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松山大学 経営企画部

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未来を拓く学校人

Date: 2023.12.08

新学部は、人口流出防ぐ希望のディフェンスライン

BILANC32松山大学「経営企画部」

※2023年12月発行BILANC vol.32に掲載。インタビュイーの役職、学年等は取材時のものです。
構成:八色祐次 
撮影:梅田雄一 
編集:プレジデント社

松山大学が目指す2025年4月の情報学部(仮称・設置構想中。以下同じ)設置が、国の「大学・高専機能強化支援事業」の支援1(学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援)に選定されました。しかも、支援1に選定された67大学のうち7大学だけが該当した「選定委員会の審査において事業計画の多数の項目で『特筆すべき内容がある』と評価された大学」の1校とされています。
こうした高い評価を受けた背景には何があるのでしょうか。松山大学経営企画部次長の西村幸保さんは「大学の生き残りのみを考えるのではなく、愛媛県の活性化という観点から自治体、県内企業との連携を図りながら新学部の必要性を発想したから」と語ります。
松山大学は2023年で創立100周年を迎えた歴史ある私学です。経済学部、経営学部、人文学部、法学部、薬学部の5学部があり、学生はおよそ5600人。在学生の6~7割が県内出身者という、地元密着度の高い私学でもあります。ただ、多くの大学が抱える「18歳人口の減少」とは無縁ではいられません。西村さんはこう指摘します。
「愛媛県における18歳人口は2034年には現在の約80%にまで減少する予測が出ています。地方大学として生き残っていくためには、いかに学生を確保するかが喫緊の課題でした」

BILANC32松山大学「経営企画部」 松山大学 経営企画部
次長
西村 幸保(にしむら・ゆきやす)さん

本学だけでなく、
愛媛県と手を取り合い
課題解決に挑む

~情報学部の開設を地域課題に結びつける

そこで2021年5月に、入学試験制度に関する「統計解析タスクフォース」という諮問機関を学内に設置。入試制度も含めて、教育の方向性について検討することにしました。
メンバーとして集められたのは、各学部の統計解析、計量分析に明るい教員。過去の入学試験データや受験生の属性など、さまざまなデータを分析しました。その結果浮かび上がってきた結論の一つが、情報系分野を学ぶ機会の必要性でした。というのも、愛媛県内の大学に「理系の進学先が少ない」という現実があったからです。
「県内で理工系を含めて文理が揃った総合大学といえば国立の愛媛大学しかありません。つまり理工系を志望する県内の高校生は『愛媛大学に入るか、県外に出るか』という二択を迫られるわけです」
こう語るのは、経営企画部経営企画課係長、一柳慎太郎さんです。松山大学の学部構成は文系がメインで、理系は薬学部のみ。ここで松山大学に情報学部が誕生すれば、「県内で理系に進みたい学生の受け皿にもなれる」と、同経営企画課係長の中村詩乃さんが続けます。
「高校で理系だった生徒の進学先が少なく、やむなく経済学部や経営学部へ進学しているという現実があります。そういう学生のために、学びたい分野を学べる場所をつくっていくことには意味があると考えます」

BILANC32松山大学「経営企画部」 松山大学 経営企画部
経営企画課係長
中村 詩乃(なかむら・しの)さん

学生が自主的に集まり
学びを深める―。
そんな、今までにない校舎を

県内に理系学生の受け皿が少ないということは、愛媛県が直面している問題でもあります。実は、県は2022年2月に「あたらしい愛媛の未来を切り拓くDX実行プラン」を発表しています。そのなかで、100億円規模の基金を創設して「デジタル人材の育成・誘致、県内産業等のDXの力強い推進、県外IT企業の誘致強化」に力を入れることを宣言。これにあわせて、県内の高校でも情報系の学科を整備する動きが加速しているのです。
ただ、デジタル人材育成を推進するためには、県内にその受け皿となる大学の存在が欠かせません。高校で学んだ知識を一層深め、高い専門性を身につけた人材を育成するには、高度な学問を学べる場所が必要です。そのため松山大学の情報学部設置については、県も期待感を込めて歓迎してくれたといいます。タスクフォースの提言をきっかけに情報学部の新設を検討しはじめたものの、必要な資金の大きさが課題となっていたところ、国の助成制度の後押しもあり、情報学部設置は具体化していきました。

~調査結果に基づき客観的な定員設定

情報学部設置を推進するにあたって最初の壁といえたのが、学内の同意を得ることでした。というのも、学部新設に慎重な意見も根強くあったからです。
松山大学の唯一の理系学部である薬学部は、2006年に設置されています。これによって文理総合大学へ転換するきっかけになったのですが、当初設定した定員がなかなか充足しませんでした。その経験から、新学部をつくっても学生が集まらないのではないかと懸念を口にする教職員も少なくなかったといいます。
こういった不安を払しょくするため、タスクフォースの提言に基づき、大学では県内の高校生を中心にアンケート調査を実施。まず、どのような学部を新設するのかを高校生に伝えるため、構想内容を具体化したリーフレットを作成しています。そこでは、設置予定のコースの概要や卒業後の進路などを記載したほか、「高度IT人材やDX人材として、社会の中で、デジタル技術を使って新しい価値を創造できるクリエイティブな能力を育成」といったように、育成する能力についても触れました。
一柳さんは、「情報学部の構想を知ってもらった上で、興味があるか、受験したいと思うか、入学したいと思うかといったことをヒアリングしました」と話します。調査対象は、愛媛県内10校と高知県1校の高校2年生約1800人。高校は、松山大学への入学実績を基準に選んだそうです。その結果「県内だけでも150~200人ほどの入学者が見込まれる」ことがわかりました。
しかし、この数字をそのまま定員数に適用しませんでした。慎重を期すため、さらにシビアな定員数を設定したのです。
「最終的に設定した定員は120人でした。これはかなり確実性の高い数だと考えています。例年、松山大学に入学する学生のうち7割前後が愛媛県出身者です。つまり、県外出身の学生が3割前後いるということ。しかし、今回のアンケート調査に基づく入学者数の試算は、県内のみを対象に実施したため、実際はここに県外出身者の数がプラスされると想定されます。ですが、そこはあてにせず、仮に県外からの進学者がゼロであっても充足できるだろう定員数を設定しました」(一柳さん)
さらに、卒業後の就職先についても道筋をつけることで、念押しをします。愛媛県が県内のIT企業やユーザー企業に実施したアンケート調査の結果も活用しました。
この調査によると、IT技術者が在籍している企業は全体の10%ほどに過ぎず、システムやアプリの開発を内製化したくてもできない状況にあることが発覚。DXに「取り組んでいる」「取り組む予定」と答えた企業は30%に満たず、取り組みの遅れが課題視されていました。そのため県内企業の多くが中級(ITスキル標準のレベル2)以上の人材を欲している状況にあるという結果が出ています。
これは裏を返せば、大学において高度なデジタル技術を学ぶことで、県内企業に就職する道が拓けるということです。このように、学生の志望理由に影響する大学への入口と出口についてデータの裏付けを示すことで、学内の意見をまとめようと腐心したのです。

BILANC32松山大学「経営企画部」 松山大学 経営企画部
経営企画課係長
一柳 慎太郎(いちりゅう・しんたろう)
「愛媛大か県外か」で
揺れる地元の高校生に、
第三の選択肢を提示する

~具体的な申請書で差別化に成功

情報学部設置に向けて構想を十二分に練り上げたことが、「大学・高専機能強化支援事業」の選定にもつながりました。西村さんが「しっかりと構想を練り上げて申請できたのが大きかったと思います」と語るように、選定において評価されたポイントとして、「ニーズ調査の結果を基にした定員設定」や「愛媛県や教育委員会と連携して設置構想を具体化する点」などが挙げられています。愛媛県との連携とは、県としての課題である「デジタル人材の輩出」や「理系卒の高校生の受け皿となってほしい」という県の期待に応えるとともに、「デジタル人材育成のための学部設置・運営に関する連携協定」を締結して取り組みを進めようとしていたことを指します(2023年10月13日締結)。
西村さんはこう続けます。
「デジタル人材の育成については、大学と高校の連携だけでなく、小中学校との連携も深めていく予定です。すでに経営学部の教員と学生が県内の中学校へ出向き、IT授業の手伝いをしています。情報学部ではこのような活動を拡大していくことを考えています」
「大学・高専機能強化支援事業」による助成金を使って建設予定の情報学部の新校舎には、地元企業や自治体など、地域との連携ができるスペースも設ける予定があるそうです。
「このように具体化された情報学部設置の意義やポイントを、自己点検評価を担当している副学長が伝わりやすくまとめたことも、高評価を得られた理由かもしれない」と、西村さんは振り返ります。
「今回の助成金は構想段階から申請できるものなので、漠然とした内容でも応募可能でした。しかし、それでは数多くの申請のなかに埋もれてしまうかもしれません。本学の本気度を伝えるためにも、具体性のある内容、かつポイントを押さえた記載を心掛けました」
情報学部の設置に伴い、当初は既存の建物を改修して校舎とする予定でした。しかし助成金を受けることができた結果、10年ぶりに新校舎を建てる決断ができたといいます。
「教室や実験室だけではなく、学生が自主的に集まって学べる空間、今までとは違う校舎をつくりたいと思っています。そして、この新校舎を舞台に、地域の期待に応え、地域に有為な人材を輩出する大学としての使命を果たしていきたいと考えています」(中村さん)
新学部設置を大学の生き残り策ということに留まらず、地域課題の解決、地域活性化へと視座を高めたことが、今回の結果をもたらしたのでしょう。

※ 私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

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