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成長を実感できる短大教育

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私大等の今を聞く

Date: 2024.07.22

「誠実・研鑽・慈愛・信頼・和睦」の建学の精神のもと、人間教育と実践的な専門教育に重点をおいた「人づくり教育」に力を注いでいる国際学院埼玉短期大学。国際学院の大野博之理事長(当財団理事)に短期大学教育の魅力についてお話を伺いました。

BILANC34私学の今「大野博之先生」
左から国際学院 大野博之理事長、当財団 守田芳秋常務理事


※2024年7月発行BILANC vol.34に掲載
構成:野澤正毅 
撮影:神出 暁 
編集:プレジデント社

~岐路に立たされる短期大学

守田 貴学は実学に強いという印象ですが、かつては専修学校だったと伺いました。なぜ短大化の道を選ばれたのでしょうか。

大野博之先生(以下「大野」) 決断したのは父でしたが、一言で言えば、「教育の高度化」への対応です。
実際に短大化してから入試は難しくなり、学習意欲の高い学生が集まるようになりました。短大の認可を受けるのは厳しかったようですが、正しい選択だったと思います。

守田 教育の高度化というニーズはとどまるところがなく、さらに少子化によって私学経営は厳しさを増しています。大学と専門学校に挟まれて、短期大学という高等教育制度が大きな岐路に立たされているとの論調も、近年目立つようになりました。

大野 おっしゃる通りですね。実際に短期大学の統廃合や4年制大学への転換が相次いでいて、私たちも危機感を高めています。18歳人口に占める短期大学への進学割合の推移を調べたところ、93年には12.9%で約25万人が進学していたのに、23年には3.4%で約4万人と、30年間で約22万人も減少したのです。

守田 そうした風潮が短期大学の苦境につながっているとも推察されます。それに対して、短期大学の強みや存在意義をどのようにとらえていらっしゃいますか。

~今こそ「強み」を発揮する

大野 とても重い問いですね。専門学校 について考えてみると、職業訓練に特化した教育機関なので、最短の期間と比較的安い学費で、就職や資格取得に必要な専門知識やスキルが学べます。
しかし社会では、職能や仕事の専門知識以外にも、幅広い能力や知識が要求されます。例えば経営層になれば、経営に関する能力や知識が求められます。社会人としては、政治や経済、文化などのさまざまな動きを把握し、理解しなければなりません。コミュニケーション能力も欠かせません。そうした人間の基礎的な能力を高め、より活躍するためには、学生時代に教養を身につけることが大切です。教養とは、「自分自身に問いかけ、考える機能」と、私たちは定義しています。あらゆる情報を取捨選択し、正しい判断・自己決定をするのに必須の機能です。

守田 確かに、学生時代に学んだ教養は一生の財産になりますね。

大野 専門学校はスペシャリストの養成が目的なので、基本的には教養のカリキュラムがありません。教養は、独学で得るか、ほかの学校で学ぶしかないのです。
短期大学は専門学校に比べ、学位を得られる利点もありますが、私は、教養を学べる点が最大のメリットだと考えています。卒業生からは、「短期大学を卒業してよかった。短期大学で学んだ価値は社会人になって、後になればなるほど、よくわかる」といった声が多数寄せられています。

守田 教養を身につけるなら、4年制大学のほうが、カリキュラムは豊富ですよね。

大野 おっしゃる通りです。けれども、4年制大学の広い教養のカリキュラムがニーズに対して過剰となる学生がいるかもしれません。その点、短期大学は短期間で必要な教養を学べるので、専門教育とのバランスがいいわけですね。

守田 ほかにも長所はありますか?

大野 短大には「接続教育」として、4年制大学や大学院へのブリッジ機能もあります。例えば、大学教育の意義を見出せず、負担の重い受験勉強を避けたがる高校生は少なくありませんが、短期大学であれば、4年制大学よりも低いハードルで進学でき、「大学教育」を享受できます。
短期大学で「学ぶことの喜び」に目覚め、学習意欲が高まれば、卒業後に「4年制大学や大学院に進みたい」という学生も増えるでしょう。本学でも3年次への進学(編入学)が可能です。編入学に必要な指導にも力を入れており、約60校から指定(校推薦)を受けていて、多くの実績があります。編入学後の学修への適応など、学ぶ意欲のある学生を応援しています。これも教育の高度化に対応する短期大学ならではの機能でしょう。短期大学の役割は、もっと見直されるべきです。

~学生が成長するしかけ

守田 とても説得力があるお話でした。短期大学の強みや存在意義を生かすため、貴学の取り組みをご教示ください。

大野 高等教育機関では、さまざまな価値観や考え方を持った人間が交流し、学生が人間として成長するのをサポートすることが重要です。本学では「吟味思考」と訳していますが、クリティカルシンキング(批判的思考)を学生たちに獲得させることにも努めています。社会のさまざまな問題を的確に評価し、よりふさわしい解決策を見出すためです。フェイクニュースを見分けるのにも役立つ能力です。
学生自身が課題を発見、解決し、評価するチュートリアル教育も導入しました。
豊かな教養を身につけるため、学内だけで教育を完結させるのではなくフィールドワークを増やし、学生に多くの体験を与えています。短期大学はコミュニティとの結びつきも強いので、さいたま市の産官学連携プロジェクトで「紅赤スイーツ」を開発したり、「政策提案フォーラム」に参画したりと、地域貢献活動にも力を入れています。

守田 貴学の2023年度の就職率は全学で96.3%と高い実績となった点についてはいかがですか。

大野 学びの環境を整えることが、学生の成長と評価、ひいては就職実績につながると考えて、教育のカリキュラムや施設・設備の充実を図っています。また、学生にサクセスモデルを示した上で正課外に技術教育を設けるなど、自主的に努力するしかけを用意しています。
一例として、栄養士を目指す学生でも、調理技術を追求できる履修科目を受けることはできます。保育士はピアノが必須なのですが、本学で初めてピアノに触れた男子学生が練習にのめり込んで、ソナチネまで弾けるようになった例もあります。自分の実力を認識し、自分で「意識して」成長することができるのです。
これらは成功体験により、マイナスの思い込みや刷り込みから解放するしくみです。教員も、研究意欲の高い若手を積極的に採用しています。教員を公募で採用し、学生と一緒に成長する環境を整えています。

守田 少子化を見据えた経営改革など、今後のビジョンもお聞かせください。

大野 生成AIが話題になっているように、デジタル化が進めば、“人間の教員”の役割が低下するという見方もありますが、私はそうは思いません。
AIに任せることで学校運営を効率化できる部分もある一方、学生が教養や吟味思考を体得するには、教職員の支援が不可欠です。それに、4年制大学との連携教育により、単独の規模よりも幅広い学習と水準が実現できるはずです。そして、子どもが減っても、高校の通信制の知見を生かすなど、新たな教育課題や社会問題への対応、企業や官庁の研修などの社会人向けの教育は、新たな事業領域になり得ると考えております。

守田 貴学の発展は教育ニーズの変化への柔軟な対応が、原動力とお見受けしました。本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。

BILANC34私学の今「大野博之先生」

お話を伺った方
大野 博之 氏:
学校法人国際学院理事長、国際学院埼玉短期大学学長、国際学院中学校高等学校校長。
文部科学省大学設置・学校法人審議会委員(学校法人分科会)などを歴任し、現在、中央教育審議会臨時委員(大学分科会)、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構評議員などを務める。
2021(令和3)年より私立大学退職金財団理事。

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