上智学院 サステナビリティ推進本部
未来を拓く学校人Date: 2023.07.28
“学生職員”の採用で、学校運営も持続可能に!
※2023年7月発行BILANC vol.31に掲載。インタビュイーの役職、学年等は取材時のものです。
構成:秋山真由美
撮影:森本真哉
編集:プレジデント社
~教育精神に基づきサステナビリティを推進
2015(平成27)年9月の国連サミットで「2030アジェンダ-持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、各大学でSDGsの達成に向けた活動が活発です。なかでも目を引くのが、上智学院。サステナビリティ推進本部を設置し、そこでは「学生職員」が大学運営に直接関わっています。
この学生職員制度は、サステナビリティ推進を実現するためのアイデアを学生視点で提案してもらい、貧困や環境問題への解決策を発信していくことを目的として、2021年7月にスタートしました。授業の空きコマを利用して週に2~3日、6コマ(10時間)以上の就業が条件で、単年度の契約ですが、更新の相談も可能です。
サステナビリティ推進本部の専任職員の髙松理沙さんは話します。
「本学ではこれまでもさまざまな部署や学生団体などが環境問題や貧困問題、ダイバーシティなど、サステナビリティ推進に関する活動を積極的に行ってきました。ですが、教職員の活動、学生団体の活動と、各活動が点在し、一体感を持って学内外にうまく発信できておらず、上智学院・上智大学全体として何をしているのかが伝わりにくかったのです。そこで、SDGsに関わる学内の取り組みを整理・統括し、成果を戦略的に学内外へ情報発信していこうと、サステナビリティ推進本部が設置されました」
なぜ学生職員なのか、という問いに対しては、次のように説明します。
「SDGsはキャンパス内だけでなく、学生の将来に直接関わることです。だからこそ大学として、若い世代と立場を超え、一緒に取り組んでいくことが大事だと考えました。それに学生はSNSなどでの情報発信が得意です。私たちの世代にはできないことを、学生の力を借りて実現していきたいと考えたのです」
上智大学は1913(大正2)年の建学以来、「他者のために、他者とともに」という教育精神を掲げています。自分の才能や学びの成果を他者のために役立てることが、人間としての成長につながると考え、誰一人取り残さない社会を目指して取り組み続けてきました。それは、今でいうサステナビリティの考え方そのもの。
さらに2019年、上智学院の設立母体であるイエズス会が、これからの10年で優先的に取り組むUAPs(ユーエーピー)(4つの方向づけ)を掲げました。その4つを平易な言葉に置き換えると以下の通りです。
①弱い立場の人たちを大切にすること。
②私たちが暮らす地球の環境を大切にすること。
③未来を創る若者たちと共に歩むことを大切にすること。
④大切なことの中でも、特に大事にすべきことを選んで行える人になること。
これらUAPsとSDGsの取り組みを積極的に生かし、推進するための体制として設置されたのがサステナビリティ推進本部であり、学生職員なのです。
上智学院 総務局経営企画グループ サステナビリティ推進担当 高松 理沙さん 学教職の団結を強みに SDGsを推し進め 世界をリードする存在に |
~3チームそれぞれの視点で「より良い大学」を目指す
初年度の学生職員の募集は2021(令和3)年6月に行われ、10名が採用されました。学生からの反響は予想以上で、125名もの応募があったといいます。
学生職員は3チームに分かれ、ダイバーシティや環境に配慮した「キャンパス環境改善」、サステナビリティ関連の啓発イベントや企業・地域との連携などの「企画実施」、SNS やウエブサイトなどを通じた戦略的な「情報発信」といった役割をそれぞれ担います。
キャンパス環境改善チームで2期目となる学生職員の橋野陽和(ひより)さん(法学部国際関係法学科3年)は2年次で応募し、9号館のアクティブ・コモンズ屋上庭園の整備や家具選定などに携わりました。
「以前からSDGs やジェンダー問題に興味がありましたが、コロナ禍で学生生活がオンラインのため、学んだことを生かす場がないとの思いがありました。そんな時、掲示板で学生職員の募集を見つけ、自分に何ができるか挑戦してみようと応募したのです。9号館の庭園の整備にあたっては、さまざまな学生の声を集め、誰もがリラックスして利用できる空間を目指しました。利用を通じて何か気づきを得てもらえると嬉しいです」
キャンパス環境改善チームではほかにも、ユニバーサルデザインに配慮した案内サインの考案、キッチンカーへのマイ容器持ち込み認可など、学生の視点でキャンパス改善のアイデアを企画に落とし込み、実現させてきました。学内外へのコミュニケーションを中心に活動するのは情報発信チーム。
「インスタグラムやツイッターも、初年度ゼロからスタートし、現在は多数のフォロワーがいて学生にも認知されつつあると感じます」
と話すのは、3 期目の原田健さん(文学部英文学科4年)です。安全な水への平等なアクセスと脱プラスチック推進に興味を持ち、学生職員を志望したそうです。
「ウォーターサーバーはもともと四谷キャンパスに3台のみで、アクセスしにくい場所にありました。そこでキャンパス環境改善チームが利用率を調査し、混雑緩和のための増設を提案したところ、追加で11台設置されることが決まりました。情報発信チームでは、増設されたウォーターサーバーの設置場所やそのメリットについて、動画をまじえてSNSに投稿したほか、学内にポスターを掲示することで利用促進につなげています」
企画実施チームに配属されて2期目となる間森香奈さん(総合グローバル学部総合グローバル学科3年)は、2022年度の創立記念プログラムの一つとして、無自覚の差別行為(マイクロアグレッション)をテーマにしたセミナーを開催しました。
「時間的制限や突発的なハプニングがある中で進めることに苦労しましたが、他のチームも巻き込みながら、紙1枚でスタートした企画が形になっていく瞬間にやりがいを感じました。『難しいテーマなのに理解できた』『マイクロアグレッションの概念を、ネガティブではなくポジティブに捉えることができた』などの感想をいただき、企画を通じて思いが伝わったと感じて嬉しかったです」
※左から、原田健さん(情報発信チーム)、間森香奈さん(企画実施チーム)、学生職員の橋野陽和さん(キャンパス環境改善チーム)
~世界のリーダーを目指し大学ランキングも意識
学生としての視点を生かし、業務を遂行している学生職員ですが、学業が本分であるがゆえの難しさを感じることはないのでしょうか。専任職員の向井優哉さんは言います。
「ウエブ会議ツールも活用しながら、定期的にミーティングを行い、情報共有するようにしています。それでも、授業の空きコマや限られたシフトの中で業務をこなしていくので、時間調整はなかなかスムーズにいきません。工夫しながらコミュニケーションを重ねています」
上智学院 総務局経営企画グループ サステナビリティ推進担当 向井 優哉さん 学内のみならず 企業・地域とも連携し 問題解決を目指す |
推進本部が発足して3年目。学生職員の数は、2021年度の10名から、2022年度は12名、今年度は14名と、徐々に増加。彼らの提案力と行動力は期待以上だと、髙松さんと向井さんは口をそろえます。
「最近は指示しなくてもボトムアップで企画提案し、形にしてくれるようになってきていて、成長も感じますね。学生団体との連携も増えたし、窓口やパイプ役としての役割も定着してきました。活動に興味を持つ学生からの問い合わせも増えてきており、学生職員を志望して入学してきた新入生もいます」(向井さん)
キャンパス内の総合案内はユニバーサルデザインに配慮して刷新。庄司萌瑠さん(キャンパス環境改善チーム)も企画に携わった。
課題を感じていた情報発信力の面でも結果が現れてきています。先日発表された「THEインパクトランキング2023」では、SDGsの目標別に大学ランキングを出していますが、上智大学は目標14(海の豊かさを守ろう)で世界41位になりました。このランキングは、英国の高等教育専門誌『Times Higher Education』が2019年に始め、大学の社会貢献の取り組みを評価するグローバルな指標です。
「ランキングのために取り組むわけではありませんが、世界で選ばれる大学となるには、ランキングに参入していくことも大切です。マンチェスター大学(英。国)、西シドニー大学(オーストラリア)など、トップに入る海外の大学は、とにかく情報発信がうまい。ウエブサイトもわかりやすくて、参考にしています。今後は『学教職協働』で進めていることを強みとして、日本の大学、ひいては世界の大学をリードする存在を目指していきたい。そのためにもまず、私たち推進本部がリードして、引き続きサステナブルな環境づくりや意識の向上に取り組んでいきたいと思います」(髙松さん)
学生職員に望むのは、社会に出たあともリーダーシップを発揮してもらうことだと、髙松さんは力を込めます。
「マイボトルを持参する、食品ロスをなくす、誰にとっても見やすい資料をつくるなど、サステナビリティを意識することが当たり前になり、『こうしたらもっと環境が良くなるのではないか』と気づける人になってほしいですね。学生職員だけでなく、本学で学んだ全員がそういう意識を持つことを望みますし、社会に出たあとも、環境を整えていくリーダーとして活躍してもらえたら嬉しいです」
学生・職員・教員が一丸となってSDGsに取り組み、キャンパスから街、そして世界へ貢献していく。全学をあげての持続可能な活動が、持続可能な大学運営にもつながっています。
ペットボトル(プラスチック)の削減のためマイボトルに給水しやすいウォータースタンドを設置(写真は参画した庄司萌瑠さん)
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