広報活動

京都精華大学 京都国際マンガミュージアム

 一覧に戻る

Date: 2022.12.09

市&地域住民との協働で廃校舎が“MANGAセンター”に!

BILANC29京都精華大学「京都国際マンガミュージアム」

構成:秋山真由美 
撮影:森本真哉 
編集:プレジデント社

~開架図書は5万冊!日本最大のマンガ博物館

レトロな小学校の校舎を改修した館内を埋め尽くすのは、約5万冊のマンガ単行本。気に入ったマンガを手に取れば、館内のどこでも、庭の芝生で寝転びながらでも自由に読むことができます。
ここは、京都市中京区にある「京都国際マンガミュージアム」(以下ミュージアム)。開館当初から話題を集め、世界各国からマンガ愛好家が訪れます。
驚くのは、この施設が京都市と京都精華大学による共同事業だということ。京都精華大学は、2006(平成18)年に日本初の「マンガ学部」を開設したことでも話題になりました。もともと1968年、英語英文科と美術科を有する短期大学として開学し、1973年美術科に「マンガクラス」を開設。その後、1979年の4年制移行時に「マンガ専門分野」、2000年に「芸術学部マンガ学科」、2006年に「マンガ学部」へと発展させていきました。そして同年にオープンしたのが、このミュージアムです。
京都の中心地・烏丸御池という好立地で、小学校跡地を再利用したミュージアムを設立した経緯を、事務局長の山元英昌さんはこう話します。
「2001(平成13)年に表現研究機構マンガ文化研究所を開設した際、個人コレクターや古書店などから約20万点もの国内外の貴重なマンガ資料を寄贈していただきました。それらの貴重な資料が散逸してしまわないよう、きちんと保存・管理・活用していこうと、03年4月にマンガ図書館の構想を京都市に相談しました」
当初は受け入れられなかったものの、「単なる図書館にしないこと」「新産業の創出や人材育成などの機能をあわせもつ複合的な施設にすること」などを条件に、2003年12月、京都市がその構想に協力することに合意しました。しかし、開館までの道のりは決して平坦なものではありませんでした

BILANC29京都精華大学「京都国際マンガミュージアム」 京都精華大学
京都国際マンガミュージアム事務局長
山元 英昌さん

“あかん”と言われ
繰り返した三者間協議。
いまや町内会長です

~地元の信頼を得て実現した由緒ある小学校の活用

地元の信頼を得て実現した由緒ある小学校の活用行政の戸籍簿を備え、消防の役割なども果たしてきた、地域の中心的存在でした。住民の方々からは、“ そういう場所をなくすようなことは絶対にあかん。どこであろうと断る” とまで言われました」
小学校跡が地域にとって大切な財産であるとわかってからは、大学と市だけでなく、龍池学区の住民も交え、三者間協議が繰り返しもたれることになりました。その過程で龍池学区の住民から、続々と要望が寄せられました。
「何らかのかたちで、グラウンドを残してほしい」
「現在の校舎を生かしてほしい」
「地域活性につながり、子どもが来場できるものにしてほしい」
大学側は、それらをすべて満たしたうえで、マンガ文化が京都の新たな産業創出に寄与できること、地域住民のための生涯学習機能を持たせることなどを丁寧に説明しました。
「地元の小学校を使わせていただくのだからこそ、地元の人たちとの信頼関係をじっくり築いていく必要がありました。毎月、町内会の寄り合いや自治連合会の活動にも参加しました。当時は、マンガに対する理解度も低かったので、龍池小学校の歴史をマンガにして、ここにミュージアムを設置する意義をわかりやすく訴求したりもしました」
1年後、三者間で合意に至ったものの、「歴史ある京都でなぜマンガなんだ」という反発の声は根強かったといいます。
「風向きが変わったのは、当時の文化庁長官だった故河合隼雄氏がシンポジウムに参加してくれたことでした。『これからはマンガの時代であり、伝統文化を大切にしつつ、新しい文化を受け入れる土壌のある京都にこそ、マンガ文化の拠点をつくる意味がある』と発言し、設立趣旨に賛同してくれたのです」

~「日本初の施設」として試行錯誤を重ねていく

かくして、2006年11月25日にオープンしたミュージアム。初年度の来館者数は10万人ほどでしたが、コロナ禍前の2019年度には27万人以上を記録。うち7万人以上が、フランス、イギリス、アメリカ、中国などから来た外国人旅行者だったといいます。また10年にはのべ100万人を達成しています。
広報の中村浩子さんは来館者の推移をこう分析します。
「一般的に文化施設の場合、開館当初は来館者数が多くても、徐々に減っていくというのが定説です。それが幸いにも、国際的に日本のマンガが注目される流れに乗って、来館者数は増えていきました。マンガがいろいろな文化や事象とも結びつき、多様な人々に愛されていることを実感しました」

 
BILANC29京都精華大学「京都国際マンガミュージアム」 京都精華大学
京都国際マンガミュージアム広報
中村 浩子さん

市や地元の方々との
信頼関係を積み重ね
認知度を高めていきたい

司書の渡邉朝子さんも、オープン時を次のように振り返ります。
「最初は子どもの利用が多いのではないかと予想していましたが、蓋を開けてみれば年配の方が多く意外でした。『のらくろ』を読みたくて来館したと話される方も多くて。マンガのファン層は本当に幅広いのだと実感しました」
博物館でも美術館でもない、マンガを総合的に扱う“日本初”の文化施設として、爆発的に認知されていったミュージアム。しかしその裏側では、前例のない課題を乗り越えるため、職員同士や関係者との意見交換やコミュニケーションが活発に行われていました。中村さんが話します。
「ありがたいことに京都市からは、土地と建物を30年間無償で借りています。私たちとしては、市や地域の方との信頼関係を守りつつ、館の認知度を高めていくことが大事だと思っています」
その一方で苦労も尽きません。山元さんが説明します。
「施設整備・改修、空調設備、資料の保管費などのランニングコストは大学持ち。築90年以上の建物の維持だけでもかなりの金額です。大学側としては、収益を考えなければならないというプレッシャーもありますし、コロナ禍など予想できない部分もありました。オープンして16年になりますが、いまだに試行錯誤しているところです」大きな展覧会の開催は毎年3回ほど。外部からの持ち込み企画が実現することもあり、作家や研究者を招いた講演会なども開催しています。とはいえ集客や予算のことを考えると、研究的すぎても、商業的すぎてもいけないそうで、そのバランスを取るのが難しいとのことです。また、収蔵庫にはキャパシティがあり、増え続ける資料をどう管理するかが悩みの種だと、渡邉さんは話します。「今では年に1度、話題の作品や各マンガ賞を受賞した作品などを中心に厳選して収集しています。空間には限りがありますし、一つの施設がすべてのマンガを保管するのは不可能です。ここでは、日本のマンガ文化の拠点として歴史的な雑誌・単行本、原画などを中心に収集しつつ、全国各地に増えつつある類似施設と連携しながら、各館の所蔵情報を共有して相互利用できればいいのかなと。文化庁のマンガ原画・刊本アーカイブ事業にも関わっていますが、日本全国のマンガミュージアムが手を携えて世界にマンガ文化を発信していけたらと思います」

BILANC29京都精華大学「京都国際マンガミュージアム」 京都精華大学
京都国際マンガミュージアム司書
渡邉 朝子さん

1000年先を見据えた
収集・保管・公開と
研究者の人材育成を

~後世までマンガ文化を継承・発展するために

旧校舎を改修した館内には地元の集会所も設置されており、閉館後のグラウンドや体育館は、地域の少年野球やゲートボールなどの活動場所であり、選挙の投票所としても開放されています。
町衆が設立した時代から変わらず、地域コミュニティとしての機能は失われていません。山元さんは、なんと町内会長も務めているそうです。
「職員も地域の一員として、清掃活動や体育祭、夏祭りなどに参加しています。体育祭の日にはグラウンドに地域の人たちが600人くらい集まるんですよ。私たちも一緒に走ったりして、翌日は筋肉痛です(笑)」
すっかり京都の街に溶け込み、マンガ文化の拠点として知られるようになったミュージアムですが、元龍池小学校の土地・建物を京都市から無償で借りられるのは、2036年までの残り約14年です。
「1200年続く京都の歴史から見たら、ミュージアムの歴史は点のようなものですが、30年といわず100年、1000年先まで残ってほしいですね。大学として貴重な文化資料を後世に残していくことや、マンガ文化を京都から世界に発信していくことに意義があります。さらにいえば残すだけでなく、どう生かすか。総合的な研究を担う世界でも数少ない総合マンガ文化施設として、継続した活動が大事だと考えています」(山元さん)
さらにもう一つ、「人材育成」という大きなテーマがあると渡邉さんが続けます。
「マンガはすでに研究対象になっていますから、研究テーマにかかわらず、『資料としてのマンガ』という観点も見過ごせません。一方マンガ文化は、社会とは切り離せないものでもあります。マンガにかかわらず若い研究者は、任期付き雇用や非正規雇用などで不安定な雇用環境にあり、生活の保証もありません。大学単位にとどまらず国として、学術発展と後継者育成のために、若手研究者の雇用や育成について、抜本的な解決を目指さなければならないと思います」
歴史と伝統を守りつつ、新しい文化を受け入れる土壌のある京都だからこそ実現したマンガミュージアム構想。その背景には、地域の一員として深く関わりながら、大学としての役割を果たそうとする教職員の熱意と信念がありました。

※ 私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

 一覧に戻る

Top