に基づいた建学の精神「人間の尊厳のために」という教育モットーを守りながら、社会の期待に応えられる大学づくりを進めていきます。すべての人が平等に持っている尊厳が守られる環境をつくる。それに貢献できる学生を育ててまいります。
近年では海外のみならず、近隣大学との公私立の枠を超えた連携・協力や、学生主導のプロジェクトも始まりました。異なる専門分野の学生たちが一堂に会し、大学間の壁を越えて共通の議題やテーマについて深く論議を交わし、課題発見・解決能力の向上も目指しています。

守田 名古屋地区には多くの大学があり、「新しい現状」をつくるための学生による垣根を越えて連携した活動への期待が高まりますね。本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。

BILANC35私学の今「ロバート・キサラ先生」

お話を伺った方
ロバート・キサラ 氏:
南山大学学長。アメリカ合衆国出身。
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。
1995年より南山大学で教鞭を執り、2020年より現職。
また1985年、司祭に叙階され、神言修道会日本管区長、総顧問、副総会長などカトリックの各種要職を歴任。

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